第16話 習性

 美里さん、あいかさん、佳奈さんと私を含め四人で講堂に移動することになった。私の横に美里さん、反対側にあいかさん、少し後からついて来るのが佳奈さんだ。


 男だったら両手に花プラスワンで他の男どもにマウントを取れるのだが今の私は女の子。状況的には両手に爆弾プラス監視付の戦場にいる兵士のような緊迫した気持ちだ。


 何かの拍子で男とバレるかもしれない。そのきっかけとなる言葉、仕草、応対、どれでも可能性がある。


 しかも後ろから腐女子の佳奈さんがギラギラした目で私達を見てる。ほぼ確定といっていいくらいにゆりゆりな展開を望んでいる。自分の欲望に忠実なこの子は隠すということをしないのだろうか? 目がまじで怖い。


 そんな状況など知らずに話かけてくる美里さんとあいかさん。私は無難に相槌をうつ程度でごまかす。


 転校生みたいな私は皆からすると珍しく、ひとりでいる事が出来ない。二日目だからしょうがないと割り切ってるけど、後どれくらいでみんな飽きるのだろうか。無難に高校生活を乗り切るためぼっちでいたい。


 性能テスト? もちろん、当たり障りなくやってやりますよ。


 そう言えばクラスの女の子に囲まれて怒涛のごとく話しかけられた時はキツかったなぁ。二度目に囲まれた時は耐えられなくてトイレに逃げ込んてやり過ごしたっけ。


 ……あれ? これ使えるんじゃね? ちょうどトイレも行きたかったし何よりトイレ出た後はみんな先に行ってひとりになれる! 移動先の講堂の場所もわかるし、これいけるんじゃね?


 そう思った私はすぐに実行に移す。


「ちょっと私、おトイレ行きたくなったので、みなさん先に行ってもらってもいいですか?」


「うん、わかった! トイレだね!」


「わかりましたわ。ここから一番近いトイレはこっちです」


 ん? 美里さんよ、なぜに案内するん? そしてあいかさん。なぜあなたも来るん?


「あの、ひとりで行けますので大丈夫ですよ」


 一緒に来られたら計画がパーになっちゃう。


「え? 私も一緒に行くわよ」


 そうだよ! ってあいかさんも頷いてる。


「ええっ? みなさんもトイレを利用するのですか?」


「もちろんです。沙月さんが利用するなら私も一緒に行って利用するわ」


 わたしもだよー。って同意するあいかさん。


 ……これって……もしや……女子特有の、一緒にトイレ行こー。ってやつ? 私、もしかして無意識に誘ってた!?


「あ、いや、あ、あの、ちょっと、その、えーと」


「いいから一緒に行きましょう」


 モジモジしていたら美里さんが私の手をとり歩き出す。


 にしし〜って笑うあいかさん。そして後ろから聞こえる、まぁ、まぁ! って声。


 昨日はひとりで行けたのに〜なんで!!


 今更トイレ行きたくないって言えないじゃんかよぉ。


 女の子の常識をひとつ学習した私だった。



 先にトイレから出た私はひとり気まずくみんなを待っている。


 だってみんな一斉に個室入るんだもん。変態ならともかく私はノーマルだから、こんな状況で用を足すことなど断じてできない!


 私はみんなが個室に入ったタイミングでそろりと個室から出てトイレ入口の廊下で待っているのだ。ちなみにパニクってた私は、はじめ男子トイレに入ろうとして、美里さんに止められました。


 ……ほんとダメダメです、私。


 しばらく待っていたら、各々トイレから出てくる。四人揃ったところで、じゃいきましょう。って美里さんが言って歩き出した。


 先程のフォーメーションが形成される。何故に私は真ん中なのか疑問に思うが敢えて聞かないでおこう。


 しかしトイレのこの行為は女の子にとって当たり前なのだろう。毎回トイレ行くたびに一緒はキツいし、さすがに知ってる人の隣の個室で用を足すことなどできるわけがない。


 あれ? これではトイレに行くことができてもトイレを使用できないって事じゃない? ……これは非常にまずいわね。


 ひとりうんうん唸っていると、その様子を見てた美里さんが何か聞いてきたので、思わず反射的にはい。って応えたら、えっ、そうなの? って言われた。


 もし替えがなかったら言ってね。って美里さんが言うけど、なんのことかわからない私はとりあえず、ありがとうございます。って言っといた。


 ……なんじゃろな?


 そうこうしているうちにダマスク柄の絨毯が見えてきて講堂エリアに足を踏み入れる。


 今回は昨日と違って呼び止める者もいなく、すんなり目的地である講堂に入ることができた。


 講堂というだけあって教室と全然違う。奥に講演用のステージがあり、その周りを扇上に並んだテーブルと椅子が階段上に並んでいる。ざっと見たかんじ二百人は収容できそう。しかも講演じゃない公演もできそうな照明や音響もある。


 高校の施設って言うより私立大学の施設だよこれは。どんだけお金持ちなの? この高校は!


 入口で呆気に取られていた私を後ろからついてきてた佳奈さんが、どうしたの? って聞いてきたので、素直にすごい施設ですね。って応えた。


 慣れれば普通だよ。って佳奈さん。


 そ、そうなんだ。……私もそのうち慣れるのかぁ。



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お読みいただきありがとうございます。

トイレに一緒に行く行為には諸説あります。


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