第15話 ハイエナ都市ジェノサイド③

 ノアは小隊を組まず単独行動を取っていた。


「ターゲット数56ロック、拡散レーザー発射!」


 パワードスーツの肩に装着したカナディアンキャノンから無数の閃光が放たれ、ハイエナ達を一掃する。現在、数対数の対軍戦においてノアのカナディアンキャノンは圧倒的な強さを誇っていた。彼1人で3桁、まもなく千に届くほどこの戦闘で敵を倒している。


「さて、彼を探しに行かないと、伊織やネイルが先に見つけたらその場で体罰ものです。」


 周辺の敵はあらかた片付けた。ノアはライの身を案じ、探しに行こうと動き出す。


「んっ?」


 移動の最中切れた電線を握り電力を吸収するエレキコオロギを偶然発見する。


「何者です!?あなた?」


 銃を構えエレキコオロギに対し、問いただす。


「イッ!見つかってしまったか。」


 エレキコオロギは体をビクッと震わせ反応する。


「俺はエレキコオロギこの都市の電力を奪うのが俺の使命だ。」


「盗んだ電力はどこにあるのです?」


「既に俺の身体から抽出され、前線基地のため使わせてもらう。」


「動くバッテリーみたいなものですか…」


「見て知ったからには死ね!」


 エレキコオロギは口から電撃を帯びた矢を発射する。


「おわっ!」


 ノアは矢を避けるとビーム銃で応戦する。お互い撃ち合いに発展する。


「むうっ…!」


 ノアは発砲しながら距離をジリジリと詰めていき隙をついて格闘戦を仕掛ける。


「とあっ!」


 殴りかかるが避けられ失敗に終わる。が、諦めずジャブを繰り出していく。


「ギェギェギェギェギェ!」


 それもエレキコオロギに躱される。しかしエレキコオロギも余裕が無いようで避けるだけで精一杯といった様子だった。

 ノアはEAGESTの中でもトップと言っていいほど恵まれた体格をしている。その筋骨隆々とした腕から放たれる拳は並の成人男性など比ではないパワーがあり、拳を振るう速さもかなりのもの。

 ノアのジャブは確実にエレキコオロギを追い詰めていく。


「ハァッ!ハァッ!ハッ!!」


 バキッ!!

 ノアの左拳がエレキコオロギの胸部に叩き込まれる。それなりに重い一撃が入ったと思ったそのとき、

 バチンッ!!


「うっ…!!」


 殴ったノアの左拳に強い電流が流れる。思わず後退り、左腕を押さえる。


「ギェギェ!馬鹿め俺の身体は電撃を纏っている。それがバリアの役割を果たし、物理的衝撃から守っているんだ。」


 胸をさすりながらエレキコオロギは話す。


「くっ…!」


 ノアは押さえる手を離す、痛みは引いてきたが痺れが残っている。すぐさま銃を発砲し、エレキコオロギを遠ざける。


(左腕部分のビーム発射機能が故障したか…何より腕の自由がまだ利かない!)


 ノアは左腕を庇いつつ、移動しながら銃を撃つ。一方エレキコオロギは今まで手加減していたのかと思うほど素早い動きを見せ、矢を撃ち翻弄してくる。撃ち出す矢も都市電力の残りを利用したものなのか相当に強い電撃を纏っており、次第に追い詰められていく。


「このっ…!なら!」


 ノアは腰部分からグレネード弾を発射する。


「馬鹿め、物理的衝撃は効かないと言ったはずだ!」


 エレキコオロギは余裕綽々とグレネード弾に当たる。だがそれはエレキコオロギに命中すると強い閃光を放つ、スタングレネードだった。


「なっ、なっ…目、目がっ!」


 不意の強烈な光でエレキコオロギは視界を奪われる。しかしすぐに視界は回復する。


「な、何!?いない!?」


 ノアを見失い周囲を警戒するエレキコオロギ。


「ここだ!!」


 背後からの声に気付き後ろを振り向く。そこには右手で銃を構えるノアがいた。


「取った!」


 銃口からビームが放たれる。エレキコオロギは回避行動を取るが至近距離からのビームは回避することが出来ず脇腹を撃ち抜かれる。


「ギイィィィーー!!」


 脇腹を押さえエレキコオロギは痛みに悶える。穴の空いた箇所からは電気が漏れ出ていた。


「こ、こいつ、やってくれたなぁー!!!」


 怒ったエレキコオロギは仕返しとばかりに矢を連射する。


「とおっ!」


 ノアはそれを垂直跳びで回避する。


「来てくれ!」


 宙に舞ったノアはカナディアンキャノンを呼び出す。コントロールされたカナディアンキャノンの上に着地する。グライダーのように乗ったまま浮遊し、エレキコオロギと対峙する。


「拡散レーザー発射」


 カナディアンキャノンから無数の閃光が発射される。それをコオロギは巧みに避ける。


「ならっ…!」


 ノアはカナディアンキャノンの仕様を変える。砲塔から炎が放たれ、火炎放射で周囲を焼き払う。

 

「ギッ…!ギッギッ!!」


 エレキコオロギは全身を炎に包まれ、身を焼かれ苦しむ。


「今ッ…!!」


 ノアはカナディアンキャノンから飛び降りる。キャノンの砲身、ひいては全体が赤く熱を帯びる。


「マグナム•ブラスト発射!」


 二対の砲塔から赤い巨大な光球が発射される。


「ギェギェ!!ギイェェェッ!!」


 エレキコオロギは光球に飲み込まれ、断末魔をあげる。それと同時に光球ぎ爆発し、周囲に電撃の波が広がる。




 ライは困っていた。ショッピングモールで友人達を救った後、他にも生き残った民間人の女性を発見し、救助したが新たな問題に直面する。

 女性のお腹は大きく、子どもを身籠っていた。

 ライは透視能力で女性のお腹の中の胎児を見る。


「怪我とかしていないようだ…。」


「見ルカラ二子ドモハ大キイガ産マレルマデマダマダ時間ガカカリソウナ姿ダ。」


 床にへたりこんでいる、女性に手をさしのべ立つのを手伝う。1人で立つのもやっとといったところだ。


(どうしよう…激しい動きや走らせることは絶対にさせられない。)


 ライは心のなかでこの女性を一緒に連れて行く方法を考える。自分が抱えて移動できるが急な敵襲があったとき対応することが出来ない。


「ー!」


 そこであることを思い出す。妊婦の女性をお姫様抱っこで抱きかかえ、フロアに出る。そこにはショッピングモールに備え付けてある車椅子があった。本来は折りたたまれ目立たない場所に置かれているが誰かが使ったのか放置されていた。移動している最中これを見つけたのを思い出していた。

 ライは女性を降ろすと語りかける。


「不本意だと思いますが今はコチラに乗ってください。全員で生きてここから出るためには皆にそれなりに動いてもらう必要があります。それに…」


 さっと膝を地面につき、赤ん坊がいるお腹に目線を合わせる。


「私が貴女を見つけられたのはこの子のおかげなんです。お腹の中のこの子が貴女の助けを求めたんです。」


 ライが女性を助ける前に一瞬聞いたものは赤ん坊からのSOSだったのだ。


「だから貴女はこの子を何としても産まなければならないんです。どんな事があっても…。」


 ライの言葉で女性は車椅子に乗る。車椅子を怜樹が押して皆で移動する。目立ちにくい箇所にある階段を降りようとしたがシャッターが降りており、破れば大きな音がして敵が寄ってくるためこれを断念。停止しているエスカレーターを下っていくことにした。

 エスカレーターを下るときはライは女性を抱えて、カップル2人が車椅子を担いで、出る音は最小限になるよう静かに降りていった。2階、そして1階に降りてくることが出来た。

 ここでライは思う。


(おかしい、こんなに上手くいくかな…?けして多くなくてもハイエナはこの建物の中にいたはず。)


 その答えはすぐに出る。


「グルルルッ…!!」


 今までにないほどの数のハイエナ達が待っていましたとばかりに暗闇から攻めてくる。


「走って!」


 ライの一言で皆一斉に走り出す。


「2つ目の曲がり角を右に曲がったら出口。」


 先頭を小学生3人が走り、ライは最後尾で追っ手を迎撃しながら走る。1つ目の曲がり角に差し掛かったとき、


「わあぁぁっ!!」


 先頭を走っていたミクが右に曲がってしまった。パニックと緊張から焦って間違ってしまった。


「あ、ちっ、違っ…!」


 ライが違うと言おうとした時には既にその後ろにいたリュウ、リキも右に曲がってしまい、やがて全員がそれについて行ってしまう。

 1つ目の曲がり角を曲がった先は行き止まり。正確にはエレベーターがあるだけだった。


「「あああっ…!!!」」


 全員が絶望に飲み込まれてしまう。


「仕方ないっ!」


 後ろから追ってくるハイエナをノールックで蹴飛ばし、ライは加速しエレベーターの前にたどり着く。


「くうっ!うぅぅぅ…!!」


 指を食い込ませ力尽くでエレベーターを開ける。


「さぁ、入って!」


 エレベーターの中に6人を入れる。


「くぅ!んんんんっ!」


 そして力尽くで扉を閉める。

 ガタンッ!

 エレベーターを完全に閉めたとき、背後には追いついた敵の群れがライを囲んでいた。そしてその中から人型の獣が現れる。


「ヘヘへッ!追い詰めたぞ、御使い。」


「お前は誰だ!?」


「俺は獣族ノワール。このハイエナ達のリーダーだ。」


「お前がこいつ等を…街の人達になんてことを…!」


「そうだ、俺が殺らせた。お前も死んでもらうぞ、ここで!」


 ノワールの指示と共にハイエナ達が一斉に襲いかかる。


「負けるかっ!うおおおっ!」


 ライはハイエナの群れに真っ向からぶつかっていく。拳が蹴りが爪がハイエナを蹴散らす。

 それに負けじとハイエナ達も連携プレーであらゆる方向から爪と牙で攻撃してくる。

 首、腕、胴、脚にハイエナが噛みつき強力な顎の力でじわじわとダメージを与える。


「ううぅ…ボディスパーク!」


 ライは身体からエネルギーを放ち、敵を吹き飛ばす。そこに、


「ギャェェ!」


 ノワールが直接戦いを挑んできた。


「ギャェ!」


 ノワールが手の鋭い爪で攻撃する。ライはそれを避けると接近し攻撃を仕掛ける。


「ハァァァ!」


 ガキンッ!

 ライの手甲の爪ドラゴンクローとノワールの爪がぶつかり合う。

 ガキン!ガキン!

 そのまま2人の爪での応酬が始まる。そのやりとりの中ノワールはアイコンタクトでハイエナに合図を送る。


「このぉぉぉっ!」


 ライが右腕を振りかざした瞬間、


「ガウウウゥ!!」


 数匹のハイエナがライの右腕に噛みつく。


「おおおっ!?」


 ライはバランスを崩し、後ろに倒れそうになる。その瞬間をノワールは見逃さなかった。


「今だ!ビームバイト!」


 ノワールは口を大きく開け、歯型の光弾を発射される。


「わっ…!」


 反応する間もなくライは直撃を食らう。

 ドサッ…

 ライはその場で倒れ込む。


「御使いっていうのは案外大したことないんだな。お前の行動は全部見させてもらった。わざわざあんな腹の大きい女まで助けるとはお優しいこった。普通足でまといで捨てて行くだろ?それにガキ共だってあいつらがヘマしなければ今頃逃げ切れただろうに、お前がこんな無様に倒れることもなかったのに。」


「うぅっ、うう…」


 ライはフラフラとしながらも立ち上がろうとする。


「もうじきここに前線基地を建て日本を侵略し、世界を支配しメガフィスは再び世界に君臨するのだ。そのとき人間は我々の食料かオークコングの素体になるだけ、だから今のうちに死んだほうが幸せというもの。」


「……」


 ライは両脚でなんとか立ち上がる。


「お前を倒し、あの中にいる人間共も喰い殺す。特に腹の中の胎児は柔らかく格別にうまいぞ。へへへ」


「…っ!そうはさせない。それにあの女性のお腹の中の子を見て誓ったんだ。生まれてきて良かったと思える素晴らしい世界、それを創るのをオイラの使命にすると。」


 ライは近くにいた2体のハイエナの死骸を掴み、ノワールに投げつける。


「ッ!」


 一瞬ライが視えなくなる。そのすきにライは地面低く、前転でノワールの足元まで近付く。


「せりゃあっ!」


 背中を床に付け、両脚を伸ばし、ノワールを蹴り上げる。


「のおぉっ!!」

 

 ドンッ!

 ノワールは天井に激突する。負けじとノワールもビームバイトで反撃する。

ゴオオォォ!!

 ライの周りにビームバイトが炸裂し煙が立つ。その中からライが飛び出してくる。

 そしてノワールの後ろに回り込む。


「グワッー!」 


 手甲の爪がノワールの背中に突き刺さり、ノワールは床に落ちる。


「グググッ…!この!殺せ!殺せ!」


 頭に血が上ったノワールは残りの配下達に攻撃を命じる。


「このっ…!テアッ!ヤァッ!」


 ライも応戦し、数多くのハイエナを倒す。しかしその数に次第に押されていく。


「護るんだ友達を、愛を、これからの命を!」


 そのとき、

 ズガガガガガガッ!!!!

 どこらからとも無く降ってきた銃撃でハイエナ達は次々に撃たれていく。


「えっ…?」


 ライは顔を上げる。そこにはカナディアンキャノンの上に立つノアがいた。


「やっと見つけました。おおよその理由は検討がついて皆分かっています。目的の友達を助けるのに+α助けましたね。」


「ノア…。」


「ここは私に任せて貴方は民間人を連れて逃げなさい!!」


 ノアは再びカナディアンキャノンの砲塔をノワール達に向ける。


「ターゲット数159ロック。拡散レーザー発射!」


 キャノンからの閃光で瞬く間に群れは倒されていく。


「…っ!」


 捕捉出来なかった敵を銃で射抜いていく。


「チッ、これは不利だ、一旦引く。」


 ノワールが状況を見て、撤退する。


「さぁ、今のうちに!」


 ノアの呼びかけでライはエレベーターの扉を力尽くで開け、中の6人を出す。


「さぁ、行きましょう。」


 ライは彼らを連れ、ショッピングモールの外にようやく出られた。空は黒から青くなっており、直に夜明けとなる時間帯だった。


「シザシザシザッ!」


 移動するライたちの前にシザワームが立ち塞がる。


「やっと見つけたぞ、今度こそ逃がさん、お前を切り刻んでやる。」


 シザワームは腕のハサミをライに向ける。


「むぅ…!」


 ライも構える。そのとき、

 ババババババッ!

 シザワームに向けて銃撃が放たれる。


「だっ、誰だ!」


「あっ!」


 ライは銃撃が放たれた方向を向く。そこには


「なかなかに気持ち悪いヤツね…。」


 そのにはイレーヌが義腕の左腕からビームマシンガンを発射したのだった。


「人騒がせな坊や、早く行きなさい。救助隊が向かって来ているはず。」


「そんな、あいつは手強い、だから…」


「言ったでしょ、行きなさいって、あの害虫は私の獲物だから。」


 イレーヌの言葉に渋々従いライたちはその場を後にする。


「逃がさんぞ御使い!」


 去っていくライを追おうと動き出そうとするシザワームをイレーヌは指先から発射するマシンガンで弾幕を張り動きを止める。


「それはこっちのセリフ、早く狩られなさいっ!」


 イレーヌは飛び上がると左腕から刃がせり出し

そのまま降下しながらシザワームに斬りかかる。

 ギイィン!

 シザワームは両腕のハサミで受け止める。


「ッ…フッ…!」


 イレーヌは一度後退し、左拳を発射する。

 ドゴォッ!

 

「ヌアッ!」


 腹部に拳を食らったシザワームは数メートル吹き飛ぶ。


「シザー!」


 反撃だとシザワームは硫酸を吹く。だがイレーヌの左腕と全身を包む特殊合金のパワードスーツには通用しなかった。


「!!」


 シザワームは尻尾のハサミで攻撃をかける。ハサミが左腕を挟んだ。


「ハハッ!そのまま切り落としてやる。」


 尻尾のハサミに力を込める。ギチギチと音を立てイレーヌの左手首を切断しようとする。だが、

 パキンッ

 

「なっ…!なにっ!!」


 音を上げたのはシザワームのハサミだった。ハサミの刃は折れてしまった。


「なっ、なっ…なっ…」


 余程のことなのかシザワームは動揺し、動けずにいた。


「今ッ!」


 好機と見たイレーヌは動き出し、一気に間合いを詰める。


「……はっ!」


 ようやく我に返ったシザワームは遅れながらも両腕のハサミで迎撃態勢をとる。


「うおおおぉぉ!」


 シザワームは迫りくるイレーヌを斬りにかかる、

スパッ!スパッ!

 しかしそれより速くイレーヌの左腕からせり出た刃が両腕のハサミを切り落とした。


「ぬぅ…ああぁぁぁ!!」


 両腕を斬られた痛みにシザワームは悶える。


「あら、もう少し楽しませて欲しかったけど残念…。」


 期待外れと言わんばかりにそんな言葉を投げるとイレーヌは左手を取り外し、手首をシザワームに向ける。

 

「じゃ、Bye-Bye」


 エネルギーが収束し、手首からビームが放たれる。


「シ、シザ〜〜!」


 直撃を受けたシザワームは断末魔を残し、爆死した。



 

「さぁ、もうすぐです。止まらずに走って!」


 ライ達はひたすら走り続け、救助隊と合流を目指していた。朝日が照らし始めそれまで暗くわからなかった街の悲惨な現状を彼らは知ることになる。

 人だったモノの塊、それを喰い殺したハイエナだったモノの塊そんなものが至る所にあった。


「おっ、おえっ…!」


 リュウはグロテスクな現場に吐き気を覚えていた。他の二人も真っ青な顔色をしていた。

 カップル2人、妊婦の女性もこれには言葉なくショックを受けていた。


「あっ!」


 ライは前方に何かを見つけた。それは無数の人影で救助隊だと一目でわかった。


「おーい!ここだ!ここだ!」


 腕を振り、自分達の存在をアピールする。ようやく合流することが出来た。

 救助隊の隊員たちは6人一人一人に毛布をかけ、迎えに来た装甲車に乗っていく。


「ありがとう、ゴッドバロン!」


 ビクッとライは体を震わせ、羞恥心が込み上げてくる。咄嗟に名乗った名前、それは彼らの頭に完全にインプットされていた。ダサい名前を純粋な顔で言われるともっと恥ずかしくなってしまう。


「ハッ、ハハハ…」


 苦笑いをしながら、手を振り応える。早く行ってくれ、恥ずかしさからそれだけしか心になかった。

 そして全員を乗せた装甲車を見送り、ひと息ついたと思ったそのとき、


「グルルルルアァァー!!」 


 ノワールが空から襲い掛ってきた。ライの真上から脳天目掛けて両腕の爪を振り下ろす、だがそれはライに届く事はなかった。両手で腕を掴まれ防がれる。


「皆早く逃げろっ!」


 残っていた隊員達に避難を促す。皆一斉にその場から退散する。


「さぁ、第2ラウンドだ!それぇーー!!!」


 ライはノワールの腕を離さず、振り回す。


「うおおおっ!?」 


「今だ!」


 遠心力が付いたところでノワールを投げ飛ばす。飛ばされたノワールは頭から地面に落ちスライディングする。


「ぬぅ…やるな。なら。」


 ノワールは自身の牙を抜歯する。抜けた牙は剣の形に伸び、抜歯されたところから新しい牙が生えてくる。


「くらえっ!」


 二刀流の牙の剣でノワールはかかってくる。ライは剣の攻撃を避けながら拳を放つが剣を交差し防御の態勢に防がれる。


「隙ありだっ!」


 ズバッ

 ライは胴体を斬られる。鎧の斬られたところは火花と煙が立つ。


「もう一撃」


 両肩を斬られる。


「があっ…!!」


 肩を抑えライは膝を付く。


「相手ノ流れヲ作ラレテハ駄目ダ。反撃スルンダ。」


「…わっ、わかった!」


「ヤアアァッ!」


 ノワールはとどめとばかりに剣を振り下ろす。ライは手甲の爪ドラゴンクローを伸ばしそれを受け止め、押し退ける。


「スーパークロー!」


 ライは爪にエネルギーを集中させる。爪は青く光り、その長さを増す。


「小賢しい!」


 ノワールが斬り掛かる。ライのスーパークローとノワールの剣の剣戟が繰り広げられる。


「このっ!このっ!」


 勝負は拮抗していたが徐々にノワールが押してきた。


「死ねぇぇぇー!!!」


 ノワールは二刀流を渾身の力で頭上高くから振り下ろす。


「んっ!!」


 ライも渾身の力で腕を振り上げる。そして

 バリッ!

 スーパークローが牙剣を砕いた。

 

「ヤァッ!」


 両腕の爪でノワールを深く斬りつける。ノワールの胸に網目状の傷が出来る。


「グッ…!」


「それぇぇぇ!!」


 追撃で跳び上がると両手刀を首元に落とすモンゴリアンチョップが炸裂する。だがまだライは攻撃の手を止めなかった。ありったけの力でノワールを殴りまくる。


「これでっ…!!」

 

 左腕のストレートを放とうとしたとき、

 ガブッ


「…!!」

 

 左手首にハイエナが噛み付いて攻撃を阻止した。


「このっ!」

 

 ハイエナを振り落とすと今度は右拳を放とうとすると右手首を噛みつかれる。動きが止まったところにノワールが新しい牙の剣で斬りつける。


「まだこんなに生き残りがいたのか…!」


 ライの周囲360度ハイエナ達が囲む。


「ヤれ。」


 ノワールの号令で正面からと後ろからハイエナが飛びかかる。


「なんとっ!」


 それを躱すが今度は右斜前方からと左斜後方からからの攻撃は躱せなかった。


「いっ…!」


 続けさまにあらゆる方向からハイエナが突っ込んで来る。牙と爪がライの体力を奪っていく。


「ガアァ!」


「!?」


 一匹のハイエナを掴み攻撃を阻止する。地面に叩き付けるが、

 ガブッ!ガブッ!ガブッ!ガブッ!

 

「うっ、ううううぅ…」


 体中の至る所を噛まれてしまった。強力な顎の力で強烈な痛みがジリジリと大きくなっていく。 

 痛みが返ってライを冷静にさせる。


「ボディスパーク!」


 全身からのエネルギー放射でハイエナ達を一掃する。その鎧は斬られた傷と噛まれた穴だらけであった。

 

「…トォ!」


 ライは跳び上がる。だがまたもやハイエナが足首に噛みつきライは地面に叩き下ろされる。両手足に噛みつかれ、貼り付けのように地面に大の字になる。


「ハハッ、殺してやる。」


 ノワールは剣の切先をライに向け、そして振り下ろす。


「ヤアアッ!」


 剣先はライの顔面を捉えており、既のところで顔を逸らし剣を避ける。


「グフフフッ…それもう一丁」


 ノワールは再び顔を狙って突きを放つ。ライはそれを避ける。


「それそれそれそれそれっ!」


 連続で突きをするがライはそれを全て躱す。


(コイツ遊んでいるな…。)


 ライはそう思った。そう、ノワールは完全に勝利を確信し遊び感覚でトドメを刺そうとしていた。

 だがここで助けが来る。


「待ったっ!」


 伊織、黒部、ネイル、オリビアが救援に駆け付け残りのハイエナ達を蹴散らす。


「大丈夫か!?」


 黒部の肩を借りライは立ち上がる。


「はい…。っ!アイツはオイラが倒します。」


「オ、オイ!」


 黒部の制止を振り切りライは走り出す。


「ヤアアァァー!!」

 

 ノワールに掴み掛かる。2人はもみ合いながら転がりやがてライが蹴りでノワールを吹き飛ばす。

 そしてライは拳を何度も何度も叩き込む。


「グフッ…!やられっぱなしで終わるオレではない!」


 一方的にヤラれていたノワールだったが、隙を見て反撃に出る。

 ガブッ!!!

 ライの左腕に噛みつく。


「このっ!離せ、離せ!」


 ライは何度も殴打して引き離そうとする。だが強靭な顎の力を発揮してノワールは離す気配が全くない。


「グルルッ…死んでも話はしないぞ。」


 ギリギリと顎にさらに力を込めるノワール。ライも必死の抵抗を見せる。


「ボディスパーク!」


 全身から衝撃波を放つ、がそれでもノワールは放さない。


「さぁ、その鎧ごと噛み砕いてやる!」


 どんなに殴られ斬りつけられてもノワールは口を離さない。


「ガアァァァ、ァァ…!」


 それどころかライの方が先にダウンしそうな勢いであった。


「こっのおぉぉ!ゼロポイント•ナックルビーム!」


 ライは拳を光らせ、そのままノワールに殴りつける。殴打と同時に光線をゼロ距離で発射する。


「ヌッ!ウオオー」


 この攻撃にはノワールは耐えることが出来ずついにライの左腕から口を離す。


「でえぇぇいっ!!!」


 続けさまに右腕のラリアットでノワールを転倒させる。


「ムンッ!!ブルーインパクトボム」


 ライは全身を発光させ、手から青い光弾を発射する。


「グワッ…!む、無念!」


 光弾を受けたノワールは全身から青い光を放った後に爆死した。

 

「かっ、勝った…。」


 ボロボロになりながら、今にも倒れそうなのを必死に堪えてライは立ち続ける。

 友人達を救い出し、目の前で誰も失うことなく護りきったが、それはライの目の前の話。都市全体を守れた訳ではなかった。


 



 


 



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