第8話 次の宿屋でも猛攻撃

「ラルフ兄、落ちないですよね」

「こんだけアピールしているんだから意識していると思うけど」


「リル姉はどこが気に入ったんですか」

「うーん、一番辛い時に助けてくれたし、顔も好みで優しいからかな。リンちゃんは?」


「紳士なところですね。あと、気配りができて、絶対に浮気しなそう」

「そうね。どっちが勝っても恨みっこ無しね」


「わかってますって、それよりも強力なライバルが……」

「そうね。目的地に着くまでに何とかしないと」


「焦ってます?」

「ううん、もっと大胆に色仕掛けするから」

「あーしもやる。もっとペタペタ触る」


 ◆◆◆◆


 僕達は教国との国境が見える前に立ち止まる。


「ディルにリルルの服の中に入れるくらいの小ささになってもらうように頼んで」

「わかったわ、フェイは?」

「大型犬のサイズでお願い。それと何か聞かれたら巡礼に来たって言ってね」


 リルルと話しながら、しばらく歩くと砦が見えてきた。


「すごっ。初めて見た」

「あぁ、前に戦争があったからね」

「そうなのね」


 砦に着くとそこには検問所があった。僕達は入国手続きをする為、順番待ちの列に並ぶ。


「ここからは黙っていこう。話し合っていることが聞かれると不味い事もあるから」

「わかった」


 僕達の番になる。受付にて。


「どのようなご用件で」

「巡礼の旅で参りました」

「そうですか」

「通行料はどのくらいかかりますか?」

「三人だと最低銅貨百五十枚のお布施を頂ければ」


 僕は銀貨二枚を取り出し、受付の方に渡す。


「これが滞在証になります。無くさないよう気をつけてください」

「わかりました。ありがとうございます」


 ◆


「意外とすんなりいけたわね」

「巡礼する人が物凄くたくさんいるから、さばき切れないんだよ」

「そうなんだ」

「ここからは総本山の麓まで馬車で二週間だから」

「またー、二週間」

「スレイとフェイがいるから、だぶん五日ほどで着くよ」


 ◇


 今日は夕方に着いた町で宿屋に泊まる。


(まぁ、何も起こらなければいいけど)


「ちょっとラルフちゃん、来て」


 手首を掴まれ、リルル達の部屋に、


「ねぇ、ラルフちゃん。溜まってない? あたい達でスッキリしていいから」


(はぁ、嵌ったら、ムチやローソクの刑が待っているでしょ)


「気持ちは有り難いが遠慮しとく」

「あたいとラルフちゃんの中じゃない」

「そーです、ラルフ兄、遠慮しなくてもいいよー」


 彼女達が下着になる隙をみて逃げる。自分の部屋に戻り、鍵をかける。


ドンドンドン


「ラルフちゃん、開けなさい」

「ラルフ兄、乙女の純情を踏み潰すつもりですか」

「悪いようにしないから、開けなさい」


(いや、ムチとローソクくるでしょ)


ドンドンドン


「ラルフちゃん!」

「ラルフ兄!」


ドンドンドン


「うるさいわね。周りに迷惑だからこれ以上騒ぐと出ていってもらうよ」


(女将さん、ナイス!)


 ◇


 次の宿屋でも、


(なんか、温かくて柔らかいな)


「っ!!(お前ら何してるんだよ。まったく)」


 目覚めると両脇に半裸のリルルとリーンがいた。


(ホントにもう勘弁してくれ)


 ◇


 次の宿屋でも、


「ほらほら、遠慮しないで、呑んで」

「これ、いいお酒だから飲まないと損っすよ」


(酔わせて理性を壊す気だな。飲まないけど)


 ◇


 次の宿屋でも、


「もう逃がさないわよ」

「リル姉、縛るのこのくらいでいいっすか?」

「うん、これ以上やると手を出してもらえないから」


(これ、下手するとムチ飛んでくるな。まぁ、彼女達が裸になったら速攻部屋を出るけどね)


 無事に? 難を逃れ。翌日の昼前に総本山の麓に到着した。


 ◆


「リルル。この山を登れば、総本山の神殿にたどり着く」

「これからどうするの? ラルフちゃん」

「あぁ、まずディルに神殿近くの上空で旋回してもらう」

「どういうこと?」

「時々、炎を吐いてもらって、混乱させるんだ」

「わかったわ」

「そう、混乱に乗じて、その隙に救出する」


 リルルと今回の救出作戦の打ち合わせをし、リーンにも伝えた。


「よし、行こう」


 僕達はスレイとフェイに乗り、頂きを目指す。そして、ディルは神殿の上空へと向かった。


 ◆◆◆◆


 今日も私は女神の像に向かって祈りを捧げる。


「神様、アテネ様、ラルフ君が無事でいますように」


 完全に私情だが無理矢理ここに連れてこられたのだから、このくらい許してくれるだろう。

 祈り終えると、何やら外が騒がしい。気になってしまったので、部屋のドアを開けると。


「聖女様! 大変です! 龍が我々の上空を飛んでいます」

「龍?」

「このままだと神殿が襲われるかもしれません。どうかお祈りを」

「わかった。大聖堂でいい?」

「はい。お願いします」


(ラルフ君が迎えに来なければいいのだけれど……)


 私は急いで大聖堂へ行く。大聖堂に着くと大司教から言われた。


「聖女様! 龍が火を噴いてこちらに来ています。このままではおそらく神殿が……」

「わかった。私はここで祈りを捧げます。皆は避難してください」

「しかしそれでは……」

「神が導いてくれます。召されるならば、それも運命でしょう」


(ラルフ君、最期にあなたに逢いたかった)


「司祭、神官から避難せよ。司教は内部に人が残っていないか確認せよ」


ドゴーン

ギリリ

バゴーン


 音のした方へ振り向くと、そこには大きな魔獣がいた。


「えっ! 龍だけじゃなくて……」


(あぁ、私もここまでか……)

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