第11話 紛らわしいパイセン
絨毯を踏みしめ予想通り冷房がガンガン効いている講堂エリアに入ったところで後ろから不意に声をかけられた。
「君! ちょっと待って! ……あっ、やっぱりそうだ! 朝いたでしょ! ずっと気になって君のことを探していたんだ!」
ん? だれ? 朝いた? どこに?? 私に言って、るか……こっち見てるし。はて? 誰だろう?
「沙月さん、ちょっと下がって」
声をかけてきた男子生徒が私に近づこうと寄ってきたのを見て、美里さんが私の手を引っ張って後ろに移動させた。
「私達に何のようです?」
「いや、君じゃなくて、後にいる人に用があるんだよ!」
男子生徒は興奮しているのか鼻息荒く言って私を見てくる。美里さんの後に位置しているけど、男の私は美里さんより身長が頭ひとつ分高い。なのでバッチリ目が合っている。
「この子は今日来たばかりなのに用事があるですって? ……あなたよく見ると二年生ですね、なるほど。この様な場所で下級生をナンパするなんて品位の欠片も無い。どうぞお引き取りを」
おー、有無を言わせずバッサリ切る美里さんはやっぱりクールビューティー! でもこれってナンパ?
「いやいや、違う違う! 俺はただ、そこの君に出て欲しいんだ!」
「出て欲しい? どこに?」
「俺の物語だよ! まさに思い描いていた人物にピッタリなんだ! 君は僕のヒロインだよ!」
えっ……わ、私求婚されてる?
「な、なんて、ハレンチな。あ、あなた自分が何言ってるかわかってるの?」
若干顔を赤くして美里さんが言う。
「もちろん! 今朝はじめて見た瞬間にこの子だ! って脳内に電流がびびっと走った衝撃は忘れられない!」
おー、これは一目惚れってやつか。この男子生徒は見る目がないね。中身が男に恋しちゃだめだ。BLになっちゃうぞ。
ほら、近くに知的美人がいるよ。そっちの方が見た目も頭脳も私を上回っているから、結婚するならそっちだよ。
女装している私は自分の容姿を理解していない。自己評価はかろうじて女に見える程度。自分が美人だなんてこれっぽっちも思ってない。
「なっ、あ、あなたは! 一目惚れしたって言うの?」
「そのとおりだよ! こんなにも心躍った事など久しくなかった! 貴女の歩く姿は早朝の雰囲気にあっても一際輝き眩しいほどだよ」
「……」
美里さんの顔がりんごのように真っ赤になってる。歯の浮くようなセリフをすらすら言う先輩も大したもんだ。このままでは美里さんが居た堪れないし、とりあえず私も話に加わろう。
「あの、情熱的なお気持ちは嬉しいのですが、私は全く知らない人とお付き合いをするつもりはありませんし、特定の方と恋人になるつもりもありませんよ」
少し横にずれて美里さんの斜め後ろから声をかけた。
中身が男の私が同性と付き合うことは絶対に無い。もちろん異性だったらその限りじゃない。
表面は女性だからある意味女性も同性になっちゃうか。
あれ? どっちも同性じゃん。
「そんな事はわかってる! 俺は君と付き合いたいわけじゃないんだ」
「一目惚れしたと認めたのに?」
「そう! 君に一目惚れした! そして俺の物語に出て欲しい!」
「えっ? だからお付き合いしたいのでは?」
「いやいや、付き合う必要はないんだ。ただ俺の描いた物語に出て欲しいんだよ!」
「だからそのお話だとお付き合いしたいと言っているようなものでしょ」
なんだこの先輩。頭がおかしいのか? 一目惚れして俺の物語に出ろって言ってて、付き合う必要がないとか。
……もしかして、付き合うを通り越して結婚してくださいって事か!
「だから何度も言うけど付き合う必要はないんだ。俺が描いた作品に出て欲しいんだよ! 今から撮影すれば文化祭に間に合う」
「だから! あなたが描いた作品に出て撮影すること自体がお付き合い……ん? 撮影?」
「そう! 撮影さえすれば文化祭に間に合うんだ」
「えっ?」
「えっ?」
「……うん?」
私と美里さんが同時に驚き、先輩はそんな私達を見て首を傾げるのだった。
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いつも読んでいただきありがとうございます。
省略のしすぎは誤解を招くのは当然ですよね。
次話も読んでもらえたら嬉しいです!
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