勘違いで殺された男の異世界漫遊譚
塩分過太郎
第1話
「ふぅ〜。何とか終電前に押し付けられた仕事が終わった…」
自分に振られた仕事をしっかり終わらせて、定時になったので帰ろうかなとしていたら上司に「まだ仕事している仲間がいるのに先に帰るなんて何を考えてるんだ!!」と怒られ追加で仕事を割り振られた結果、終電ギリギリの時間になってしまった。
ほんとにクソみたいな会社だ。今すぐにでも、こんな会社やめて転職したいが。
日々のブラック労働の疲れのせいで、転職先を探す元気すら残っていない。
「ボーっと考え事している場合じゃないな」
急いで会社を出ないと終電を逃してしまう。
未だ押し付けられた仕事が終わらず死んだ目でパソコンを操作している他の従業員に軽く声をかけて急いで会社を後にした。
「ハァハァ、何とか間に合ったな」
途中から全力ダッシュで駅に向かい何とか電車の到着数分前にホームにたどり着くことが出来た。
終電だし、ほとんど人はいないけど、全く人がいないという訳じゃない。
酔っ払って騒いでいる集団とかもいるので、そういった集団には近づかないように注意しながら電車を待つ。
電車の到着アナウンスが流れ、電車の先頭が見え始めたころ ドンッ! と後ろから衝撃が走り気が付いたらホームから今まさに電車が近づいて来ている線路に落下している途中だった。
目を瞑ると今までの人生で忘れていたような記憶が蘇って来る。
…これが走馬灯ってやつか。
忘れていた恥ずかしい記憶とかもかなり思い出した。
それにしても走馬灯って思ったより長い時間続くんだな。
いつまで経っても電車と衝突する衝撃が来ない。
即死してそんなの感じる間もなかったとか?
現在はロスタイム中的な?
「は?」
何となく瞑った目を開いて見ると。
世界の時が止まっていた。
電車が俺にぶつかる寸前で止まっているし。
俺は宙に浮いたままで静止している。
信じられないけど。この状況、時が止まっているとしか言いようが無い。
何?死を覚悟した結果、何か超常的な能力に目覚めちゃった的な?
理由の分からなすぎる現状に訳の分からない妄想を始めたけど。
すぐに、この現状を引き起こした存在が何なのか理解した。
だって、電車の上からニヤニヤした顔で俺のことを真っ直ぐ見てきてる、少年にも少女にも見える謎の子供が居るんだもん。
絶対に普通の存在じゃ無いし。十中八九今の状況を引き起こしている張本人だろう。
「ヒドイな~。君の事助けて上げたのに、まるで僕が悪者みたいな言い方して…これじゃあ君の事助けたく無くなっちゃうよ…」
謎の子供が泣き真似をしながら喋りはじめた。
「あぁ、うん。ごめんなさい。それと助けていただき有難うございます。出来れば、このまま時が動き出しても死なないように安全な場所まで移動させていただけると非常に助かるのですが?」
現状死んでないけど、自分で身体を動かして移動する事も出来ないし。
このまま時が動き出したら死んじゃうんだけど…
「あ~それは無理。どちらにせよ君にはここで死んで貰わないと困るから」
「それじゃ、何故こんな事を?」
それなら時を止める必要無かったじゃん。
「まぁまぁ、そんなに拗ねないでよ。君には死後の話をしに来たんだよ。単刀直入に言うと記憶を保持したまま異世界に転生しない?」
超胡散臭いけど。謎の子供が言ってることは本当なんだろうな。
時を止めるなんて訳の分からない事も出来ちゃう様な存在な訳だし。
「因みに断ったらどうなるので?」
「どうにもならないよ?記憶を消去されて地球の生物として転生するだけ」
地球の生き物か…
「そう、異世界転生を選ばなかった場合。再び人間として転生できるかはかなり運要素が強い。寧ろほぼ100%の確率で人間以外の生き物に転生する事になるだろうね」
「異世界転生でお願いします」
人間に転生出来るなら人間に転生したい。
異世界が気になる気持ちもあるし。
「うんうん。あっさり異世界転生を選んでくれて助かるよ。実は君の前に十人連続で断られちゃって、ちょっと自信喪失してたんだよね」
俺以外にも地球人がいる可能性がある異世界か…
なんか色々混沌としてそうだけど。
「あぁ、それに関しては大丈夫。転生して不自由なく暮らせるように少し優遇してあげてるけど。チートスキルとかホイホイ上げてる訳じゃないから」
それなら、安心…なのか?
まぁ、何とかなるだろう。チートは無いけど、転生者として優遇措置を受けることは出来るみたいだし。
「チートスキルは上げられないけど。頑張って鍛えれば世界有数の人物に成れるぐらいのスキルなら上げられるから、努力さえすれば勝ち組確定の人生を歩む事ができるよ」
それは有り難い。転生してまで今みたいな人生は歩みたくないからな。
…それってチートスキルじゃないか?と思ったけど、口には出さない。
謎の子供からしたら、何の努力をしなくともなんでも出来て無双出来るといったレベルじゃなければチートスキルとは呼ばないと言うことにしておこう。
「あぁ、そうだ。両親と妹に何か遺して上げる事って出来ないでしょうか?」
「そうだね。君の血縁者には、幸運が訪れるように調整しておくよ」
幸運って若干あやふやな気もするけど。
まぁ、何も出来ないよりはマシだろう。
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読んでいただき有難うございます。
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