13章 犯人の過去は鈍色が似合う

 ガルシア・ハルバートという男は革命家だ。

 いや、正確にはだった、が正しいだろう。

 かつては反米を掲げる一派として活動していた彼。

 貧しい家に産まれた彼には、体を酷似して朽ち果てるか、革命軍の少年兵として生きていくか。

 食うにも困る彼がまともに生きていくには、当時はあまりにも選択肢がなかったのだ。

 生きるために銃を手に取り、大義名分を掲げる軍の手先として、あらゆる悪事に手を染めた。

盗みもやった。

殺しもやった。

 人が思い描くありとあらゆる悪事は、一通りやり尽くした。

 そして、掴んだ。

 それによって得られる、大量の金の山を。

 そこからだった。

 彼が革命そのものに、一切の興味を示差なくなったのは。

  彼が興味を示したのは、もっと単純なもの。

 金、名誉、財産。

 過去の自分が手にできなかった多額の財が、彼の心を捻じ曲げていった。

 革命軍の名に隠れ、名も知らぬ町や村を襲い、簒奪する日々。

 幸せに笑う家族を襲い、老い先短い老人を撃ち殺した。

 全ては、革命のための犠牲として処理され、世に出ることは一切ない。

 そんな時に奪った財産の中に麻薬の栽培地があったことも、彼が増長する一因となっていた。

 外国へ高値で売れる麻薬は、男にとっては重要な資金源となっていった。

 革命の気運が陰り、組織が散り散りになったあとは、奪った麻薬畑で財を成し、一つの国であるが如く振舞っていた。

 この頃が、この男の最盛期だっただろう。

 だが、それは長くは続かなかった。

 麻薬の利権を狙ったカルテル達との抗争。

 元特殊部隊や軍隊上がりが中心だったカルテル達に、ガルシア達が勝てる道理などなかった。

 多くの仲間が死んだ。

 銃弾の雨を受け、仲間の死体を傘にしながらも、なんとかアメリカの国境を越えられた。

 そして、再起を図った男が始めたビジネスは、人質ビジネスだった。

 観光目的でやってきた、馬鹿な連中を攫って家族を脅迫。身代金を稼ぐ日々。

 栄光に輝いていた、かつての姿はもはやなく。

 そこには、欲に塗れた、憐れな男の姿があった。

 

 

 

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