第19話 侵入者
月明りがぼんやりと部屋の中を照らしていた。
「恋人から始めよう」と言われたことを考えてしまって、寝付けないでいると、鍵を閉めたはずの扉が、カチャリと開く音がした。
こんな夜中に誰が?
ベッドに入ったまま、そっと何か武器になるようなものはないかと、サイドテーブルの上に手をのばす。
その手を、侵入者に掴まれた。
怖くて仕方がなかったけれど、手を掴んだ相手の方を向いた。
薄暗い月明かりに照らされて、ぼんやりと侵入者の顔が見えた。
サイラスだった。
サイラスは、自分の口に人差し指を当て「静かに」と合図すると、
「叫んだりしないで。少し怖い思いをさせるかもしれないけれど、大丈夫だから」
そう小声でささやいた。
わたしがあまりにも驚いて声を出せずにいると、サイラスは自分が着ているシャツのボタンをはずし始めた。
これは、どう考えても『そういうこと』だ。
この国に来て、サイラスと過ごした時間が、楽しいと思ってしまっていた。
だからこそ、いきなりこんなことをするような人だとは想像もしてもいなかった。
ひどく悲しい気持ちに打ちひしがれる。
「恋人から始めよう」というのはそういう意味だったんだ。
わたしが動くこともできずに、ただサイラスを見続けていると、シャツのボタンをはずしたサイラスが、からだに何かを巻き付けているのに気が付いた。
サイラスがその布を紐解くと、その背中には剣を隠し持っていた。
サイラスは、剣をわたしのすぐ側のシーツの下に、そっと隠すと、わたしの上に覆いかぶさってきた。
けれども、そのまま何をする訳でもなく、じっとしている。
しばらくして、再び誰かが部屋に入って来る気配を感じた。
サイラスは、わたしの耳元で
「少しの間、わたしに合わせてくれないか?」
と小さな声で言うと、
「愛してる。君のことばかり考えていたよ」
と言いながら、その目で何かを訴えてくる。
「合わせる」というのは……
意味もわからないまま、言われる通り
「わ、わたしもです」
と答えた。
サイラスはわたしの頬にキスをすると、
「じっとしていて。絶対に君のことは守るから。」
そう言って、その右手で、剣を掴んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます