7、 17万光年遠い二人
北の空だけではない。
ぐるりと空を見れば、星だらけだ。
星は銀の砂のように夜空を覆いつくし、その
――― とてもキレイだ。
けれど、美しすぎて正直少し怖いとも思った。
ホシコは、この星空を見て何を思うのだろう。
横を見れば、ホシコが星空を見上げていた。
ただ真っ直ぐに、恋焦がれるように優しく、そして切ない視線を天の川に送っていた。
「ねえ、知ってる? 星の光って何億光年も前の光が届いているんだよ。
今光ってるあの星も、もうないかもしれないって不思議だよね」
ホシコは、織姫と彦星だと言って夏の大三角を指差し教えてくれた。
「織姫のこと座のベガは25光年 彦星のわし座のアルタイルは16光年も地球から離れているの。
じゃあ、織姫と彦星の距離はどのくらい離れてるかというと、17光年も離れてるんだって……」
俺には、想像もつかない途方もない数字だ。
織姫と彦星が、七夕の星だと言うことくらいは分かる。
二人は、本当に一年に1回も会えるのだろうか?
いや、距離は関係ないのかもしれない。
俺とホシコは、高校でやっと同じクラスになったというのに、毎日顔を合わせるようになっても会話すらまともにできなかった。
近くても、遠い関係だ。
「遠すぎるな……」
俺は、ポツリとつぶやいた。
「そうだね。織姫と彦星は遠すぎるね」
「ああ、声も届かないだろうな」
でも、一年に一度会って話ができるならいいじゃないか。
俺は、もう4年もホシコと会話らしい会話はしていない。
「大地君とは、ずっと声が届く距離にいたのに、全然話できなくて、近くて遠い感じがしてた」
俺は、自分の心を言い当てられたような気がして、ハッとしてホシコを見た。
ホシコは、夏の大三角を見上げたまま、ぽつりぽつりと話を続けた。
「同じ学区なのに、小学校で一度同じクラスになっただけで、後は中学校も違うクラスだったね。
やっと、高校で同じクラスになれたと思ったのに、今度はなんだかなんて声を掛けていいか分からなくてね……」
ホシコが俺を見た。
目が合うと、彼女ははにかんだように微笑んだが、セミロングのさらさらの髪が風で揺れるとすぐに泣きそうな顔に変わった。
「私ずっと、君に謝りたくて……」
は? なんでホシコが俺に謝りたいんだ?
ひどいことを言ったのは、俺の方なのに……。
俺は、困惑しながらホシコの話に耳を傾けた。
「おぼえてるかな? 忘れるわけないよね?
私が迷惑かけたんだから……。
小学校の林間学校の時、山で崖を滑り落ちた私を助けてくれたよね」
まだ覚えてるのか、俺にとっては忘れられない記憶だが、ホシコには嫌な記憶だろうに……。
「俺はただ一緒に落ちただけで、助けたのは先生たちだろ達だ。俺じゃない。
それに、嫌いな男子と一緒に遭難した黒歴史なんて忘れたいよな」
「そんな風に思ってないよ!
落ちた私に真っ先に手を伸ばしてくれたのは大地君だよ」
そうだっただろうか?
そんなカッコイイ話ではなかったはずだ。
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