~After~どうして……

 夜の九時を過ぎても、外はいまだひどい雨だ。

 緋月はあれからスマホを見てはソワソワしている。

 緋月のお父さんからの連絡を待っているのだ。


「……」


「……」


「……あ、来た……。

え…っと……。


……はぁ……よかった……」


「……お父さん……なんて……」


「このまま会社に泊まるみたいだ。

明日の朝一に一度帰ってきて身支度整えるって言ってる」


「よかった……」


「……俺の事も心配してくれてるけど……。

俺はこのまま……ここにいてもいいか?」


「いいよ」


「……サンキュ、無事って伝えとく」


 緋月がお泊り……。

 さっきの事も相まって、また意識しちゃうな……。


「どした? そんなにジッと見て」


「……ううん……なんでもない」


「……。

大丈夫だよ、何もしない」


「……うん」


 それはそれで……寂しいような……って、何を言ってるんだろう。

 でも……あれから触ってこないな……。

 キスはするけど……それ以上はないし……。


「……緋月」


「ん?」


「呼んだだけ……」


「……。

寂しくなった?

触ってほしい?」


「ち、違うし! 緋月のエッチ!」


「ふっ……ウソウソ、ごめん」


「もぅ……」


 でも……。

 触って……なんて、恥ずかしくて言えないよ……。

 手を……握るくらいなら、いいよね……。


 あ……握り返してくれた……。


「……そろそろ寝るか……」


「うん……」


 ベッドに移動したのは良いものの……ね、眠れない……。

 緋月は……もう寝ちゃったかな……。

 ……寝てる……。


「好き……」


 わー……ほっぺにチューしちゃった!

 恥ずかしい!! 寝よ!!


 あれから本当に何もなく朝を迎えた私達。

緋月は朝早くに一度家に帰ってから学校に来る事になった。


***


 初の緋月と二人きりのお泊りから数週間後のお昼。


 あれからというもの、緋月は……何もしてこない……。

 お触りどころか、キスすらしない……。

 タイミングはいくらでもあった……。


 前はあんなにしていたのに……なぜ?

 二人で帰る時もほとんどなくなった。

 手を繋ぐ事もなくなったんだ。



「……葵ちゃん……私、魅力ない?」


「え、すっごく魅力的だよ。

急にどうしたの?」


「……キスとか、お触りとか……したくなる?」


 って、こんな事葵ちゃんに聞いてどうするんだ、私。

 同じ女の子同士なのに、キスとか、なんとか答えにくいじゃん。

 バカなの、私? バカだよ。


 あ、ちなみに今はお昼休憩中で、いつもの屋上に葵ちゃんと二人きり。

他のオサナ組の男子達は、選択授業が遅れてるみたいでまだ来ていない。


「え、理央ちゃんが相手ならいくらでもチュウもギュウもするよ。

……してもいいの?」


「え……」


 わ……葵ちゃん……顔近い……。

 可愛い顔なのに、目が本気だ……不覚にもカッコいいと思ってしまった……。

 というか、マジで、葵ちゃん?!

 さすがに、これは……マジで?!


「……ふふっ……なーんてね」


「へ……」


「ふふっ……理央ちゃん、顔真っ赤」


「あ……あの……葵ちゃん、顔……近いまま……」


 どひー……可愛い顔がドアップ……これは……少し動けばキスしてしまうのでは?!


「……何やってんだ……葵……」


「とうとう葵が理央を襲い始めましたか」


「違うよ!理央ちゃんに誘われたんだもん!


というか、悠ちゃん、空気読んでよ!

もうちょっとでチュウ出来たのに!」


「とか言って、そんなのする気ないくせに」


 あ、皆戻ってきた。


「ごめんね、理央ちゃん、冗談だよ。

だけど……ギュウはする……」


「葵ちゃん……」


「緋ーちゃんと……何かあった?

私に言いにくい?」

 

 葵ちゃん……耳元で小声で話してくれてる……。


「……葵ちゃん……今日……お泊り来て……」


「いいよ」


 葵ちゃんには敵わないな……。

 私も葵ちゃんをギュッと抱きしめて、皆に聞こえないように耳元で話した。

 話してみよう……話したら、少しは気持ち、晴れるかな。


「お前ら……いつまでそうしてるんだ?」


「悠ちゃん、うるさい!!

理央ちゃんとのイチャイチャ邪魔しないで!!」


「へーい」


 緋月……向かい側に座った……。

私の隣りには……隼人が座った。

 付き合ってからは隣に座ってくれてたのに……。


 しかも、またスマホ見てる……。

 最近多いな……私の近くにいない事も、スマホを見る事も、多くなった……。


 何を見てるんだろう……。

 そんな風に嬉しそうな……優しい顔で……私も……あんな顔で見て欲しい……なんて……。

 これじゃ、付き合う前に戻った気分だよ。


「理央?

どうしました?

お昼……食べないのですか?」


「……食べる。」


「……。

理央」


「ん?」


「はい、あーん」


「むぐ?!」


「美味しいですか?」


「ひょっ、はや、と……なに」

 

「ふふっ…理央の好きな玉子焼きです。

もっとありますよ。

他のがいいですか?」


「い、いいよ、準人のおかずがなくなっちゃう」


「それなら……理央のもらいます」


「え……。

あーー!! 準人のばかぁ!!

そんなに一口大きく食べる事ないじゃん!! 陸じゃあるまいし!!」


「あ?! もういっぺん言ってみろ?!」


「理央のサンドイッチ、相変わらず美味しいですね」


「美味しくなるように作ったんだよ!!

あー……最後の一個だったのに……」


「俺のあげますから」


「……コロッケ……」


「はい、どうぞ」


「ん……」


 準人ったらもう……何を考えてるのやら……。

 あ、緋月と目が合った……って……あれ、またスマホに視線戻った……。

 というか、目が合った時……無表情だった……。

 前は……目が合ったら、微笑んでくれたのに……。


 私に……興味ないって事?


「……。

緋月も頑固ですね……」


「ん? 準人、何?」


 準人が何か言ったように聞こえたけど、うまく聞き取れなかった。


「いいえ? 他のも食べますか?」


「いやいや、もういいよ、ごちそうさま!」


 そうしてモヤモヤを抱えたまま一日を過ごし、この日葵ちゃんと私の家で二人、女子会をしたんだ。

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