リアルな夢精

 凛子と再会を果たしてから思い出した記憶がある。

 だがそれは実際にあった過去の出来事ではなく、単なる夢の記憶だった。

 人間の記憶は不思議なもので、忌まわしい過去には二度と触れたくないと思えば完全に封印するコトが出来る。だが、あるキーワードや思い掛けない出来事をきっかけに突然蘇ったりする。 

 過去に見た夢を記憶に留めておくのは非常に珍しい。そして夢は目覚めると忘れてしまうのが常なので忌まわしい記憶として封印した訳でもなく、自然に忘れてしまったと全く気にも留めていなかったと思う。


 セーラー服姿の凛子が目の前に立っていた。


 正確には『凛子らしき』と表現した方が正しいかもしれない。

 ボクは当時実際にその姿を一度も見た記憶がないし、想像した記憶もなかった。そしてそもそもの話し、彼女の顔をハッキリ覚えていなかった。それなのに彼女である可能性を確信させたのは初めに名乗ったからだった。


 夢の中の彼女は真剣な眼差しでボクに言った。

「私、頼子に誘われて初めて家に行った時、廊下で偶然すれ違ったお兄さんを見て、胸の高鳴りを覚えました。頼子にもそのコトを打ち明けました。私がタイプでないコトは頼子に聞かされ知っていました。でも……、私のコト好きじゃなくてもいいんです。お兄さんにお願いがあるんです」

 夢の中の凛子の言葉には決意のようなモノが感じられた。

「お兄さんが私のコトを好きじゃないって知っていても、いつの頃からか初めてはお兄さんにあげようって決めたんです」


「好きじゃなくてもいいんです。思い出として私を抱いてくれませんか?」

 

『思い出として…』と訴えるロスト・バージンは在り来たりなパターンだが、男にとってはとても魅力的な囁きに聞こえるのは否めない。

 夢の中の凛子は『好きじゃなくても』を繰り返した。だが過去ボクが彼女に嫌悪感を抱いて発した言葉は一度もない。

 そう言い終わると、凛子は徐にセーラー服のリボンを解いた。ボクは彼女の行動を制止しなかった。『好き』じゃなくても女子高生の瑞々しい肌は永遠の憧れ故、容認してしまうのは男の悲しい性だ。


「キスしてください」


 目の前に近付いた凛子はボクの手を取り、開けた自分の胸に押し当てるとゆっくり目を閉じた。特別大きくはなかったが形の良い柔らかな膨らみがボクの手の平を優しく包む。

 どんなモノでもそうだが、視線を合わせた瞬間に相手と自分との距離がどのくらいなのかで印象が大いに違ってくる。遠く離れている場合には嫌悪感を抱いていても、至近距離で会うと好感を抱いたり、また逆もあったりする。

 それは匂いも影響するのかもしれない。

 凛子のまつ毛は長く厚みがあった。上下のまつ毛が目を閉じたことで重なると彼女の表情に違う印象を与えた。唇も厚く情熱的だ。 

 ボクは凛子の誘いに素直に従った。従ったがこれは夢なのだと理解していた。ボクはそっと彼女を抱き寄せ唇を重ねた。触れた唇は柔らかくリアルに彼女の温もりを感じた。ボクは次第に高揚していった。下半身も熱くなり一気に膨張していくのが分かった。これは夢だ。現実ではないと頭で理解しながらも身体は臨戦態勢に向かっていた。彼女の股間辺りを忙しく押し上げる男性器を感じた凛子は着衣越しにその高ぶりを優しく握り、ボクの唇を押し広げ舌を絡めた。彼女の鼻息もリアルにボクの興奮を

煽っている。このまま彼女を押し倒し、犯すのは時間の問題だった。

 

「お兄さん、きて……」

 

 凛子が自らの意思で股間を拡げ、待ち構えている。ショーツは既になかったがその中心部はハッキリ確認できなかった。ボクは夢だと理解していながら凛子の身体に割って入り、最高潮に膨れ上がった男性器を彼女の女性器に押し当て、一気に埋めようとした。

「うっ!」

 その瞬間、凛子がボクの下で小さく呻いた。彼女の言葉を信じるなら女性器内部には処女膜なるものが存在しており、男性器が通過する際にはその器官が損傷し、出血があるはずだ。

「本当にいいの?」

 夢の中でボクが凛子に最終確認をしている。

「は、はい……」

 凛子は覚悟を決め、小さく頷いた。彼女の身体がやや硬直し、頬を紅潮させ心拍数の高まりが見て取れた。


 夢の中だがリアルだった。


 今度は躊躇せず、ある程度一気に押し入った。尚も続く彼女の荒い息遣いと呻きを

無視した。凛子は必死に耐えていた。しかし拒んではいなかった。ボクは若い女性を意のままに犯している優越感に浸っていた。現実では決してあり得ない。夢だから出来るコト。ボクは何度も自分に言い聞かせていた。

 凛子の膣内(なか)はピストン運動もままならない程窮屈だった。彼女の言う通り未経験だったのだろう。或いは夢の中だから『そうであってほしい』と願う自分の願望を彼女の肉体に反映していたのかもしれない。侵入した亀頭を遠慮がちに、だが確実に更に奥へと進めた。次第に押し殺したような凛子の呻きが腰の動きとシンクロし始めた。


「な、中に出しても大丈夫です」

 

 覚悟を決めた健気な言葉が、及び腰の意思に勇気を与え、煽情的に誘惑した娼婦のように感じたボクは、一気に奥深くへと進軍を始め激しく突き立てた。夢の中の、夢のような状況に感動すら覚えたボクの欲望は、長く耐えることを拒み程なく終焉を迎えた。リアルな感覚が尿道を通り過ぎ、精液は溢れ出た。

 直後ボクは目覚めた。案の定トランクスの中が冷たい。それにしても夢にしては余りにもリアルな膣内の感覚と感触だったと冷静に振り返った。


 ところが……!


(こ、これは!?)


 汚れたトランクスを覗き込んで気が付いた。冷たく感じたのは精液ではなく男性器自身に覆われた液体のせいだった。それは糊のような強い粘性とは明らかに異なりやや白く濁り、その中に鮮血のような赤紫色も紛れていた。それらは総じて細く長い糸を引く、サラサラした肌触りの液体だった。


 彼女のバルトリン腺液……?


 射精したはずの精液は何処に……?


 ということは……!?


 終始見られた眉間の皺が、あの瞬間(とき)だけ消え、口許が緩んだように見えた……!?












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