第2話 あなたがお父さんで

 なんだかんだで賑やかな食事も終わり、満腹感に襲われた子供達は座ったままでうつらうつらしているので、ナキがその場に柔らかい結界を用意するとナキとマリアの二人で、子供達を運び、結界の上に寝かせる。


「ナキは大丈夫なの? もし眠たいのなら寝てもいいわよ」

「え? いいよ。まだ、やりたいこともあるし」

「何をするの。私も手伝うよ」

「じゃあさ……」


 ナキはマリアに横穴の中を確認してもらった上で、何が必要かを確認する。ナキとしてはまず便器をどうにかしたいと言うのと、人が増えたのだから、増やす必要があること。それと、中で食事が出来る様にテーブルと椅子が欲しいと話す。


「ん~それはそれで必要だとは思うんだけど、私としては……その……言い難いことなんだけど」

「何? 言うなら今の内だよ。言って」

「じゃあ、言うけど……トイレが真ん中ってのが……ね」

「え? 近い方がいいんじゃないの?」

「それはナキが一人だった場合でしょ。ねえ、考えてみてよ。もう、ナキだけじゃないでしょ。そのナキ以外の人が用を足している音が聞こえてくるのよ。そりゃ、ナキがどうしても聞きたいって言うのなら別だけど……」

「へ? いやいやいや、そんな訳ないでしょ。あ~でも、そっかマリアと……確か、あの子も女の子だよね?」


 ナキは結界の上で気持ち良さそうに寝ているハジ達を見ると、マリアは頷く。


「そうね。もう、ハジは知っているのよね」

「うん。ハジと弟のオジは教えてもらったけど、他の子はまだ知らないよ」

「そっか。じゃあ、ついでに……」


 マリアが寝ている子供達のを指差しながら、端から順にナキに名前を教えていく。


「まず、ハジにオジ、それと女の子がケリーでしょ。それとジョンにビルね」

「一番上がハジでいいんだよね」

「そうね。その下のオジ以外は近いわね」

「ねえ、マリアのことは聞いたけど、この子達はどうして奴隷に落とされたの?」

「あ~私は後から合流したから、詳しくは知らないけど……あの子達の親は『騙された!』ってよく言っていたから、何かしらの事情があったのは確かよね」

「そうなんだ……じゃあ、子供達が目を覚ます前に……トイレが先か」

「ふふふ、お願いね」

「うん」


 そしてナキが作業している間に私にも出来ることをやりたいとマリアが言うので、ナキはゴブリンの巣から回収した木材を鞄から取り出し、テーブルや椅子などの材料に使えそうであれば、分類して欲しいとお願いしてから、横穴の中へと入って行く。


「一人なら十分だったけど、人が増えれば問題も増えるよね。でも、トイレの場所までは考えてなかったな」


 ナキはそんなことを考えながら、いつもの調子で横穴を掘り進め、ついでにとお風呂の場所やマリア達の個室などの場所を確保するのも忘れずに行う。


「だいたい、こんなもんかな。さて、マリアの様子はどうかな」


 横穴を出て、木材を選り分けるように頼んでいたのがどんな感じになったのかとマリアの様子を確認してみれば、それほど大きくはない丸太を手に取りジッと見ているだけだった。


「えっと、マリア?」

「ナキ……どう分ければいいのかな?」

「あ、あ~」


 ナキは困っているマリアの様子を見て思いだした。奴隷になったとはいえ、彼女が元伯爵家の令嬢だったことを。


「そりゃ、いきなりテーブルや椅子に良さそうな木材を選り分けろと言われても難しいか」

「ね、もしかして怒ってる?」

「怒ってないよ。どうして?」

「だって……私、料理も出来ないし……こうやってナキに頼まれたことも出来ないし……」

「気にすることないんじゃないかな。初めてだったら、分からなくてしょうがないよ。でも、分からないのなら、早めに言うことが大事かもね」

「うん、分かった。じゃあ、教えてくれるかな。どういうのを選べばいいの?」

「うん、いいよ。じゃあ、これとこれ……」


 ナキはマリアにどういう基準で選べばテーブルや椅子に使えるかを教えながら、集めた木材を選り分ける。


「へ~ナキって見掛けによらず意外と物知りなのね。私ってば伯爵家に生まれたのに何も教えてもらってないようなものなのに」

「でも、僕が知らない貴族の取り決めとか礼節作法とか知っているんじゃない」

「ふん! そんなの、ここじゃなんの役にも立たないわよ」

「でも……」


 自暴自棄やけになった風にマリアがそんなことを言うものだからナキは慰めのつもりで「でも、いつかはここを出る」と言おうとしたが、マリアは右手人差し指をナキの唇に当てることでナキを黙らせる。


「私はここにいちゃダメなの?」

「ダメってことはないけど、見ての通りここには何もないよ。それに食べる物だった魔物肉だけじゃ体に悪いしさ」

「私を追い出したい訳じゃぁないのね」

「そんなことは考えてはないよ。でも、あの子達もずっとここにいる訳にもいかないでしょ」

「大丈夫よ。だって、ここに『お父さん』と『お母さん』がいるんだし」

「へ~そうなの。でも、どこにいるの?」

「ふふふ、だから……『お父さん』と……『お母さん』でしょ」

「え? え~」


 マリアが伯爵家令嬢だし、子供達もいつまでもこんな所で暮らしていく訳にもいかないでしょとナキがマリアに言えば、マリアは父母が揃っているから心配ないという。だが、ナキはその父母がどこにいるのか知らないと言えば、マリアはナキを指差して『お父さん』と呼び、そして自分を指差してから『お母さん』と言うのだった。


「ちょ、ちょっと待ってよ! なんで僕が『お父さん』なの? 僕はまだ十二歳だよ。多分だけど……」

「あら、そうなの。でも、私のになるんなら、必然的に『お父さん』になるでしょ。それは分かるわよね?」

「え? ひとつも理解出来ないんですけど」

「どうしてよ!」

「どうしてって言われても……」


 マリアがどうして自分を夫として扱いたいのか分からないナキは困惑してしまう。


「もう、分からないのなら教えてあげる。それはね、ナキが私の裸を……ちょっと待って! 今のはなし。忘れて。スゥ~ハァ~」


 そこまで言ってマリアは自分の態度の悪さでナキを追い詰めてしまったことを思い出したのか、今の発言は忘れてと言い、深呼吸をして自分を落ち着かせる。


「大丈夫。ここからは誰も逃げられないのだから、ゆっくり追い詰めればいいだけなんだから。頑張るのよ、自分!」

「あの~全部、口に出てますけど……」

「あ!」


 ナキに対し思いとどまったまではよかったが、その後のことを全部口に出してしまっていたのでナキには全部筒抜けになったことでマリアの顔は色んなことから真っ赤になってしまう。

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