162
Nora_
01
「回復したか」
もう駄目だと思っていたけど水をあげ続けていたら復活してくれたみたいだった。
少し距離があるから持って帰りたいところではあるものの、そんなことをすればすぐに駄目になりそうだったからやめて帰ることにした。
花は好きだ、いちいち喋りかけてこないことがいい。
「ただいま」
「おかえり」
「今日は早いね、いつもこれぐらいだったらいいのに」
でも、両親は別だ、話せた方がいい。
これは嫌われると生きていけなくなることが大きいけど、なにもそれだけではない。
問題なのは高校二年生なのにまだまだ甘えてくなってしまうことだ、そうしたくなる自分を直視する度に恥ずかしい気持ちになる。
「それは難しいかな」
「そっか、あ、ご飯ができたら呼んで」
「うん」
制服から着替えて面倒くさくなってしまう前に必要なことを済ませた。
両親といられる時間ぐらい部屋でゆっくりできるこの時間も好きだ、と考えたところでカリカリと引っかかれる音が聞こえてきて扉を開けると飼い猫であるムイがいたから抱き上げた。
家に帰ったときには近づいてきたりはしないのに部屋にいくとこうして付いてくるから面白い、男の子なのに私と同じで寂しがり屋なのかもしれない。
「そこで休むの?」
ベッドの上ですぐに丸まって自由な子だった。
気にせずに横に寝転ぶとわざわざこちらのお腹の上に移動してきた、生きているから温かい。
そういうのもあって夜ご飯の前にお昼寝をすることになってしまったぐらいだ。
「
「楽しいから大丈夫」
と今日も嘘を重ねていく。
あ、つまらないとかそういうわけではない、ただ二年生になったいまでもよくわかっていないだけだ。
必要だから行っているというだけでしかない、別に嫌いではないからこのまま卒業するだけだと思う。
「そっか、今度は大丈夫そうだね」
「もう中学生のときの私とは違うから」
これも別に苛められていたとか、学校が変わったとかそういうことではない、母がずっと心配をしてくれているだけだった。
「なにかあったらちゃんと言ってね、言ってくれないとなにもわからないから」
「うん」
「お母さんやお父さんに頼ってもいいし、ムイに支えてもらうのもいいと思うよ」
「ムイが近くにいてくれるだけで落ち着けるよ」
いまは私達と同じでご飯を食べている。
たまにあれだけで足りるのかとか、カリカリは美味しいのかとか考えるときがある。
食べた後はゆっくり寛いでいるだけだから悪くはないのかもしれない、けど、猫語を理解できるようにならない限りは一生このままわからないままだった。
「まだ元気だ」
翌朝、いい気分だったから放課後になる前に寄ってみるとまだまだ元気でいてくれて安心した。
いつか終わりがくるとしても可愛い姿を見られたことで満足できている、ただ、無理だとはわかっていてもずっと見ていたいと考えるわがままな自分もいる。
それとムイを飼っているのもあってなんで学校にはいないんだろうと考えてしまうことが多かった。
どう考えてもストレスにしかならないだろうから連れていくことなんかはできないものの、いてくれたらそれだけで違うのにな。
「おはよう
「おはようございます」
柘植花子、それが私の名前でいま話しかけてきてくれた人の名前は
とにかく毎日元気で全員からというわけではないものの、一部の生徒から気に入られていて楽しそうに話しているところを何度も見たことがある。
性格はともかく近所にいてくれる頼りがいのある長髪お姉さんみたいな感じだから気に入られていてもなにもおかしくはない存在だった。
「なんかいつも元気がないな」
「諸田先生が羨ましいです」
「あたしみたいになりたいんだったらもっと大きな声を出せるようにならないとな」
「おはようございます」
「ははっ、変わらないな」
挑戦しようとする前に諦めたくなる一件だった。
それと喋ることができるのは先生だけで教室ではずっと黙って存在している。
上手いことも言えないからそれぐらいがいいんだけどね、静かな空間にはなってもらいたくないから明るい子達にはいつまでもそのままでいてほしいと願っている。
まあ、こっちがそうやって動いても動かなくても自由に楽しくやれるのがちゃんとした学生らしい彼ら彼女らなのだ。
「よ、来たぞ」
「食べますか?」
「狙ったりはしないよ、ただあたしはここが落ち着くから来ているだけだ、柘植のためじゃないぞ?」
矛盾しているけどこの時間が好きだった。
結局は他の子といたいのにいられないから花は好きだ~などと現実逃避をしているだけでしかない、花は実際に可愛くて好きだけど言い訳の道具みたいにはされたくないだろう。
「あたしは真逆の生き方をしてきたから柘植みたいな存在の方がよくわからないんだ」
「いいことだと思います、私の生き方は暗くなることは多くても楽しくなることは少ないですからね」
「でも、なにもそれだけじゃないだろ?」
「はい、両親といられているときや学校では諸田先生といられている時間が楽しい……嬉しいです」
「ご両親と同じぐらいではないだろうがそう言ってもらえて嬉しいよ」
でも、どうせ一緒にいるならクラスメイトみたいな明るい子達の方がいいに決まっている。
これは心配してくれているからだ、昔から一部の先生から似たようなことをされているからわかる、放っておくと消えてしまいそうだから頑張ることでなんとかしようとしているのだ。
担任の先生で受け持った生徒というわけではなくても数度顔を見た生徒が気になるからしているだけ、関わりはなくても長期間顔を見られなかったら心配になるものだからね。
「もっと食べろ」
「これでお腹いっぱいになります」
母がいつも好きなおかずをいっぱい入れてくれるから問題はない。
「あたしみたいになりたいなら多く食べることも大切だ、これをやるから食べろ」
「さ、流石に多いです……」
「む、これでは強制しているみたいで駄目か、食べたくなったら言ってくれ」
そのときは延々にこない。
これからも食べられる範囲で食べていくだけだった。
「あれ」
何度探してみても存在自体が消えてしまっていた。
四週目ぐらいになったところで片付けられてしまったと答えを出して適当に座る。
延々と放置されている雑草みたいに存在し続けられるわけではないから仕方がない。
「ん? 柘植か」
「諸田先生? どうしてこんなところに」
「家の近くだからな、いまはスーパーにいってきた帰りなんだ」
あのスーパーは母も利用している、ならここにいたら母に遭遇する可能性もあったということか。
友達と遊びにいってくると言って出てきているから遭遇することになったら驚くだろうな、もっと心配性になってしまうかもしれない。
ちなみに育てていた花のために来ていたことを言うと「家でやった方がいいな」ともっともなことを言われてしまった。
「すぐに冷蔵庫に入れなければいけない物とかもないからあたしもここでゆっくりしていくかな」
「勝手に日曜日も働かなければいけないのかと考えていました」
「余程のことがない限りは日曜はないな。生徒がどう過ごしているのかは知らないができる限り家でだらだらしているよ」
ごろーんと寝転んでいる先生は……想像できてしまう、が、しっかり切り替えができるから問題にはならない。
「なんか物寂しい光景だ、それに生温い」
「帰った方がいいですよ」
「ジュースぐらいなら飲ませてやるから柘植も来い、一人じゃ寂しい」
「え、だけど――あー……」
私がいるからかもしれないけど家でも学校と変わらない先生だった。
甘くて冷たいジュースはよくしみた、今度からは月に一回ぐらいは買ってもいいかもしれない。
「あたしが何回も話しかける理由は一人でばかりいて心配だからだ」
「はい」
なんでも吐いていくようにしているらしい。
つまり、悪い方向へのことでも躊躇いがないということだから一気に怖くなる存在になる可能性があるから気を付けなければならない。
怖い人の近くには強メンタルではないからいられない、初めて逃げるかもしれない。
「でも、柘植みたいな子が誰か一人でも友達ができて楽しそうにしていてくれたら……」
「諸田先生?」
「担任というわけじゃないが応援している、頑張れ」
「はい、ありがとうございます」
「連れてきて悪かった、もう帰った方がいい」
挨拶をして先生の家をあとにした。
寄り道をしてもぼけっと過ごすことになるだけだから大人しく家に帰る。
ベッドに寝転びつつ、ただなんにもしてこなかったわけではないんだよなあと内で呟いた。
友達になってもらうなら話しかけるのが一番で、小中高校一年生まで動いてみたのに駄目だった。
相手が受け入れてくれて友達になれても一ヵ月もしない内に終わってしまう、私も私で離れたがっているところで追うことはできないからその繰り返しに疲れてやめてしまっているのが現状だ。
「ムイがいてくれれば」
ムイに触りたいからだとしても絶対に私を経由してくれる、つまり誰かと一瞬でも一緒にいることができるようになるということなのだ。
「ああごめんね、休んでいたのにわざわざ来てくれたんだね」
彼に任せて扉を開けておいたらベッドまで来てくれた、それでいつものように近くにいてくれるみたい。
「花子起きて」
「ムイ……? あ、お母さん」
喋れるようになったのかと寝ぼけていたら「ご飯ができたよ」と母が教えてくれた。
そうだよな、喋るわけがない、あとは動物の言葉を理解できても逆に怖いことになりそうだからいまみたいなのがいいのだ。
「今日ね、諸田先生の家に上がらせてもらったの」
「それはどうして?」
「一人じゃ寂しかったんだって」
「ふふ、諸田先生も私達となにも変わらないね」
珍しく嘘をつかなくて済んだ、
「あ、友達と遊んだ後だからね? あと、諸田先生が変なことをしているわけじゃないからね?」
うん、先生関連のことだけでも嘘をつかなくて済んだのなら大きい。
「疑ってなんかいないよ?」
「ならよかった」
迷惑をかけたくないから。
喋りかけてきてくれるからといって調子に乗らないようにしなければならなかった。
「痛い……」
ポンコツなのか残り一段のところでやらかして足を痛めた微妙な人間がいた。
骨折まではいかなかったからいいけど椅子に座っているいまでもジンジンと痛む、体育なんかがなくてよかったと言える。
ちなみに先生は体育の先生だからもしあったとしたら……やばかったと思う。
「終わった」
怪我をしないことが唯一のいいところだったのに怪我をしてしまったことも含めて終わった気がした。
荷物を持って帰ろうとしたら悪い角度だったのかピンポイントでダメージを受けたため、また座り直す羽目になった。
周りからすれば奇行だろうけど仕方がない、みんながいなくなった後にゆっくり帰ろうと思う。
どうせあの花だってもうないんだから完全下校時刻の十九時まで残ってしまうのもありかもしれない。
どちらかと言えば夜の方が好きであることも大きかった、あとは痛いときに話しかけられて、無視をできなくて付き合うことになる方がアレだからね。
まあ、先生以外の人が喋りかけてきたことは必要なとき以外でないんだけど。
ある程度突っ伏して時間をつぶしてから見まわしてみると男の子が一人、窓の向こうを見ていた。
多分、見ていたことがすぐにわかったのかこっちを見る、見ていたのはこちらだから被害者面はできないということでなにを見ていたのかと聞いてみたら「部活動をやっている生徒を見ていたんだ」と柔らかく答えてくれた。
「部活動に入りたかったの?」
「んー少しはそういうのもあったかもしれない、だけど反対されたときに消えたよ」
「そうなんだ」
意外にも意識を戻したりはせずにこちらを見たままだったから謝罪をして離れた。
バレないように歩くのに苦労した、だけど謎のアレで近づいてくるようなことはなくなったと思う。
「お、帰るのか? 気をつけろよ」
「はい、これで失礼します」
お昼休みに今日は来なかったから帰れる前に話せてよかった――はずだった。
少ししたところで「待ってくれ」と、呼び止められれば振り向くしかないし、今日は走れないから詰んでしまっている。
「ん? なんか歩き方が気になったんだが……普通だよな?」
「はい、この通りトコトコ歩けます」
「そうか、じゃあ今度こそ気を付けて帰れよ」
ポンコツだけど演技力はそう悪くないらしい。
気になるのは先生に対して初めて嘘をついてしまったことだ、一度そうしてしまえば次からはどんどんやるようになってしまう、証拠は母の前の私だ。
「ちゃんと言えばよかった」
自滅して余計に痛くなっているアホがいた。
それでもやっぱり母には言いたくなくて今日も楽しかったとか、男の子と仲良く話せたなどと普段通りにやっていく。
「そういう意味でもムイといられると落ち着くよ」
彼が相手のときは嘘なんかついたことがない、本当のことしか出てこない。
モフモフに顔を埋めて十数秒、凄く幸せだ。
ただ、なにも悪いことばかりではないからテンションが下がったりはしなかった、クラスメイトの子と少しだけでも話せたなら成長と言えるだろう。
「お風呂に入ろっか」
毎日連れ込んでいるわけではないから誤解をしないでほしいし、暴れることもなくムイだって洗面器の小さなお風呂で気持ちよさそうにしているぐらいだ。
「もう出る? お父さんが帰ってきたからたまには食べに行こう」
「わかった」
大丈夫、車がある、だから明日までには足を治すことは可能だ。
明日は体育があるから今日みたいにじっとしておくことはできない、あとは先生になにもないところを見せたいからお願いと願っておいた。
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