第11話

 王都に到着したパーラック村の村長と自慢のブドウ畑を荒らされ傷心のボンセは、迷わず王宮へと向かった。

 王都はパーラック村とは違い、王国の都にふさわしい「風格」というものを備えてる。それは道行く人々の服装や自信に満ち溢れた歩き方を見れば明らかなことだった。しかしそんなことに注意する余裕は、今の2人にはなかった。とりわけボンセの頭の中は、国王及び王家の人間たちに対する申し訳なさでいっぱいであった、


「国王になんとお詫びしたらよいか…!」


「ボンセさん」


 その先は何も言わず、村長は彼のボンセの肩に手を置いた。ボンセの表情は、最後まで明るくならなかった。

 手続きを取り、王宮へと足を踏み入れた2人だったが、中にいた役人に呼び止められた。


「バッキア・ボンセはどちらですか?」


「私ですが…」


 ボンセは不安な面持ちでそう答えた。


「バッキア・ボンセ。国王はあなたの謁見をお許しになりません。そちらのあなただけお入りください。パーラック村の村長として」


「ど、どうしてですか!?」


 思わず村長は叫んだ。ボンセは何かを悟ったように、空虚を見つめている。


「とにかく、いいから中へお進みください」


 村長は仕方なしに、王宮の奥へと進んでいった。

 取り残され、挙句のあてには王宮の外へ追い出されたボンセは、生きた心地がしなかった。


ボンセの家は、代々ブドウを育ててきた。「パーラック村といえばブドウ」。その光栄あるイメージを壊さないよう、繊細な気遣いを持ってボンセの父も祖父も、ブドウと接してきた。そしてその過程においてボンセ家の努力が国王に認められた。この誇りを、唯一無二のブドウを、ボンセは息子のボージにゆくゆくは受け継ぐつもりだった。


「それなのにワシは…」


 思わず涙が溢れる。涙脆いのは年齢のせいではない。責任感が強いからこそ、理想と現実との乖離に苦しめられることになるのだ。

 道行く人々が、ボンセのみずぼらしい服装に目を止める。ひそひそ話をする者もあった。それでもボンセはその中のひとつも気にならないどころか、まるで気づかなかった。


やがて村長が王宮から出てきた。もう1時間ほど待っただろうか。随分と長い時間、国王に謁見していた。


「村長…!」


 村長は思いつめた表情でボンセを見つめた。その瞳が、すべてを物語っていた。それでもボンセは信じたくなかった。村長から直接言われるまで、何事も信じたくなかったのである。


「村長…! ワシのブドウは、ブドウは世界一ですな…!」


 村長は何も言わず、ゆっくりと首を横に振った。ボンセには、村長が何を、ボンセの何を否定したのか、まるで判断がつかなかった。

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