しずかとしょかん after story
夢水 四季
それぞれの進路
「これから毎年、ここでこの星空を見に来よう」
高校三年の夏。
その約束を果たしに、僕と満月さんと真斗君は、僕の父の車に乗って、去年と同じ天文台に訪れた。
ブルーシートの上に寝転がって、三人で星空を見る。
「わあっ、綺麗!」
星空には夏の大三角が輝いていて、僕はプラネタリウムで仕入れたギリシア神話を簡単に語った。
「ゼウスの女好きには困ったもんだぜ」
「そうだね」
しばらく無言で星空を眺めていると、満月さんが思い付いたように言った。
「二人とも進路って、もう決めた?」
「僕は決めてるよ」
「宇宙はもう決めてるのか」
「聞いてもいい?」
「うん。奈良県の大学に進んで学芸員の資格を取ろうと思ってる」
「学芸員って博物館にいる人のことか?」
「うん。将来は博物館で仏像の解説が出来たらいいなって思ってる」
好きな仏像に関われる仕事として見つけたのが学芸員だった。
僕に宇宙飛行士になってほしいと言っていた父に、三者面談の時に打ち明けると、予想に反して応援してくれた。
「わあ、素敵な夢だね!」
「学芸員か、宇宙に向いてると思う! それに奈良県か! 一人暮らしをするんだな」
「うん、頑張ってみようと思う」
「私はね、司書の資格を取れる大学の文学部に進んで、小説家も目指すの。大学は多分、家から通える範囲で探すと思う」
「二人は、もう将来なりたいものとか決まってていいな。俺はまだ迷ってる」
「大学行っても陸上は続けるの?」
「さあ、どうだろうな」
真斗君はインターハイまで進んだ陸上部のエースだ。そんな彼が陸上を辞めてしまうのは、何だか勿体ない気がした。
「もう陸上に未練はない?」
「まあインハイは出たけど、これ以上やっても上には上がいて、俺はその高みには到達できないって悟っちまったんだよ」
「そっか」
満月さんは、それ以上、陸上について深く詮索はしなかった。
僕も、スポーツの世界の厳しさは分かってあげられそうもないので黙っていた。
「大学も先生に言われた所にしようと思ってる」
「え、何処? 聞いても大丈夫?」
「慶応の経済学部」
「ええっ⁉」
「えっ⁉ あの慶応⁉」
「そう、あの慶応。しかも推薦でいけるらしい」
「すごい……」
「ってことは東京に行っちゃうんだね……」
満月さんが少し寂しそうに言う。
僕も後、半年程で卒業して、こう簡単に会えなくなってしまうと思うと、一抹の寂しさを感じた。
「一人暮らしに関しては、不安半分楽しみ半分でもある」
「楽しみもあるんだ。僕は不安でいっぱいだよ」
今まで家事は父にやらせっぱなしだったことを反省しないといけない。
後は受験に対する不安とか最近あったことを話して、明るい話題で今年の天体観測を終えた。
この大きく広がる宇宙に比べたら、僕達の将来なんて、ちっぽけな悩みだろう。
しかし、それに悩み立ち向かっていくのが人間だ。
これからも頑張ろう。
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