第23話 捜索とペンダント




「エリィが消えた!?」


 廊下でソニアからの報告を受け、私は思わず大声を上げた。


「シェン様、声を落としてください」

「……ああ」


 ソニアに窘められ、私は大きく息を吐く。

 さらに拳も握り締め、己を自制する……が、怒りで目の前が真っ赤になりそうだった。


 ひとまず私は来客に話が聞かれぬ場所まで移動する。


「それでエリィはいついなくなった?」

「30分ほど前にメイドのひとりがエリィ様を見たのが最後です」

「エリィは自分からいなくなったのか?」

「ドレスを着る前に、メイドと一緒にお手洗いに行ったようなのですが……」

「ですが?」

「エリィ様の身支度をするチームのメイドは全員部屋に揃っていました」

「……身元不明の誰かがメイドに扮して紛れ込んでいたのか?」

「おそらくは」

「……」


 普段から革の手袋をしていなければ、そろそろ握った拳から血が出ていただろう。


「その時お前は何をしていたんだ?」


 怒りのあまり、その矛先をソニアに向けてしまう。


「申し訳ありません。受付の者が確認して欲しいことがあると呼ばれたのですが、それも何かの間違いだったようで……戻った時にはすでに」


 ソニアは唇を噛んで目を伏せる。


 おそらくその呼びに来た人間もこの家の者ではないのだろう。


 それに気づかなかったのはミスだが、しかしここで彼女を責めても仕方がない。


「私もエリィを探しに行く」

「ですがパーティーまで時間が」

「彼女がいなければパーティーもクソもないだろう」


 つい口汚くなってしまった。


「彼女が最後にいた部屋に案内しろ」

「こちらです」


 私はソニアとともに廊下を移動する。


 先程までエリィがパーティーの準備をしていた部屋は、今はもぬけの空になっていた。


 おそらく手伝いのメイドたちは屋敷中を探し回っているのだろう。

 そんなことよりも……!


「《幻透視》」


 私は魔法で部屋の精査を開始する。


 魔力が床や壁や天井を走り、そこにある凹凸や物品、傷や埃まで、あらゆる情報を拾い集める。


 あった!

 彼女の特徴と合致する足跡を見つけた。


 あとはこれを辿って移動経路を……。


「……!?」


 足跡を辿って廊下に出ようとしたその時――部屋の中から強烈な魔力反応を感じた。


 今までこの家で暮らしてきて感じたことのない魔力だ……。


 もしかしたら何かの手掛かりかもしれないと思い、私は一度部屋に戻ってその発信源を確かめる。


「……」


 これは確か……エリィが母親から贈られたというペンダント。


 そのペンダントに嵌められた石が、真紅の色の染まり、微かに震えていた。


 これは……何かを訴えている?


「……!」


 試しにその石に触れてみると、まるで呼応するように輝きが増す。


 一瞬目が眩むが、やがて発された光は一本の線へと収束し、ある一定の方角を指し示したのだった。


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