本作はレイティング対策も万全です

 フィスタは通信を切るのと同時に、同じ部屋にいたプライベーターのディアナにアイコンタクトをする。

 そしてふたりは隠れていたマンションの一室から顔をのぞかせて一斉に叫んだ。

「きゃ~!!」

「……おい見ろ、女だ!」

 叫び声につられたマステマの三人の手下が、フィスタたちのいる部屋へ入ってきた。

「おい! 顔を見せろ!」

 手下の一人がフィスタに近づく。

「きゃ、きゃあ~!」

 フィスタは身を縮めて男を恐れているふりをする。

「顔を見せろっつってんだ……。」

「ひ、ひぃっ」

 そしてフィスタは手下を恐れるように身を縮めた姿勢から、海老蹴り※で男の金的を蹴り上げた。

(海老蹴り:躰道の技法。相手に対し、両手が地面に着くほどの勢いで体を傾けながら背を向けて、その力の流れ利用して後ろ足で蹴り上げる技。)

「ごぶぅ!」

 フィスタはすぐに悶絶している男の襟を掴んで引きずり倒し、そして体を傾けた。

 そのフィスタの後ろにはコンパウンドボウ※を構えたディアナがいた。

(コンパウンドボウ:滑車とケーブル、てこの原理、複合材料など力学と機械的な要素で組み上げられた近代弓。保持力に優れ、引く時の90%の力で引いた形を維持できる。また、射程と有効範囲も旧来の弓よりも長い。)

「あ」

 ディアナがコンパウンドボウで、フィスタに倒された男の背後にいた手下の胸を穿った。飛距離が300mになるというコンパウンドボウの近距離での人体に向けての使用、矢の先端は背中を貫き、その勢いで手下は吹っ飛ばされた。

 三番目の男に対して、フィスタはジャケットの懐からツイストダガー※を抜き出して襲い掛かる。

(ツイストダガー:3つ刃が螺旋状になっている、刺突専門のナイフ。これで刺されると、縫合が不可能なほどに傷口がえぐれ血管が切断される。)

「くっ」

 男は手に持っていたサバイバルナイフを突き出す。フィスタはその刃をミリ単位で避ける。そして男が突き出した手首を掴み、男の前腕をツイストダガーで貫いた。

「あが!」

 男が激痛でサバイバルナイフを手から落とすと、フィスタは男の負傷した右手首を両手で掴み、四教※で相手の動きを封じつつ、さらに腕を捻り上げて肩の関節を外した。

(四教:合気道の技法。相手の手首を両手で掴み内側に捻りつつ肘と肩の関節を極め、痛みで相手の体が伸びたところで手首をさらに背中側に回して相手を転ばせる。)

 フィスタとディアナはお互いにうなづきあうと、一斉に部屋から外に飛び出した。

 外ではマンションの通路の両側からマステマの手下たちがこちらに向かっていた。

 女がここにいるという情報を敵に見せることで、ターゲットのフィスタとルーシーがマンション内に留まっている可能性をにおわせる作戦だった。

 ディアナは通路の左からくる敵を迎え撃つ。彼女がコンパウンドボウを放つと300mを飛ぶコンパウンドボウの矢は二人を同時に貫いた。

 右から迫る敵に挑むフィスタ、右足でマンションの壁を蹴りつつ跳び上がり、空中にいる状態での右のミドルキックで敵の顔面を蹴り飛ばした。顔面を蹴られた男は勢いのままに通路の柵を飛び越え、三階から下に落ちていった。

 後ろの男にはジークンドーのストレートリードで顔面を穿ち、怯んだところを前蹴りで金的を蹴り上げ、悶絶しているところをドロップキックで吹き飛ばした。

 吹き飛ばされた仲間を抱えるようにして、後の男たちが通路につっかえもたついていると、フィスタはツイストダガーを持って突進し、男たちを螺旋状の刃物で首、心臓、肺、急所を躊躇なくめった刺しにする。

「ん!?」

 敵が銃を持っているのを確認すると、フィスタは廊下の柵に飛び乗り、そのまま飛び降りたかと思うと、柵の下部を右手で掴んでから振り子のように下半身を振り、左手で柵の下部を掴むと勢いよく体を引き上げた。

 次に通路に戻った時、一瞬にしてフィスタは男たちの背後についていた。

「な!?」

 フィスタは再びツイストダガーで男たちに襲い掛かった。

 男の一人が銃を向ける。

 フィスタは指がトリガーを引く0コンマ1秒早く体をそらし、弾丸の軌道から身を外した。

 二度目の銃撃、やはりフィスタは常人離れした動体視力で体をそらして弾丸の軌道から身を外す。

 フィスタは自分の間合いに入ると、ツイストダガーを銃を持っている手に突き出した。相手の手首がずたずたに切り刻まれる。

「かっ!?」

 返す刀でフィスタは敵の喉にツイストダガーを刺す。刃が喉を貫通して、首筋からは刃先が飛び出ていた。

 フィスタは喉を貫かれた男を盾にしながら残りの敵に迫る。敵は銃撃してくるが、フィスタは瀕死状態の男を盾にして近づき、男の陰から奪い取った銃で反撃する。

 フィスタはひとり、ふたりと敵を倒していくが、残った敵も瀕死の仲間を盾にして、最後は互いに人間を盾にしながらの銃撃戦になっていた。

 フィスタの銃が弾切れとなり、むなしい空撃ちの音が響く。

「あっ」

 男はにやりと笑いフィスタを狙う。

 フィスタは盾にした男を蹴り飛ばして、銃を構えた男にぶつける。

 男は肘で飛ばされた男を退けようとすると、フィスタがすでに間合いまで近づいていた。

「くそっ」

 銃口がフィスタの顔を狙う。フィスタは両手で銃身を握り、銃口を自分から逸らした。銃口から三発の弾丸が発射されるが、いずれの弾丸もフィスタの顔を外れ、マンションの壁に穴をあけるだけだった。

 銃の奪い合いになってもみ合う二人、男の力で強引に銃が奪われそうになる。

 フィスタは銃身を握りしめたまま廊下の柵を蹴り、その場で大きく側転をした。フィスタは体重の乗った回転の力で銃を奪い取ることに成功した。

 フィスタは側転で着地すると同時に発砲して男の脳天に風穴を開けた。

「あ、ディアナ!」

 通路の反対側を相手していたディアナがコンパウンドボウを奪われ危機に陥っていた。押し倒され、手で押し返しているがナイフを突き刺されそうになっている。

 フィスタはディアナにのしかかっている男に発砲する。頭を撃たれ男が倒れた。

「大丈夫、ディアナっ?」

「な、なんとか……。」

 ディアナが脇腹を押さえながら立ち上がる。

「刺されたの?」

「大丈夫、そんなに深くないから……。」

 食いしばりながらディアナは立ち上がる。

「無理そうなら隠れててっ」

「女だからって怪我したら労わってもらおうなんて思っちゃいないよ……この仕事始めた時からね」

「かっこい~」

 ディアナは立ち上がると、黒髪をパール色のリボンで束ねてポニーテールを作った。そして胸元のケースから錠剤を取り出し、口に含んで歯で噛み砕いて飲み込んだ。

「ふぅ~~!」

 気合を入れなおしたようにディアナは大きく呼吸をする。

「それってもしかして、危ないお薬?」フィスタが訊ねる。

「ミント味のタブレット」

「レイティング対策ばっちり!」

 フィスタたちを見つけると、反対側の棟にいるマステマの手下たちは銃でこちらを狙ってきた。鉄の柵やマンションの壁を銃弾が穿つ。20メートル離れた場所からの拳銃では容易に対象を狙えるものではなかった。

 しかし、一方のディアナは次々に対面の手下たちに狙いを定め、そして射抜いていく。

「ひょ~、まさに狩人だね」

「狙うという事がなっちゃいない。狙うってのは目だけじゃない、自分の全てを使って相手を捉えるものなんだよ」

 そう言って、また次々とディアナはマステマの手下たちを射抜く。

「体で、心で……相手の体だけじゃなくて存在を射抜く……。」

 ディアナの言う通り、マステマの手下たちはディアナに銃弾を当てることが出来ないが、ディアナの矢は百発百中だった。

「……ん? ディアナ……。」

 フィスタの視線の先にはマステマの腹心のヤスケがいた。身長2メートルを超える大男だ。

 ディアナはすぐにコンパウンドボウをヤスケに向ける。

「ワ~オ!」

 ヤスケは全く動じず、それどころか楽しそうだった。

 矢を放つディアナ。

 ヤスケは倒れている仲間を拾い上げ、それを盾にして矢を防いだ。

「何て奴!」

「ハハハッ」

 ヤスケは満面の笑みを浮かべて仲間をフィスタたちに向かって投げつけた。

 ディアナはその飛んできた男を避けるが、その隙にヤスケはまた倒れている男を両手に持って盾代わりにして突撃してくる。

 フィスタとディアナはそれぞれ銃とコンパウンドボウでヤスケを狙うがヤスケには当たらない。

「やばっ、ディアナ退いて!」

 フィスタはディアナの服を引っ張って後ろに押し倒した。

 それと同時に、迫ってきていたヤスケの左フックが大きく空振りしてマンションの壁にぶち当たる。老朽化しているとはいえ壁に大穴が開いていた。フィスタが引っ張らなければディアナの命を絶っていただろう。

「ハッハ~!」

「化け物!」

「ディアナ、下がってて……。」

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