中川兄弟と生徒会会長4
ピポパポーン
『えー、高等部一年○組みの中川浩君、同じく一年○組のリュッセル・澄・ファボット君、至急高等部生徒会室生徒会会長夢見野玲那の所までお越しください。絶対至急だから、寄り道しちゃ駄目だよ!特にひろちゃんは!』
ピポパポーン
放課後、ホームルームが終わった直後だった。
玲那さんが、僕たちを学園中に流れるマイクを使って、学園に全生徒に聞こえるように僕たちを呼び出した。
「んだよあれ!ぜってーあいつ俺たちの事を遊んでいやがる」
浩は怒っていた。
「あれ・・・遊んでいるの?」
「普通、あんな呼び出し方しねーだろ?」
「確かに言われてみればそうだけど・・・」
浩を遊ぶ玲那さん見ていれば、こういう事をして浩を呼びだして遊ぶのはありかと僕は思ってしまった。
「玲那さん、僕たちを呼び出してなんのようだろうね?」
「俺が知るか!」
あんな呼び出し方をされて浩はずいぶんと怒っていた。
「そんなに怒らないで、早く玲那さんの所に行こう?また遊ばれるよ」
急いで帰る準備をして、教室を出た。
「早く行くよ!ひろだけなら別にいいけれど、僕だって玲那さんに呼ばれているんだかから、早く早く!」
のそのそと歩くだけ。全然急ごうとはしない。
「別にいいじゃねーか。どうせたいした用もないくせにただ、俺たちを呼び出しているだけだっつーのあいつは」
そうかもしれないけれど、本当に用事があるから呼び出していたら、困る。
「めんどくせー」
「なにがめんどくさいってひろちゃん」
「げっ、玲那!」
「遅いから迎えに来ちゃった!」
高等部の校舎を出るところだった。
玲那さんが、校舎の前で車を止めて仁王立ちをして僕らを待っていた。
「ごめんね、玲那さん。僕、ひろに早く行こうって言ったんだけど・・・・」
「別に、きーくんが謝る事はないわ。悪いのはぜーんぶひろちゃんだから。さぁ、車に乗って!」
黒服を着た男の人が車から降りてドアを開けて待ってくれている。
車に乗り込んだ僕たちは、てっきり生徒会室に行くものだと思っていたけれど、違った。
「おい、俺たちを何処に連れて行くつもりだ?」
「パパの所よ!パパね、きーくんに会ってみたいんだって!だから、連れて来いって言われちゃった」
「お前、きよの事を話したのか」
「ええ話したわきーくんがこの学園に来たと言う事をね。でも、もともとひろちゃんがきーくんの事を話したから、会ってみたかったのも、そのせいじゃないの?別に私のせいじゃないともうよ?」
玲那さんのお父さんはこの学園の事業には関わっていないらしく、個人で企業をたてていて、それもすごい勢いで展開して毎日忙しいらしいが、どうやら今日、偶然時間に空きが出来たらしく、僕に会いたいと言ってきたみたいで、急遽僕たちを放送で呼び出したみたいだった。
それなのに、浩がなかなか来ようとしないからと言うことで玲那さんが迎えに来たという。
「どんな人なんですか、玲那さんのお父さんって」
「うーん、そうね・・・・他人にはとても厳しいけれど、私にはすごく甘い人かな?言えばなんでもしてくれるし、とっても優しい人よ。多分、会えばどんな人か人目で分かると思うわ」
玲那さんを見ていればどれだけ優しい人なのか分かるけれど、実際会って見ないとその人のことは分からない。
「覚悟しとけよきよ。気にいらねー事があると、すぐに手をだしてくるからよ、あの人は」
「ひろちゃん、パパによく殴られるものね、悪さばっかりして。でもそれはひろちゃんが悪いだけで、別にひろちゃん以外はよっぽどの事ではない限り殴らないわよパパは」
殴られるといっても顔ではなく、拳骨を貰うだけみたいだ。
「どうだか・・・・」
窓に肘を置き、手に顎を乗せて、外を見ていた。
「多分きーくんはパパにすごく気に入られると思うよ。きーくんって人に好かれそうな顔をしているもの」
同世代はよく分からないけれど、祖父や伯父に連れられてパーティーに行くと、どうしてだか、特に何もしていないのに様々な世代の大人の人に気に入られる事が多かったりする。その為、どうしてだか。僕がいるとどんな困難な仕事の交渉が上手く行くと祖父や伯父によく言われたりする。
「気に入られるといいですけど・・・・」
「大丈夫大丈夫。絶対きーくんは気に入られるわ、私が保証する」
「まぁ、お前なら気に入られるだろうな」
社交慣れしているはずなのに、珍しく緊張していた。
気に入られる自信はないけれど、人との接し方は十分分かっているつもりでいる。
普段通りににしていれば大丈夫だと自分に言い聞かせて、どうにか落ち着かせた。
「そろそろ着くわよ」
学園を出てから数十分車で走らせた所だった。
前方にとても大きなホテルらしい建物が見えてきた。
正面に車を付け、車から降りると上を見上げても最上階が何処にあるのか分からないほど高かった。
ドアマンに誘導され、建物の中に入ると、とても豪華な内装だった。
大黒石で作られた柱と床、そしてその床の上には赤いカーペットが敷かれていて、壁には何処かで見たことがあるような絵画がいくつも飾っていて、天井にはすごい装飾のシャンデリアが吊るされていた。
こういった作りをしたホテルにパーティーで何度か行った事があるけれど、やっぱりいつ見てもすごい。
「ひろちゃん、きーくん、こっちよ。パパの所に案内するわ」
玲那さんに連れられて、エレベーターの乗り込んだ僕らは、最上階に行った。
最上階は二つのレストランがあるらしく、そのうちフランス料理を出すレストランに玲那さんのお父さんが僕らを来るのを待ってくれているらしい。
「パパっお待たせ!ひろちゃんはおまけだけど、きーくんを連れてきたよ」
レストランのボーイに案内され、玲那さんのお父さんが待っている席にやって来たが、玲那さんは父親にあえて嬉しいのか椅子に座っている父親の背中に抱きついていた。
「玲、そんなに抱きしめると首が絞まるだろ?もう少し加減をしてくれ」
「ごめんなさいパパ。でも、久しぶりにパパに会えて嬉しい!」
言われて一度は手を離していたけれど、再び同じようにギュッと抱きしめていて、
言われた意味がないような気がした。
「私の嬉しいよ、何せ玲に会えたのは半年振りだからな。さぁ、席に着きなさい」
僕たちがいつまでも立っていた、椅子を引いて座るのを待ってくれているボーイに失礼だった。
「久しぶりだな浩。私がいなかった間、私の可愛い玲に悪さをしていなかっただろうな?」
「んなことするかよ!されているのは俺の方だ!」
「ひっどーいひろちゃん。私がいつひろちゃんに悪さをしたっていつのよー」
言葉遣いからして、本気で言っているのではなさそうだ。たぶん浩はからかわれているのだろう。いつもは浩が玲那さんにあれだこれだと言って吠えているけれど、今日は逆で、玲那さんが浩に吠えていて、浩は聞く耳を持っていない。
その光景を見ている玲那さんのお父さんの顔がとても楽しそうに笑っているけれど、この人、会ったことある気がするけど、何処で会ったことがあるのだろう。最近だった気がするけれど、はっきり思い出せない。
「まぁまぁ、玲も浩で遊ぶのはほどほどにしなさい。それよりも、久しぶりだねリュッセル君。玲や浩に君の事をよく聞かせてもらっていたけれど、まさか君だったとは思わなかったよ」
「え?パパ、きーくんに会った事があるの?」
「去年の夏だったかな?とあるイギリスの企業の祝賀パーティーに呼ばれてな、その時に初めて会ったのだよ」
やっぱりあった事があった。
これまで祖父や伯父に数多くの人に会わされているため、どの人が何処で会ったのかいちいち覚えていられないけれど、こんなに印象が強い人なら忘れようと思っても忘れられないであろうと言う人なのに、どうして忘れていたのだろう。
玲那さんのお父さんは、何か格闘技系のスポーツをしていたかと思わせる体格をしていて、誰が見ても会社を運営している社長には見えない。
僕も初めて会った時、何処かのマフィアのボスでないかと思う顔つきをしていて、怖いと思ってしまったけれど、実際話して見るととても優しい人だったことを覚えている。
「まさか、ミスター夢見野が玲那さんのお父さんだとは思いませんでした。すぐに気が付かなくて申し訳ありません」
「いや、私もあの時、君が浩の双子の弟である澄君だって言う事を気が付いてればもっと早く教えてあげる事が出来たんだが、すまなかったね。教えてあげられなくて・・・・」
本当に優しい人だ。
初めて会った時、一瞬でも怖いと思ってしまった僕が恥ずかしい。
「ひっどーいパパ。私より先にきーくんに会っているなんて、ずるいずるい!」
「そう言わないでくれよ玲。私だって知らなかったのだから仕方がないだろう?それに玲も浩も澄君の名前をフルネームで教えてくれなかっただろ?」
「いい訳なんて聞かないもん。パパなんて知らない!」
プクーっと口を風船みたいに膨らませて玲那さんは拗ねてしまった。
「ねぇねぇひろ、ちょっとちょっと」
手を招き隣にいる浩を小声で呼んだ。
「玲那さんってミスター夢見野と会った時はいつもああなの?」
「いや、いつもじゃねーが、たまにああいうときがあるな」
顔を近づけて誰にも聞こえないように浩に自分が思っている事を聞いた。
僕が知っている玲那さんは、大人っぽく見えて、でも何処が強引なところがある人だと思っていたけれど、父親の前でただの女の子にしか見えず、本当に甘やかされて育ったのだと言う事がよく分かり、そんな玲那さんが可愛いと思ってしまった。
「何、楽しそうな顔を知るんだきよ?」
「なんでもないよ」
「可笑しなやつだぜお前は」
今僕が思っている事を浩に言うと絶対頭だとか目だとかおかしいとか確実に言われそうなので言わない。
「玲、そろそろ機嫌を直してくれよ。お前が機嫌を直してくれないと、いつまでも注文できないだろう?」
「勝手に頼めばいいじゃない」
完全に拗ねてしまっていてどうにか機嫌を取ろうとしているみたいだけれど、まったく聞く耳を持ってくれないらしい。
「玲那さん、お父さんを許してあげてくれませんか?僕らが会ったのはただの偶然だったのですよ?」
前もって誰に会えるのか分かればいいことだろうけど、それは招待状を送った主催者側にしか分からないし、分かった所でどうにかできるようなものでもない。
まして僕は伯父の通訳としてパーティーに出席しているので、向こう側も誰が来るのか分かるはずがない。
それを玲那さんは分かっているはずなのに、どうしても認めたくないみたいだ。
「・・・・・・・でも・・・・・」
「許してやれよ。きよもおっさんも会った時は知らなかったんだろ?拗ねるのはお前の勝手だけどよ、周りを巻き込むんじゃねーよ」
「・・・・・・・・・分かったわよ。許せばいいのでしょ?でも許すのはひろちゃんではなく、きーくんの顔に免じてだからね」
どうにか許してくれたみたいだけど、これは許すとか許さないの問題ではないと思う。
会ってしまったのは本当に偶然の事だし、いつ何処で誰に会えるのかというのは予定をしていない限り分かるはずがない。
「すまないねリュッセル君、いや澄君のほうがいいのかな?ありがとう、私一人ではどうにもならなかったよ」
「気になさらないでください」
「問題は解決したことだしよ、さっさと何か頼もうぜ。俺、腹減った」
豪快に浩のお腹が鳴っているのが聞こえる。
「お礼ではないが、何でも好きなものを頼みなさい。浩、今からワインを頼もうと思っているんだが、飲むか?」
「おっ、いいねー・・・・・・」
渡されたワインリストを楽しそうに眺め、なにやらぶつぶつを言い出した。
「この赤も捨てがたいが、この白も飲んでみたいな・・・・でも、頼むものにもよるよな・・・・・うーん、悩むな・・・・」
ワインの知識があるみたいだ。
「きーくんは、ひろちゃんがお酒を飲むの嫌じゃないの?」
「たしなむ程度なら僕はいいと思いますよ?ただ、体の事を考えない飲み方は嫌ですけど」
日本は二十歳未満の未成年がお酒を飲む事は法律で禁止されているけれど、海外では日本と同じように禁止されている国もあるけれど、そうでない国もある。
水が不衛生な場所では、お水の代わりにお酒を飲む所もあると聞くので、僕はある程度ならいいと思っている。僕は体の事があって医者からお酒を飲む事を禁止されていて、飲みたいと思っても飲む事が出来ないけれど、浩は飲みたいと思うなら飲んでほしいと。ただ、体を壊すような無茶な飲み方はしてほしくないと思っているだけ。
「だって、ひろちゃん。わかった?」
「んー・・・・・」
返事は返ってきたけれど、真剣に何を飲もうか悩んでいて僕たちが何を言っているのかまでは聞いておらず、ただ返事をしただけだろう。
「ねー、きーくん。何を食べるか決めた?」
「まだ・・・です」
メニューを見ていても何がどういった料理なのかよく分からない。
「じゃあ、適当に頼んでもいい?きーくんが食べられそうなものを言うから」
「お願いします」
こういったものは分かっている人に頼んでもらったほうがいいのかもしれない。玲那さんも僕に食事の制限が掛けられているのも知っているので、任せても大丈夫だと思う。
もし、僕が食べられないものがあっても、たぶん浩が食べてくれるだろう。
「よし決まった。もう、ソムリエに頼む。もう考えんのめんどくせー!あと、このコースと、食前酒にこれを頼むそれでいいだろおっさん!」
結局悩んで悩んだ末にワインのスペシャリストであるソムリエに頼む事にしたみたいだ。
「浩がいいと思うなら私は構わないよ。私は飲めればいいから」
浩にワインを教えたのはミスター夢見野だった。
初めて飲ませたのは十五の時で、元々は色々なワインの味を教えるため、口にワインを含ませたテイスティングだけだったというが、いつの間にか普通に飲むようになっていたらしく、今はそれなりのワインの知識を持っていて、下手なソムリエよりもよっぽどワインの事が分かるらしいという事を玲那さんが僕は何も聞いていないのに、聞こうとも思っていないのに教えてくれた。
料理を注文してからすぐにソムリエが食前酒に浩が頼んだワインを持ってきた。
あっさりとした少し甘めの白ワインらしい。ミスター夢見野がテイスティングをしてから、浩にワインを注がれ、当たり前のように飲んでいた。
それから間もなくして料理が運ばれてきた。それぞれ注文した料理が違うけれど、どれも美味しそうだった。
玲那さんが注文してくれた料理を食べながら、美味しそうにワインを飲みながらミスター夢見野と話している浩の姿を見ていた。
「何見てんだよきよ。もしかしてこれ、くいてーのか?」
そういうつもりで見ていたのではないけれど、なんとなく言ってみた。
「うん、食べたい」
「お前にとってあんまいいもんじゃねーから、少しだけだぜ」
前菜にしろ、主菜にしても基本野菜を多く使われている僕の料理と違って浩のはお肉を使った料理だった。
「浩は弟思いのお兄さんなんだな。感心したぞ!」
飲んでいたワインを置いて、浩の料理を僕のお皿によそってから、再び飲もうとした時にバシッと背中を叩かれたため、叩かれた拍子でワインが器官に入ったのか、ゲホゲホとむせこんでいた。
「げふっ・・・・・いってーなー・・・ああーもう、せっかくのワインがこぼれたじゃねーかよ・・・・もったいねー」
音からしてかなり強そうに叩かれていたと思うけど、あまり痛そうにしていない。むしろこぼれたワインの事を気にしている。浩らしい。
「パパもひろちゃんもあまり飲みすぎないでよ。ほどほとにしないと明日えらい目にあうわよ」
ついさっき白ワインを飲んでいたと思っていたのに、いつの間にかソムリエが選んだのであろうと思われる赤ワインを飲んでいた。
「こんなのまだ序の口だぜ?なぁおっさん」
「そうだな。浩の言う通りだ玲」
ワインを二本も空けておいてまだ二人は飲むつもりなのだろうか。
「いい加減にして。二人とも飲むなら家で飲んでよ。まったく、きーくんのこと、少しは考えてあげて!」
何処か切りの良さそうな所で無理やり止めないと二人は永遠と飲み続けているらしく、これまで何度も玲那さんが迷惑をしているみたいだ。
「僕なら大丈夫ですよ玲那さん。でも、ひろ?あんまり飲みすぎると、僕本当に知らないからね」
「・・・・・・・・・すまんきよ」
笑顔で一言僕が言うと、グラスに残っているワインを一気に飲んで、血の気が亡くなったような顔をして浩はコトッとテーブルにグラスを置いた。
「すっごーいきーくん。私が何を言っても止めないのに、あのひろちゃんを笑顔で止めさせたわ」
「だってこいつ、笑顔で言っていると思うが、目がそうじゃねーんだ。こいつを怒らせると誰よりもこえーよ」
普通に笑顔を見せているつもりだけど、浩はどうしてだかそれが怖いみたいだ。
「大人しい人が切れると怖いって言うものね」
「まったくその通りだよ。あーこえーこえー・・・」
「浩も恐れる事があるのだな。初めてそんな浩を見るぞ」
僕の笑顔を見て怖がっている浩を見て二人は楽しそうに笑っていた。
「笑いもんじゃねーよ!」
笑われてムカついたのか、不機嫌そうな顔でテーブルの上に肘を乗せた。
別に飲みすぎたら知らないと一言言っただけで、怒ってはいない。
ただ、いつまでもお店でお酒を飲んでいたらお店の人に迷惑を掛けるのではないかと思って言っただけなのに、浩がよく分からない。
「ひろちゃんがもう飲まないなら、ついでだし、パパも今残っているのワインを飲んでしまったら終わりにしたら?」
「うーん、そうだな。飲む相手がいないとつまらないし、終わりにするかな」
既に料理は平らげている。後はデザートを待つだけだった。
お昼を食べた後食べる予定だったフォンダンショコラが食べられなかったので、一体どんなデザートが来るのかと楽しみだった。
あまり甘いものは厳禁だけど、今はどんな物でも食べたい気分だったりする。
少量なら浩もあまり言わないだろうけど、普通に食べてしまったら怒られるかもしれない。
「嬉しそうだねきーくん。そんなにデザートが楽しみ?」
「はい、とっても楽しみです、でも・・・・」
浩の目を気にしていた。
「そんな顔をしなくても大丈夫よ。きーくんでも大丈夫そうなデザートを頼んどいたから」
そう言っているうちにデザートが運ばれてきた。
デザートは甘さ控えめの女性でも嬉しいヘルシーな豆腐を使ったデザートだった。
どんな味がするのだろうと思い、一口食べてみた。そしたらとても、豆腐を使っていると思えない滑らかな舌触りで、食感も軽く、泡みたいに口の中からなくなった。
「お・・・・おいしい!」
ベリー系を使っているのだろうか、丁度いい酸味と甘さでとても美味しい。
「良かったわきーくんに気に入ってもらえて。パパに言ってきーくんの為に作ってもらった甲斐があったわ」
「わざわざ僕の為に?」
「きーくんの体の事を分かった以上、こっちだって知らない振りは出来ないわよ。それにきーくんだけが食べられないなんて嫌だもの」
食事は皆で楽しむもの。せっかく食事をしに来ているのに、食べたいのに食べられないから、人が食べている姿を見ているだけど言うのがどうしても耐えられないらしく、そんな思いをしてほしくない、皆と一緒に楽しんで食べてほしいと、これを作るように頼んでくれたと言う事だった。
「おいきよ、食べねーなら俺が貰ってやろうか?」
「あっ、ちょっとひろ、人のとらないでよ!」
既に食べ終わってしまってまだ物足りなかったのか、人のを横取りしてきた。
とっさに取られまいとお皿を上に上げ全て食べられてしまうまえに死守する事が出来たけれど、三分の一ほど食べられてしまった。
せっかくゆっくり味わって食べていたのに、ショックだった。
「ははは、ひろは相変わらず甘いものが好きだな。そんなに食べたいのなら、人のを取らずに私のを食べなさい」
「パパっ、ひろちゃんを甘やかすのは止めてよ。自分があまり甘いものが好きじゃないからって、そうやってすぐ人にあげるー」
「僕も色々と貰った事がありますよ。全部食べ物ですけど・・・」
人見がいいのか、パーティーの食事をどんどんと僕が持っていたお皿に食べきれないほど乗せられたのを覚えている。
結局あの時、全部食べきった覚えがないけれど、あの時僕はどうしたのだろう。食事制限があって食べられないものが結構あったような気がするけれど、伯父さんが食べてくれたのだろうか、よく覚えていない。
ただ、本当に食べられない量が盛られている事しか覚えていない。
「多分ひろちゃんは足りないだろうと思って、もう一品頼んでいるけれど、それも持って来さす?それもきーくん大丈夫だと思うわ」
「当然食べるに決まっているだろうが」
人が食べているのを横から取るような浩が食べないわけがない。
「じゃあ、持って来さすね。きーくんもいい?」
玲那さんはあくまでも浩ではなく僕のペースに合わせてくれていて、僕が今食べているのを食べ終わってから聞いてくれた。
次はどんなデザートが来るのだろうと思いながら頷いて、それを見た玲那さんはすぐにボーイをベルで呼び出し、残りのデザートを持ってくるように頼んだ。
今度運ばれてきたデザートは、様々なフルーツの果汁を使った寒天ゼリー。
可愛く形どられた寒天の上にはソースが掛かっていて、まるで宝石みたいにとても綺麗だった。
食べるのが惜しいと思いながら赤い色をした寒天を食べてみた。
濃厚なイチゴの味がした。外に掛けられているソース以外に、寒天の中にもソースが入っていた。
次にオレンジ色をした寒天を食べた。オレンジ色の寒天はマンゴーだった。
緑色はキウイ、白はココナッツの味がした。
どれもとても美味しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます