第9話

スケジュールされた時間にスリープ状態を解除する。真っ先に入力された外部からの情報は、雨の音だった。


窓の近くまで体を進め、カーテンを開ける。空は工場の排ガスのような雲に覆われ、大粒の雨が庭の土を荒らしていた。


「理沙様、おはようございます。」


私は目覚めていない少女に声をかけた。


「今日は朝から雨が降っております。心なしか病院内の人達が暗い顔をしているように見えます。人間とは雨が嫌いなのでしょうか。」


返事はない。会話はここで終了した。だが、彼女ならなんと応じるだろうか。


「アイは、雨が好きなの?」


そんな答えのわかりきったことを、彼女ならあえて聞くような気がした。


「私には好き嫌いの感情はありませんが、機械というのは水に弱いものです。いくら耐水処理を施しているとはいえ、私とて長時間の雨に晒され続ければ故障の危険性があります。雨が酸性であれば腐食も大いに進むでしょうから、雨の日に外に出るとしたら、私は傘を差します。」


私は自身の発した音声の意味をまとめた。


「そういった意味では、私は雨が嫌いである、と言ってもあながち間違いではないかもしれませんね。理沙様は雨、お好きですか?」


少女は何も答えなかった。今度こそ、会話は終了したのだ。


「答えを急いている訳ではありません。いずれ、私に教えてください。」


私はタイマーを設定し、再びスリープ状態に戻った。

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