第4話 キュンストレイキの立像 3-⑸


「私は、事件のすこし前に流行っていたという心霊術の方から考えてみたいと思います。つまり文という女性は超能力者で、自分の魂を何もない空間に解き放つことができたのではないかという説です。

 子供の頃から己の霊的な力を意識していた文は、大人になってもう一つの特徴である殺人衝動が膨れ上がるのを抑えることができなかった。それで、イーストエンドの凶暴な、女性を憎んでいる男たちに乗り移って己の欲望を満たしていたのではないでしょうか」


「では『切り裂きジャック』は文の生霊であると?」


「さようでございます。殺人衝動が見たされた文は日本に帰国、今度は日本で自分の王国を作り上げようと同じく超能力を持つ男性を夫に迎えます。しかし感情の乱れが夫との争いに発展し、自分と夫は霊的な相性がよくないと確信した文は夫を殺害します。超能力を持っている夫にはイーストエンドの時のように「乗り移る」ことができず、彼女は自分の手を汚すしか方法がなかったのです」


「では、崖から身を投げたのは本物の文だったと?」


「そうです。文はたとえ肉体が滅びても、霊的な相性のいい誰かに乗り移ればそれまでと同じように自身の野望を果たすことができると考え崖から身を投げたのです」


「……まさか、その乗り移った相手というのは」


「言うまでもなく、布由さんです。自分でも気づかぬうちに身体を乗っ取られた布由は、次第に文として過ごす時間が多くなっていったのです。このまま乗っ取られる時間が長くなれば、いずれ布由さんは「文」そのものになってしまうと考えられます。そうなった時、果たして何が起こるのか……こればかりは誰にもわからないことです。私の推理は以上です」


 ウメは己の推理を披露し終えると「さて、これで全員の推理が終わりました」と言った。


「さて今回も大変興味深い推理が出そろいましたが、この中から最も魅力のある答えを決めなければなりません。ご自身の説がそうだと思われる方は手を上に、他の方の推理が良いとと思われる方はその方を手で示してください」


 安奈がそう告げるとウメと日笠がウィルソンを、ウィルソンがウメを示した。


 「それではウィルソンさんの推理を本日の解答とさせていただきます」


 安奈の宣言にテーブル全体から拍手が起こり、流介もうっすら感じていた通りウィルソンの説が支持を集め会は幕を閉じた。


 ――でもまだ、何か落ち着かないな。


 流介は布由にまつわる疑いが晴れぬことにもやもやした物を覚えつつ、楽し気に語らい始めた三人をぼんやりと眺めた。


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