第17話

 ボージはバツの悪そうな顔を浮かべながら、俯きがちに私たちの方に歩み寄ってきた。



「ボージ? こんなところで何してるの? 私たちをずっとつけていたの?」


 タッカーはさっきまでの温厚な表情とはかけ離れた、鋭い目つきでボージを睨んでいた。かなり警戒しているようだ。無理もない。タッカーとボージは知り合ったばかりでそれほど信頼関係がないばかりか、畑での不可解な出来事を考えれば、タッカーにとってはボージだって警戒の対象となるのもわからなくはない。



「いや、そんなつもりはねえんだけどよ…」



 ボージは相変わらず歯切れが悪い様子で、人差し指でぽりぽりと頭を掻きながら、もごもごしている。確かに、少し怪しい。



「はっきり喋りな」



 タッカーはピシャリと言い放った。落ち着いてはいるが、声にどことなく緊張を感じられる。



「あのよ、畑でのこと、あったろ」



 まさか。ボージの口からその件の話題が出るとは。ボージは何か知っているのか。



「言いにくいけどよ。セルナとセルナの父ちゃん、酷いことしてるって噂になってる」



「どういうこと?」



「ウチのブドウ、王宮に受け入れられなくなったんだよ。村長とウチの親父で王宮に行った時にさ、国王に謁見できたのは村長だけだったみたいなんだけど、その時に直接言い渡されたみたい」



「それは悲しいわね…。だけどそれでどうして私たちが村八分になるのよ?」



「その時国王は、ウチのブドウは上納品として認めないって、バレンシア家が決めたって言ったみたいなんだよ」



「待って! 私たちそんなこと言ってないわ!」



「まあ待って、セルナ。話を最後まで聞こう」



 タッカーが私を諌めた。その様子を見て、ボージは話を続けた。



「それに加えて、ウチのブドウを市場に流通させないよう、市場にもバレンシア家が指令を出したって、村長と親父が言うんだ。セルナ達があんな扱いを受けているのはそれが理由だよ」



 ボージは話を終えると、がっくりと項垂れた。ひとつも身に覚えがないし、今の話がボージが私たちをつけることの説明にはなっていない。



「ボージ、その話が今あなたがここにいる理由と何か関係あるの?」



 ボージは再び顔をあげた。


「でもよお、俺、セルナ達がそんなことするなんて、どうしても信じられなくてよ! 本当はどうなのか確かめたかったんだ! でも、村の人たちの目もあるし、セルナ達が人目につかないところにきたら話かけようと思って、タイミング見てたんだ!」



「それじゃあ不審者じゃん」



 タッカーは吹き出した。私も少し安心した。ボージの良心からくる行動だったのか、と。

 私たちは何も、ボージ達が不利になるような取り決めや指令はしていないと説明した。ボージもわかってくれたようだった。



「でもよ、俺、悔しいぜ。セルナ達はこんなに優しいのに、こんな濡れ衣を着せられて」



「ボージ…」



 みんな黙り込んだが、やがてタッカーが大きな声をあげた。



「よし! 我々の身の潔白を証明しよう!」

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