第11話 正式な申し出
「正式に申し出があった」
父の言葉は、家族の中で私と小夏以外の皆を喜ばせた。
「隼人様だ」
今上帝の弟宮の御子様という立場だが、ご病弱な紫苑帝の現状を考えると若い貴仁様と弟宮が跡目を争うことになると父が母に話していたのを思い出す。
「大丈夫なのですか?」
母の言う大丈夫は、隼人様で大丈夫なのかと言うことなのだろう。
「それは大丈夫だ…大臣との関係が深いのは弟宮…と言うよりは弟宮の母君敦子様だ」
今上帝の母君と弟宮の母君は違う上に弟宮の母君敦子様は皇族の血筋であった。紫苑帝が先帝より次の帝として選ばれし時も、戦が起きると言われていた。それを制したのは先帝で、早くから戦を起こそうとしたものを謀反と称して断罪して、自分の妻である敦子様にも謀反人とは近寄ることなきようにと釘を差した。かといって先帝が紫苑帝と弟宮に差をつけていた訳では無く、同じように愛情を注いでいたのは周知の事実だった。平等にと言う意識は、お二方の妃を同じ血筋の姉妹にしたこともその一つだろう。だからこそ貴仁様と隼人様が兄弟に見間違う程に近くいられるのだ。ただ優しすぎる紫苑帝が先帝のようなことができるとは思えないこと、紫苑帝のお体の具合が思わしくないことが弟宮を帝にという敦子様の目論見を援護していた。古くから敦子様を知る父が今回の話を受けるのはわかりきったことだと兄様が自慢げに話していた。話していたことの半分も理解できないのは、私が甘い環境で育ったからだと笑われた。兄弟で争う、叔父と甥で争う、そんなことが当たり前と言われてもわかるわけがない。
「兄様だって同じなのに…」
ふてくされている私を余所に婚儀の話を始めた家族に嫌気がさして部屋に戻った。小夏が私の顔色を伺うように声をかけた。
「媛様…」
「決まってしまえば、仕方がないことなのだけれど…」
「…嫌なのですか?」
「わからない…」
「でもお相手が…」
「そうね、知らない人ではないことが救いなのかしら」
「その通りです。知らない方とのほうが多いのですから…」
小夏の慰めを聞いた日の夜、にわかに屋敷が騒がしくなった。
「ひ、媛様、み、み、みか…」
家の者達が慌てた理由を説明するはずの小夏の言葉を聞く前に、母が現れた。
「明日香、急いで着替えて奥の間に、急ぐのですよ」
母の側仕えが上等な衣を持ってきたのを見て、それなりの方がお越しになったのだろうと予想はついた。
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