第43話「シャルロット王女の襲来!」



レオニス様は私の歩調に合わせて、私の隣を歩いています。


彼の凛々しくも気高い横顔を見ていると、心臓の鼓動が高鳴ります。


彼に対してだけ感じる、この気持ちが何かはまだよくわかりません。


レオニス様はとても勇敢で、凛々しくて、優しくて、素敵な人です。


だから、妹に彼を会わせたくありません。


レオニス様と結婚するのはシャルロットの予定でした。


彼女が隣国に嫁ぐのを嫌がったので、私が嫁ぐことになりました。


私がこの国に嫁いで来たとき、兵士達ががっかりしていたのを、今でも鮮明に覚えています。


レオニス様も表情にこそ出しませんでしたが、妹ではなく私が嫁いできてがっかりしていたはず。


妹はノーブルグラント王国の秘宝、麗しの王女と呼ばれる程の美少女です。


レオニス様が妹を見て、彼女に心を奪われたら……。


彼に「やっぱり結婚するならシャルロット王女がよかった」と言われたら……。


私とレオニス様は政略結婚で、まだ肉体的な関係はありません。


妹に心を奪われたレオニス様が、私と離縁し妹との結婚を強く望んだら……?


私は……彼の選択を受け入れられるでしょうか?


いつ、レオニス様に素敵な人が現れて離縁されてもいいように、心の準備はしてきたつもりです……。


ですが、いざその時が来ると心が落ち着きません。


そんなことを考えている間に、応接室に着いてしまいました。


あれこれ考えるのは性に合いません。


まだレオニス様が、妹に惚れると決まったわけではありません。


妹がレオニス様に失礼な態度を取らないように、妹をフォローすることだけを考えましょう!



 ◇◇◇◇◇



メイドが私達が来たことを妹に告げ、扉を開けました。


妹にどのような嫌味を言われるのか、覚悟していましたが……。


「お姉様、久し振りですね!

 ずっとお会いしたかったのよ!」


部屋に入るなり、妹に抱きつかれました。


えっと……何が起きているのでしょうか?


私たちは抱擁を交わすほど仲良しだったでしょうか?


それとも新手の嫌がらせでしょうか?


私は、状況を理解するのにしばらく時間がかかりました。


「お姉様、ごめんなさい!」


今度はいきなり謝罪されました。


美少女の妹が、瞳に涙を浮かべている表情は絵になります。


私が男だったら庇護欲をそそられていたでしょう。


「わたくし、祖国でお姉様が酷い目に遭っていると知っていました。

 知っていて何もできなかったの……!」


酷い目とは、離宮に閉じ込められ、食べ物や着るものを与えられなかったことでしょうか?


「お姉様への仕打ちは、お父様やお兄様が決めたこと……!

 非力なわたくしは口出しできなかったの……!

 どうか無力なわたくしを許して……!」


妹の話を纏めると、私に酷いことをしていたのは父と異母兄である。


自分は無力で二人には逆らえなかった。


だから私が虐められていたことに、自分は無関係です。


その件に関してなんの責任もありません。


……ということですね。


こんな風に謝られてしまっては、妹を責めることが難しくなります。


祖国での扱いを今さら蒸し返す気はありません。


ですが、正直妹にしてやられた感があって良い気分はしません。


ここにフェルがいたら、彼女の髪をチリチリにしていたかもしれません。


「ジャネットに、私に意地悪をするように命じたのはあなたではないのね?」


私は確認するように尋ねました。


「ジャネットって誰かしら? メイドの名前までいちいち覚えてないわ」


涙目で見上げてくる儚げな美少女……。


私が男だったら、妹の言葉を信じてしまったでしょう。


私は、ジャネットがメイドだとは一言も言っていません。


ジャネット=メイドと結びつけた時点で、彼女を使役していたのは自分だと認めたも同然です。


妹は、やはり信用できません。


そのとき、レオニス様の咳払いが聞こえました。


妹はレオニス様を呼んでおきながら、まだ挨拶もしていません。


彼女を諌め、早急に挨拶をさせなくてはいけません。


「シャルロット。

 あなたの謝罪を受け入れます」


私がそう告げると妹はほっとしたように胸をなでおろしました。


「だけど、いつまでも泣いていてはだめよ。

 あなたはノーブルグラント王国の王女。

 この国に来たのなら、王太子であるレオニス様にきちんとご挨拶をなさい」


私はなるべく穏やかな表情で、妹に話しかけました。


ここでまた、妹に泣かれると面倒だからです。


謝罪を受け入れましたが、許すとは言っていません。


「そうでしたわ。わたくしったら王太子殿下にご挨拶もしていませんでしたわ」


妹は涙を拭い、カーテシーをしました。


「王太子殿下、お目にかかれて光栄です。

 ノーブルグラント王国の第二王女、シャルロット・ノーブルグラントです」


妹は私と違い、王女教育を受けています。


なので、カーテシーも優雅で様になっています。


妹はカーテシーを終えると、レオニス様に向かってにっこりと微笑みました。


妹はウェーブのかかった長い金色の髪、サファイアのような美しい瞳、白磁のようにきめ細かな肌をしています。


彼女は真っ赤なドレスを纏っていました。


そんな彼女が愛らしく微笑むと、お人形のように美しく、人の目を引き付けました。


この部屋にいた使用人は、彼女の笑顔に釘付けになっています。


「初めまして、シャルロット王女。

 俺はレオニス・ヴォルフハート。

 この国の王太子だ。

 君はアリアベルタの妹。

 義兄として歓迎する」


レオニス様も優雅に挨拶を返しました。


「彼が王太子……?

 ……嘘! 筋肉だるまでも、馬鹿そうでも、不細工でもないわ……!

『殺戮の王太子』なんて呼ばれているから、死神のような不気味な男か、トロルのように知性を感じさせない大男だと思っていたのに……!」


妹がレオニス様を見て目を大きく見開いています。


「漆黒のさらさらした髪に、ルビーの瞳、理知的な切れ長の目。

 黒のジュストコールを優雅に着こなし、甘い香水の香り。

 がっしりとした体格で、背が高く、少し影のある表情。

 わたくしの理想の王子様だわ……!」


妹は口に手を当ててボソボソ話しているので、何を話しているのか聞き取れませんでした。


妹は、瞳をきらきらと輝かせレオニス様を見つめていました。


なぜか凄く嫌な予感がします。


偶然かもしれませんが、妹が纏っているのはレオニス様の瞳の色の真紅のドレスでした。


それもあってか、見目麗しい二人が並んで立つと、まるで一対の人形のようでとても絵になりました。


なぜだかわかりませんが、私はそんな二人を見て、胸の奥がもやもやしていました。


「レオニス殿下のお近づきになりたいわ!

 もっとあなたのお話を聞かせてください!」


シャルロットがレオニス様に近づき、彼の腕に自分の腕を絡めようとしたとき……。


扉がノックされました。


「入れ」


レオニス様が許可を出すと、侍従長さんが部屋に入ってきました。


「王太子殿下、来客の対応中失礼いたします。会議のお時間です」


「そうか、もうそんな時間か?

 すまないアリアベルタ、俺は席を外す。

 シャルロット王女の対応は君に任せていいだろうか?」


「はい、レオニス様。お任せください」


突如やってきた妹の対応より、会議の方が大切ですよね。


レオニス様と妹が一緒にいると、なぜか胸の奥がもやもやするので、彼には会議に行ってもらった方が安心します。


レオニス様は私に顔を近づけ耳元で囁きました。


「シャルロット王女が、君に非礼を働いたら直ぐに伝えてくれ。

 何か理由を付けて彼女を国に送り返す」


耳元で囁かれると、こそばゆい気持ちになります。


彼に至近距離で見つめられ、心臓がドクンと音を立てました。


妹とレオニス様が並んでいる時に感じたもやもやが、いつの間にか消えていました。


妹がこちらを睨んでいるのに気づき、私はレオニス様から距離を取りました。


「心配いりません。レオニス様は会議に集中してください」


私は彼を安心させるように笑顔で答えました。


「わかった」


レオニス様は侍従長を伴って部屋を出ていきました。



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