第4話 キュンストレイキの立像 4-⑴


 強い日差しの降り注ぐ午後、流介は凪いだ海に浮かぶ無数の曳舟を横目にある変わった船の姿を求めて港の中を歩いた。


 やがて船と呼ぶにはあまりにも異様な洋上の館――船と一体化した小さな建物が目に飛び込んできた。


「……いるかな?」


 小ぶりの洋館を乗せた船は係留され、さざ波にゆらゆらと揺れていた。流介は桟橋の上をぎしぎしと音を立てながら天馬の城である『幻洋館』を目指した。


 流介は入り口の前で足を止めると、一つ咳ばらいをしておもむろに扉をノックした。すると上の方からいつものように「どうぞ」と声が降ってきた。この城の主は大抵二階の「書斎」にいるのだが、来客のノックに気づけるよう常に二階の窓を細めに開けているのだった。


「飛田です。これからうかがってもよろしいでしょうか?」


「もちろんです。中に入ったらそのまま二階へどうぞ」


 流介は招きに応じて扉をくぐると、館の一階へ足を踏みいれた。がらんとした広間の奥にはらせん階段があり、流介はためらうことなく階段を上り始めた。


 二階の「書斎」は本がぎっしり詰まった書棚と大きな窓、そして船にはつきものの大きな舵輪があった。


「やあ飛田さん、そろそろいらっしゃるころだと思っていました」


 こちらに背を向けて外の海を眺めていた青年はくるりと流介の方を向くと、彫像のように整った顔ににこやかな笑みを浮かべた。


「実は今日は、君の知恵を借りたくてやって来たんだ。話を聞いてもらえるかな」


「わかっています。布由さんという女性のことでしょう?僕に力を貸せることがあれば、よろこんでお力になりましょう」


「ありがたい、君の知識と推理力があれば百人力だ」


 流介がほっとして本音を漏らすと、天馬は「それではまず、飛田さんの見聞きしたことを一通り話して下さい」と言った。


                ※


「ふうん、これは実に面白い話だ。特にその斉木さんと言う人とその叔父上が。しかし一体、何から話したものかな……」


 流介は天馬の勿体をつけた言い回しにああ、これは彼のいつもの形だなと思った。この青年はすべてを理解するとこのような口調になるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る