第14話

☆王宮にて☆

 国王とテレスが外遊で国を留守にしている間、王宮で最も声が大きかったのは、王族の人間ではなかった。いや、厳密にいうといずれ王族の仲間入りはするのだろうが、今は臣下の人間。イザモアだった。もちろん、国王と王太子が留守にしているからといって、消去法によってイザモアが王宮において1番の権力者になるかというと、決してそんなことはない。何故ならバルデン王家、すなわち国王の息子たちは他にもいるからである。自然に考えたら、バルデン15世の長男であるルザルが最も高い地位に、臨時的にであろうが君臨しているはずだ。それなのにあろうことか、イザモアはそのルザルを顎で使い、事務仕事を押し付けていた。



「おいノロマ! さっさとやりなさいよ! いったいぜんたいこれだけの作業に何時間かかってんのよ、だから王太子の座から引き摺り下ろされんのよ、フフ」



 自分の言葉に、下品な笑みを浮かべる始末である。まったく、イザモアはいくら顔立ちがはっきりして美人であろうと、品性に欠ける。人間性が顔に滲み出ているのだ。一方でルザルは、あまりに理不尽な要求に加え、デリケートな問題を刺激されても、嫌な顔ひとつせずにイザモアの言うことを聞く。そしてそんなルザルの軟弱な態度がますますイザモアを増長させる。



「終わったらこの部屋も掃除しておきなさい、このグズ!」



 自分の仕事部屋にも関わらず、唾を吐き捨てると、イザモアは部屋を出ようとした。




「あっ、イザモアさん!」



「あぁ? 何よ、このグズ男! 私に何か文句があるのかしら! アンタみたいなグズが王太子テレス様の婚約者にたてつこうなんざ、1000年はやいわっ!」



 用件を聞きもしないうちに罵詈雑言を浴びせてくるイザモアに怯まず、ルザルは笑顔で対応した。



「違うんだ。1度聞こうと思っていたんだけど、聞けなかったことがあって。イザモアさんは、弟のどこに惹かれたのかなって」



「ああ」



 イザモアはさっきまでとはうってかわって声の調子を落とした。そして冷ややかに言い放った。



「私があんな気分屋のナルシストを好きになるわけなんかないでしょう。もちろん、お目当ては財産よ。それに名誉ね。それ以外には何もないわ。もちろん、愛なんかないわよ」



「なるほど」



 これには流石のルザルも苦笑いを浮かべた。



「アンタ、絶対この話、誰にも言うんじゃないわよ。あのグズ国王なんかに知れ渡ったら厄介なんだから」



 そう言ってイザモアは、部屋を出ていった。静まり返った部屋で、ルザルは1人、膨大な仕事とともに取り残されることとなった。



「はぁ」



 ルザルはため息をつき、雑巾で床を拭き始めたのだった。

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