第23話 諏訪媛様の文
紫苑の館から三日後、帝から婚儀のための様々な贈り物が届いた。あんなに心配していた母も贈り物を前に大喜びして、婚儀の準備に余念がなかった。
「媛様、文が届いております」
「誰から?」
「諏訪媛様にございます」
「…諏訪媛様…そう」
小夏に手渡された諏訪媛様の文は月草色の紙で覆われていた。
『明日香媛様いかがお過ごしでしょうか?
私は、先日の紫苑の館での出来事が嘘のように穏やかな日々を過ごしております。父から貴仁様と明日香媛様の婚儀が整ったと伺いました。本当にお似合いのお二人で、心からお喜び申し上げます。ご存じかと存じますが私も隼人様に嫁ぐことが決まりました。話が来た時は姉のこともあったので父も母も断ろうといたしました。蒼苑様も隼人様も私の気持ちを一番にと文に書かれておりましたので断ることも容易かったのです。ですが嫁ぐことを決めました。父や母のことを思ったのではなく…私が隼人様のお側にいたいと思ったからなのです。敦子様がお決めになった相手がたまたま私だっただけで…隼人様のお心に明日香媛様がいることは存じております。明日香媛様も隼人様のことを…と思うと心苦しく、悩みました。ですが隼人様は幼き日から私がお慕い申し上げていたお方なのです。皇子様の誕生祝いに招かれた紫苑の館の満開の桜の下でお会いしたあの日から、一日たりとも忘れることができなかったのです。心のままに嫁ぐことをお許しいただけるとは思っておりません。ですが明日香媛様のお幸せをただただ願っております。 諏訪媛』
達筆な文からは諏訪媛様のお優しいお心が手に取るようにわかって涙がでた。私が桜の精に間違われたあの日、諏訪媛様もあの場所にいて、隼人様に心奪われたのだ。もし私が隼人様に決めていたら…諏訪媛様がつらい思いをしていたのだ。
「これで良かったのかも…」
ぼんやりとそんなことを考えていた。
「媛様、お返事はどうなさいます?」
「うん、少しだけ間を置いてから書くことにするわ」
「すぐに出さなくてよろしいのですか?」
「ええ、きっとお忙しいから…」
小夏が下がるともう一度文を読み返した。
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