第16話 白虎

 小学校を終えた後ライは通学路を歩き下校していた。住宅街を抜け、大きな交差点に出たとき、赤信号で待ちながら何となく行き交う車を眺めていると


「あっ…。」


 ライとは違う方向の横断歩道を渡っている歩行器を使って横断している老婆がいた。もちろんそこを横切る車道の信号は赤のはずだが、それを無視したトラックが老婆に近付いていた。

 運転席を見るとトラックの運転手は居眠りをしていた。

 若干の蛇行運転をしながら老婆に近付いていくトラック、周囲でも気付く人が続出している。だが誰一人助けようとする者はいなかった。


「っ…!」


 咄嗟に人のいないところに行き、龍王装甲に変身し、間一髪老婆を抱きかかえトラックから救った。老婆を安全な場所においた後今度はトラックの前に降り立ち、トラックの走行を止めた。


「はっ…!!」


 トラックの運転手は眠気が覚めたようだった。


 最近ライは戦闘以外の人助けなどの活動を行うようにしている。それは早川からの指令で


「戦い以外でもその力が使い道を探すこと。」


 いたずらに力を使わないようにと早川からの願いであった。

 それからライは龍王装甲の姿で色々な人助けをしている。だがそれは主に道案内や荷物持ち、マナーを守らない愚か者を懲らしめたり、喧嘩の仲裁などやることは多岐にわたる。

 今日も建物の屋上から困っている人がいないか見渡している。


「!」


 路地裏で数人の髪を染めたガラの悪い男たちが気弱そうな少年を壁面に追い詰めて囲んでいるのを発見する。


(カツアゲ…?)


 どっちにしろこれは止めなければいけないと、ライは動き出す。


「なぁ、ちょっと財布の中チェックさせてくれよ〜」


 サングラスをしたガラの悪い男が少年に迫る。


「や、やめてください。」


 少年はリュックを強く抱きしめて守ろうとする。


「借りるだけだからよぅ〜、はよよこせボケェ!!」


 耳元で怒鳴られ少年はビクビクと震える。


「オイオイ、何やってんの?」


 ライが降下してきて着地を決める。


「オッホホホ~絵に描いたようなダサい悪だね。」


「っだ、てめぇ!?」


 ライの登場に全員がライの方を見る。


「オイ、あいつ最近有名なコスプレして人助けしてる変態だ!」


 ヤンキーの一人が呟く。


「変態じゃない!」


 その言葉にライはすぐに反応する。そこでライは気付く。よく見るとこのヤンキー達釘バットやチェーンを持っていることに。


「なるほど漫画のヤンキーそのものってわけか。髪染めてイカツイ格好して数人で固まって自分は最強だと思っている、臆病者ね。」


「さっきからディスってんじゃねえぞ!変態が!」


「憂さ晴らし痛い目に遭ってもらうか!」


 頭に血が上ったヤンキー達がかかってくる。


「一つ言っておくけど、サングラスは日本人には似合わないからやめたほうがいいよ。カッコつけてるつもりだと思うけど滑稽で笑い者だから。」


 ライはヤンキー達の攻撃を軽々と躱しながら、一人ひとりカウンターを決めて、全員をK.O.する。


「さぁ、起き上がる前に逃げたほうが良いよ。」


 ライは少年に声を掛ける。


「あ、ありがとうございます…。」


 呆気にとらわれながら少年は動き出す。


「これからは人気の多い場所を歩いたほうが良いね。じゃっ!」


 ライは跳び上がり建物の屋上を飛び渡っていく。


 町での活動をひとしきり終えた後は基地での訓練を受ける。訓練を終え、皆と憩いのひとときを過ごしていたとき。

 談話室に早川が入ってきた。


「すまない、皆そのままで聞いて欲しい。」


 早川の顔は少し緊張感があった。


「古い文献からわかったことだが、メガフィスに抵抗する勢力がメガフィスから奪取した秘宝を何処かに隠した記述があった。で、その隠し場所も解読できた。」 


「本当ですか?」


 ライは早川に尋ねる。


「うん…、ライ君、君は今まで2回君の鎧と似た姿の人物と戦っているね。」


「はい…。」


「こちらでも前回の戦闘の映像が確認出来た。アスカロンにグラムこれらはどちらも伝説で語り継がれている武器に外見がそっくりなんだ。」


「じゃあ…!」


「間違いなく奴らはこれらの武器を集めているに違いない。」


「そんなドラゴン退治の剣なんて空想だろぉ?」


 ネイルが横槍を入れる。


「いや、そうとは言い切れないわ、現にメガフィスは怪物を使役しているし、ライの鎧だって彼らが探し求めていたモノの一つなんだから。」


 オリビアが現実に起こっていることだとネイルに対して話す。


「エクスカリバー、トライデント、グングニル、伝説や神話で語られている武具は幾らでもある。メガフィスは遥か昔それらを全て収集したが対抗勢力によって奪われ隠されてしまったようだ。」


「それで、その場所は?」


 黒部は早川に尋ねる。


「このより50km北西の黒神山。」


「黒神山…」


「これは君のお爺さんも文献の解読に協力してくれているんだ。」


「おじいちゃんが…。」


 ライの祖父英丸はライの父研二がメガフィスに誘拐され、その手がかりを掴むべくメガフィスについて調べている。


「今日はもう遅い、明日の午前10時現地に行き、捜索を始める。」


 早川の言葉に全員が頷き、敬礼をする。


(明日10時、黒神山…なんだかソワソワする。)


 ライは黒神山に対し秘宝を探しに行くだけでなく、行かなくてはならない何かを感じ取っていた。



 舞台変わりメガフィスの拠点、前回のノワール達の都市を乗っ取り前線基地を建てる目論見は失敗したが、密かにそれと同時並行で孤島に基地を建てていた。


「秘宝の在処がわかった。」


 シュタールが将軍達を集め、開口一番に語った。


「それは何処にあるんだ?」


 ボルダーが尋ねる。


「黒神山だ。」


 モニタースクリーンに現地の映像が映る。


「今までディーグ1人が秘宝の捜索にあたっていたが今回は我々も行う。なぜなら御使いの連中も同様の情報を手に入れたからだ。」


「なんだって!」


 将軍達は驚く。だがシュタールはそれをよそに話を続ける。


「なので早速行動に移したい。問題は山の何処にあるかまではわかないことだ。何かしらの建物の中なのか地中深くか検討がつかない。そこで皆の配下から適した人材を出して欲しい。」


「なら、うちからだそうかねぇ。」


 グリモワが最初に声を上げた。


「出てきな、スコープモンキー。」


 グリモワに呼ばれて眼鏡猿の怪物が現れる。


「お呼びでしょうか、グリモワ様。」


 膝をつき、頭を垂れてスコープモンキーは言う。


「お前の千里眼で秘宝を探し当てるのだ。いいね。」


「はっ!承知しました。」


 グリモワからの命を受けそれに応える。


「なら、うちからも出そう。」


 次に声を上げたのはフレオーンだった。


「ドリグラ、此処へ。」


 フレオーンの呼ぶ声と共に床の一部分に亀裂ができ、それが穴となり、中からモグラの怪物が現れる。


「ドリグラただいま参上いたしました。」


 穴から出て来て、スコープモンキー同様に膝をつき頭を垂れる。


「ドリグラお前の硬い岩盤も掘り進む力で秘宝を探し出すのだ。」


「ははっー!」


 フレオーンからの命を受け、ドリグラはそれに応える。


「私からも出そう。対御使いとして戦力を。アルマジティック!来い。」


 シュタールの呼ぶ声に応じ、巨大な鉄球が転がって来る。鉄球はシュタールの前で止まるとアルマジロの怪物に変わった。


「アルマジティック参上いたしました。」 


「アルマジティック、お前の圧倒的パワーで秘宝探しの最大の障害となる御使いを叩き潰すのだ。」


「お任せください、シュタール様。私が見事御使いを倒してみせます。」


 自信満々にアルマジティックは豪語する。


「うむ、では早速黒神山に行き、成果を上げてくるのだ。」


 シュタールの号令で3体の怪物は現地へ向かって行った。


「ムッ…!」


 3体が行ったあと、何者かの気配をボルダーが感じ取る。


「貴様、ティーグ。」


 フレオーンが現れた人物の名前を言う。金髪の青年ティーグその人だった。


「お前何しに来た!?」


 ブレイズが怒ったように問いかける。


「なに、俺も今回は同行するのか確認しに来ただけさ。」


 フッとティーグは鼻で笑う。


「勿論お前にも行ってもらう。今までの秘宝を探し当てた実績があるからな。」


 シュタールはティーグにそう返す。


「ホントに出来るのか、コイツは2度も御使いに一矢報われて、逃げられてるんだぞ?」


 ブレイズがこれまでのティーグのライとの戦いでの不甲斐なさを指摘する。


「しかも見つけた秘宝を勝手に使って、それでも押されてるんだぞ。」


「いや、そこは御使いが戦闘慣れし、成長していると判断すべきだろう。それにティーグよ、お前はまだ本気は1回も出していないな?」


 ボルダーがフォローを入れ、ティーグに実力はまだ隠してあると見ていた。


「ふっ、そうさ俺はまだ獣王装甲の力そのほんの一部分しか出していない。そろそろヤツの息の根を止めるころだろう。」


 ティーグはブレイズの批評などどこ吹く風で冷静にボルダーの問いに答える。


「では俺も行くとしよう。」


「吉報を待っているぞ。」


 シュタールはそう言いティーグを見送る。


「ケッ、あの野郎クール気取りやがって。内心ビクビクしてるクセに。」


 ブレイズはティーグの余裕な態度に悪態をつく。


「まあ、良いではないか。獣王装甲は龍王装甲と比べてより戦闘に特化したモノだ。戦闘技術に長けたヤツが使っているなら御使いに引けは取らないさ。」


 ボルダーはブレイズを宥め、自分なりの評価を口にする。


「先代の師から受け継いだモノだ。ヤツもそれに恥じないよう内心必死な筈だろう。」


「まあ何にしろちゃんと秘宝を回収出来ればいいけどねぇ。」


 グリモワは水晶を拭きながら呟く。


「ウム、此度の作戦どうなることか…。」


 シュタールは腕を組み、モニターを眺めるのだった。




 黒神山捜索の当日、ライ、オリビア、黒部、芽琉のその日動ける四人が現地へ来ていた。

 大勢で来るとメガフィスに気付かれることを想定し、四人だけで行うことになった。

 黒部が三人にこれからの行動について話す。


「メガフィスが探し求めているものだ。そこら辺にポンと置いてあるものではない。そうすると祠や洞穴を探してみよう。隠されているなら恐らくそういうところだろう。」


「地中に埋まってる可能性もあるかも…。」


 芽琉は小さく手を上げ意見を述べる。


「それについては機材を運搬してある。地道だがしらみ潰しで探すしかない。」


 黒部は地中を調べられるセンサーを取り出し、まず自分たちの周囲を調べる。反応はなし。

 二手に分かれることになった。ライも変身しセンサーを持つ。


「ゴッドバロン…。」


 芽琉はボソッと呟く。


「恥ずかしいから追わないで…。」


 ライは頭を抱えて恥ずかしがる。先の戦いで友人達の前で即興で名乗り、今は町の保安活動をしているライはゴッドバロンと巷で少し有名になっていた。


「簡単に神なんて付けるのダサすぎる。ネーミングセンスがあれば良かった。」


 自分で名乗っておきながらライはゴッドバロンの名前についてブツブツと文句を言いながら捜索を始める。ライとオリビア、黒部と芽琉に分かれて行動する。




 一方黒神山のライ達のいるところとは反対にある箇所でアルマジティック、スコープモンキー、ドリグラ達も秘宝の捜索を始めていた。


「ドリグラお前は地面を掘り進め、ワシはこの目で探す。」


「わかった。」


 スコープモンキーから指示を受けドリグラは地中を掘り進む。そのスピードは速く、あっという間に身体全体が土の中に潜っていった。


「秘宝探しは任せる。私は御使いを倒すことに専念する。」


 アルマジティックは自慢のスティックを持ち戦いに備える。

 そこに一体のオークコングがアルマジティックに耳打ちする。 


「ハハハ、そうか。奴らもここに来て宝探しを始めたか。なら早速討伐に行くか。」


「頼んだぞ。」 


「猛者達の集まり鎧族の実力見せてくれ。」


 アルマジティックはスコープモンキーとドリグラに見送られ、ライを倒すため移動を開始した。



 ライとオリビアはセンサー片手に秘宝の捜索をしていた。黒部、芽琉とは逆の方向を行き、山の反対側で落ち合う予定となっていた。

 古びた山小屋、意図的に積まれた岩山など目についた怪しいものはくまなく調べた。しかし見つからなく、センサーは今だ反応を示していない。


「ないわね、こう少し高い場所に登りましょ。」


 2人は山を登っている最中、それは来た。


「アルルルルルルッ!!」


 山中に響き渡るような唸り声と共にライとオリビアの周囲を木や岩に擬態していたオークコングが囲む。そして2人を見下すようにアルマジティックが現れる。


「見つけたぞ、御使い。お前たちの計画の邪魔をしてやる。」


「お前は誰だ!」


 指を差しライは叫ぶ。


「私は鎧族のアルマジティック。この山にある秘宝はお前たちには渡さない。」


「なっ、鎧、鎧族だって!?」


 鎧族の名を聞きライは動揺する。かつて鎧族のオニサザエと戦い、大いに苦しめられたことでライにとって鎧族は苦手意識があった。


「行くぞ!」


 アルマジティックの掛け声と共にオークコング達が襲って来る。

 ライとオリビアは襲いくるオークコングを次々と倒していく。


「さぁ、御使い来い!私の狙いはお前だけだ。」


「くっ…!」


 ライの身体は震えだした。鎧族に対する恐怖で。だが、覚悟を決めて先手を繰り出す。


「それっ!!」


 地を蹴り、高く飛び上がると飛び蹴りを繰り出す。


「フフフ、どれほどのものか確かめてみよう。」


 アルマジティックは回避行動をとることをせず、ドンと胸を張り真正面からライの蹴りを受け止めようとする。


「タァッ!」


 ドスンッ!

 蹴りは見事にアルマジティックの胸に命中した。しかしアルマジティックは1ミリも動くことはなかった。

 ライは着地するとササッと距離を開けた。


「はははっ、どうした!?そんな貧弱な蹴りでは倒れんぞ!」


 胸を叩きながらアルマジティックは笑う。


「クソッ…このぉぉぉ!」


 挑発を受けたライはヤケになったかのようにアルマジティックを殴って殴って殴りまくる。


「そうだ、そうだ、もっと来い!そのか弱い拳でいつ俺に痛みを与えられるかな?」


 拳の連撃を受けてもアルマジティックは一向に平気な態度を取っている。それどころか殴っているライの拳の方が痛んできていた。


「フフッ、御使い大したことないな。」


 アルマジティックは左腕を上げると、そのままライに振り落とした。

 肩に直撃を受けたライは無様に地面に叩きつけられた。


「アッ…アアアアッ…!!」


 全力で撃ち込んだライの拳では何のダメージを与えられなかったのに対し、アルマジティックは軽く腕を振っただけでライを簡単に地面に叩き伏せた。

 

(わかっていたけどこれは無理だ!)


 圧倒的パワーの差を見せつけられ、ライは戦い方を変える。


「そりゃっ…!」


 倒れた格好から体勢を直すとアルマジティックの足に自分の足をかけ、転倒させる。


「うおっ?!」


 咄嗟のことであったがアルマジティックは素早く受け身をとる。


「とおっ!」


 倒れたアルマジティックの胸を踏んで跳躍する。充分に距離をとったところに着地をし、敵のいる方向に振り返る。


「電龍波発射!」


 ライは電撃を浴びせる。しかし、電撃の直撃を受けてもアルマジティックはピンピンとしている。


「そんな攻撃がどうした!?」


 まるでダメージのないアルマジティックは笑い飛ばすほどの余裕を見せる。


「くっ…ニ槍龍!」


 続いてライは光の槍を2本アルマジティック目掛けて投げる。


「そんなの…!」

 

 アルマジティックは1本はスティックで叩き落とし、胸の装甲で弾き返した。


「まだっ…。ダブルナックルビーム!」


 焦るライは両拳から光線を放つ。それをアルマジティックは左手で難なく受け止める。


「なっ…!!」


 ライは驚愕する。接近戦では不利と判断し今現在のライの威力の高い技で遠距離戦に持ち込もうとしたが尽く破られてしまった。


「では今度はこちらが技を見せる番だ。」


 今だに傷一つ負っていないアルマジティックはスティックの先端をライに向ける。

 ズバババッ!!!

 スティックには機関銃か仕込まれており、ライ目掛けて発射された。


「あああっ…!!」


 回避運動をとるよりも速く、機関銃の弾はライの胴と右脚に命中する。激痛が走りライはその場で倒れてしまう。


「ライ!!」


 オークコング達を相手取っていたオリビアがライを助けるためアルマジティックを仕掛ける。


「はっ!」


 クレセントウィップをスティックを握るアルマジティックの右手に巻き付ける。


「むっ?女!このようなちゃちな刃の付いた紐で私をどうにか出来ると思ったか!」


 アルマジティックはクレセントウィップを引っ張り手繰り寄せる。オリビアも抵抗したがメガフィス一の力を誇る鎧族には適うはずもなく、引っ張られ、振り回され、地面に叩きつけられる。


「なんとか…一撃を…!」


 オリビアはすぐに立ち上がり、スーツの肩から小型ミサイル、腰部分からランチャーを発射する。


「おおおっ…!?」


 アルマジティックは直撃を受け、黒い煙がたつ。だが煙が晴れるとアルマジティックは無傷で立っていた。


「なるほどそのスーツにはそれなりの火力の火器が内蔵されているのか。記録を観ていたが侮っていた。だがそれでも私の装甲は貫けん!!」


 アルマジティックはスティックの機関銃をオリビアに向けて発射する。

 ババババババババッ!!


「っ!!!」


 オリビアはクレセントウィップを素早く振るい機関銃の弾丸を弾く。

 だが弾丸を弾けば弾くほどクレセントウィップの刃は欠けていく。

 ピューン!!

 はね返った一発の弾丸が真っすぐアルマジティックに返っていき、左大腿部に命中した。


「のあっ!!!」


 貫通はしなかったが大腿部を掠め装甲に傷が付いた。まさかの出来事にアルマジティックは咄嗟に左大腿部を押さえた。


「このっ…!よくもっ!!」


 怒りに震えるアルマジティックはスティックをオリビアに投げつける。


「あああっ…!!」

 

 スティックを胸部に受けたオリビアは倒れる。


「せええぇい!!」


 そのままアルマジティックは接近すると自慢のパワーでオリビアを叩きのめした。

 ドッ!

 アルマジティックは背中に何かが密着してくるにの気付く。


「むっ…!?」


 「油断したな、オイラを疎かにするとは。」


 ライが背後から接近し、アルマジティックの首に腕を回し絞める。


「貴様…!」


「よいしょ!」


 アルマジティックの首を絞めたまま回り始める。遠心力でアルマジティックの体が浮く。

 アルマジティックの体が90度の直角になるほど遠心力が付いたところで腕を解き投げ飛ばした。

ドーーーン!!!!

 アルマジティックが地面に落ち、地鳴りが起こる。


「ど、どうだ?くっ…なんて重さだ!」


 投げ飛ばしたライはアルマジティックの重さでヘロヘロになる。


「ほぅ、非力なりにも戦い方があるようだな。」


 へこんだ地面が身を起こし、アルマジティックが這い出てくる。


「御使いの力もっと私に見せてみろ!!」


 体に付いた土を払いながらライを挑発する。


「チッ!」


 腹を括り真っ向勝負に出ることにライは決める。

 2人は一定の距離を保ちながら睨み合う。


「行くぞ!」


 ライが先制攻撃を仕掛ける。


「トオアッ!!」


 相手の懐まで急接近し、顔、胸に拳を何度も何度も必死に叩き込む。

 しかしアルマジティックに対してダメージを与えられない現実があった。


「…!」


 ライは1歩引き、右腕にエネルギーを集中する。


「ゼロ•ポイントナックルビーム!」


 パンチと共に拳を密着して光線を放つ。


 「効かんなっ!!」


 アルマジティックの分厚い装甲にはそれすらも無意味だった。


「こっちの攻撃だ。」


 アルマジティックは剛腕を振る。 

 ライは本能的に危険を察知し、右腕の攻撃を躱す。すかさず左手に持ったスティックがライに振り下ろされる。


「あぶっ…!」


 ライはスティックを両手で防ぐ。スティックを押すアルマジティックの力強さに冷や汗が流れる。


「ふんっ!」


 ガラ空きのライの土手腹にアルマジティックは蹴りを入れる。無防備であった腹部を蹴られ、ライは対応出来ず、蹴られた力だけで何度も後転し地面に倒れる。


「まだっ!」


 アルマジティックは跳び上がるとスティックを振り回し襲いかかる。

 初撃は躱せたが二撃目に当たり、ライは無す術なく、スティックの連撃殴打を食らってしまう。


「カッ!アアアァァ…」


 全身の激痛を堪えヨロヨロとライは立ち上がる。アルマジティックのパワーのダメージで立つのも限界だった。


「トドメだ。行くぞ!」


 アルマジティックは空高く跳び上がると体を丸めた。丸まった体は鉄球のようになり、回転を掛けライ目掛けて猛スピードで落ちてくる。


「さらばだ!!!」


 鉄球となったアルマジティックはライに衝突する。

 ゴオオオオオオオォォ!!!


「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」


 周囲数メートルの地面が抉れ、深さ数メートルの穴が出来た。

 ライの叫び声は聞こえたが本人の姿はなくなっていた。


「ライィィ!」


 見ていたオリビアはただただ叫ぶしかなかった。


「このっ…!!」


 怒るオリビアはアルマジティックに戦いを挑もうとしたが、圧倒的実力差があることを思い出し、クレセントウィップを振るうのを止める。


「悔しいけど退却したほうが良さそうね…。」


 ライを助けたいが今はアルマジティックから逃げなきゃならない。

 冷静にだけど悔しさ募らせオリビアは退却した。


「やった!御使いを倒したぞ!」


 クレーターの中心でアルマジティックは高らかに両腕を上げ、勝利を喜ぶ。 

 クレーターから這い出てオークコングに命令する。

 

「スコープモンキー達に伝えろ御使いは倒したので安心して秘宝を探せと。」


 そう言い残すとアルマジティックは自信に満ち溢れた様子でその場を後にした。




 黒部と芽琉はドリグラとスコープモンキーの一団と遭遇し戦闘に入ったところだった。


「ブルルルルッ!!」


 ドリグラの鼻が変形してマシンガンとなり銃弾を乱射する。

 2人はそれを躱し、芽琉は高速移動しドリグラに拳で攻撃する。


「ブッ、ハッ、グァ!」


 ドリグラはあらゆる方向から殴られる。

 近くにはドリグラが掘ったであろう大きな蟻地獄のような穴があり、オークコングたちが秘宝が入っているであろう金属のようなもので出来た箱を運び去ろうとしていた。


「むっ、あれが奴らの探していたものか。逃がすな。回収するんだ!」


 黒部の指示で芽琉は箱を運ぶオークコングたちに迫る。


「そうはさせるか!」


 スコープモンキーは千里眼状態に入る。その眼には高速で動く芽琉をしっかり捉えていた。


「そこ、キイィィィィ!!」


 スコープモンキーは手から火球を放つ。軌道、タイミング全て計算されて放たれた火球は加速する芽琉に命中する。


「いっ…!」


 直撃を受けた芽琉は数メートル転げるが、すぐに上体を起こしビームハンドガンで反撃する。


「キキキキッ!」


 スコープモンキーは軽い身のこなしでビームを避け、火球を放つ。芽琉はそれを避けビームで応戦し、そのまま応酬が始まる。


「だめだ、私が!」


 芽琉がスコープモンキーに妨害され秘宝を奪取出来ないと判断した黒部は自身が行こうとする。


「行かせん!」


 ドリグラは鼻をマジックハンドに変形させ、それを伸ばし黒部の右手を拘束する。


「なっ…!?」


「それっ!」


 ドリグラがワイヤー部分を引っ張ると黒部は地面に突っ伏し引きずられる。


「ちいぃ!」


 黒部はマジックハンドのワイヤーをビームで焼き切るとビームガンを撃つ。


「ブルルルル!」


 ドリグラは即座に穴を掘りこれを躱す。別の方向から顔を出すと鼻が変形したマシンガンで黒部の銃を狙撃する。


「くそっ…。」


 弾丸が直撃した銃を手放す。程なくして爆発する。

 ドリグラが穴から飛び出してくる。黒部は肩から小型ミサイルを発射する。

 ドリグラの鼻はプロペラに変形し回転する。強風を起こしミサイルの直進を阻害する。やがてミサイルは進路方向から弾き飛ばされ、あさっての方向に飛んでいく。


「こっちの番だ。」


 ドリグラは鼻をワイヤー付きの鉄球に変形させる。


「チューーン!!」


 身を低くし、鉄球を放つ。鉄球は勢い止まることなく黒部の左胸に直撃する。


「わあぁぁぁぁっ!!」


 衝撃で黒部は3メートルほど飛び、倒れた。左胸のスーツの装甲がへこんでいた。


「んっ…んっっ…!!!!」


 黒部は衝撃で震える体を無理やり起こす。手の甲から小さな物体を発射した後に腕のビーム砲で攻撃する。

 ドリグラはビームを躱した。だが直前に飛ばした小さな物体はドリグラの体に貼り付いた。それには気付いていないようだった。

 ドリグラは再び穴に潜り身を隠した。


「くっ…逃さない。」


 黒部はセンサー画面を開く。画面には地中での反応をキャッチしていた。そう先ほどドリグラの体についたのは追跡装置だったのだ。

 反応は今だに黒部の真下に留まっている。どうやら相手の出方を待っているようだ。


「動く気配はないか。ならっ!」


 近くに置いていた武器コンテナから武器を取り寄せる。コンテナから飛んできた武器をキャッチする。

 それは今までの銃より比べ物にならない太さと長さをしていた。そう、バズーカだった。


「よしっ、やってみるか!!」


 黒部はバズーカの出力を最大に設定し、バズーカを担いで跳び上がる。砲塔を下に向け、今だ反応がある地中に向けて狙いを定める。


「光学バズーカフルパワーだ!」


 叫びと共に引き金を引く。極太のビームが発射され、地面を撃ち抜き、轟音と共に爆発が起こる。

 黒部は爆発の衝撃で飛ばされるがスーツのブースターを利用し上手く着地した。

 ビームの直撃を受けた地表はドリグラが掘った穴より大きくクレーターとなっていた。熱で土や岩が溶けていた。


「…!いたっ!」


 黒部は見つける。ダメージを受け倒れているドリグラを。

 黒部はクレーターの中に入り、ドリグラと対峙する。


「ぐ、ここまで痛い目に遭うのは初めてだ。この痛み倍にして返してやる!!!」


 鼻をマシンガンに変形させる、だがそれよりも早く黒部の腕のビームがマシンガンを破壊する。


「…っ!?」


 驚きながらも次は鉄球に変えて打ち出す。


「もう当たるかっ!」

 

 飛んで来る鉄球を躱し、ワイヤー部分を掴みビームで焼き切る。逆に鉄球を手にした黒部は振り回しドリグラに投げつける。

 ドスッ!!!


「うっ…!!!」


 鉄球は土手腹に当たり、ドリグラは腹を押さえてうずくまる。


「トドメをかける!!」


 黒部はトドメを刺すため一気に距離を詰める。


「覚悟っ!」


 トドメを刺すその瞬間、


「ううううぅ…オオオオオオオ!!!!」

  

 痛みを堪えやけっぱちになったドリグラが鼻をドリルに変形させ、向かって来る黒部を迎撃するように襲いかかって来る。

 

「ウッ!ウッ!ウッ!ウッ!」


 破れかぶれで鼻のドリルで連続で突きを繰り出す。黒部は冷静に動きを見切り全てを躱す。そして拳による反撃に移る。


「はあぁっ!!」


「ぐっ、ぎゃっ、あぶっ!」


 ストレート、フック、ボディブロー、裏拳、アッパーあらゆる殴打技を叩き込む。

 怒涛の攻撃を受けたドリグラはフラフラになり、ダウンする。


「今度こそ!」


 黒部はネックブリーカードロップでドリグラを押し倒す。

 そしてドリグラが起き上がるまで隙をついて黒部を両手を合わせる。スーツの装甲が展開し連結する。


「カッター光線」


 合わさったスーツの両手からカード型の光線が発射され、ドリグラを切り裂いていく。


「くっ、くそぉぉっ!!!」


 遂にドリグラの体は爆発し撃破した。

 黒部は休む間もなく消耗した体で地表まで登った。這い上がって目にしたのはスコープモンキーの千里眼で加速を見切られ苦戦する芽琉だった。


「あの目をどうにかしなくては…。」


 黒部は身を低くしスコープモンキーに近付く。


(バレてない、このまま近づけば…。)


 スコープモンキーは芽琉との戦闘に夢中で黒部が距離を詰めてきていることに気付いていない様子だった。


(気付くな、気付くな。)


 背後に周る事ができ、後ろから徐々に接近する。


(30、25、20、15)


バッ!!!!

スコープモンキーとの距離が15メートルを切ったとき、スコープモンキーが後ろを振り向き黒部を睨む。

 その眼は千里眼を発動し赤く光っていた。


(だめかっ!!)


「えぇぃい!!」


 咄嗟の判断、ダメ元で肩からトリモチ弾を発射する。

 ベチャ!


「イイイイィィ!?」


 トリモチ弾は上手くスコープモンキーの顔に命中し、千里眼を封じた。

 スコープモンキーはトリモチを剥がそうと両手で引っ張るが逆に手にも付いてしまい、手も取れなくなってしまった。


「今だ!」


 黒部の掛け声と共に芽琉は高速移動を開始する。加速を付けた蹴りでスコープモンキーを蹴り飛ばす。


「ぎゃああ!痛い痛い!」


 スコープモンキーは転がりながら悲鳴を上げる。


「これで。」


 芽琉は両手にビームナイフを持つと再び加速を付け、スコープモンキーに突撃する。


「んっ…!!」


 脳天から真っ二つに斬り、ダメ押しのように体全体を細かく切り刻む。


「っ?」


 辞世の句すら口に出来ずスコープモンキーは倒された。


「しまった…!」


 秘宝が完全に敵により運び去られたことに黒部が気付く。

 追うとするが足取り掴めず。黒部達は戦いに勝ちはしたが作戦そのものは失敗に終わった。



 

 




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