この作品は、いきなり心を打つようなドラマチックな展開があるわけではありません。むしろ、読んでいる間ずっと、不安や沈んだ気持ちに包まれているような感覚がありました。でも、だからこそ、そこを乗り越えてたどり着いた感情が、よりいっそう純粋で強く感じられるのだと思います。
作者さんの文章には、控えめながらもしっかりとした情感が込められていて、「孤独」や「愛」といったテーマが、過剰でも劇的でもなく、日々の中の些細なやりとりや、静かに揺れる心の描写を通して丁寧に語られています。言葉自体は柔らかくても、その一つひとつがしっかりと重みを持っていて、読んでいて心に残ります。
思春期の、あの戸惑いや葛藤——自分と他人との距離感をどう取ればいいのか悩む感じ——を、自然と追体験させてくれるような作品でした。
そして、ふたりの関係が近づいたり離れたりする中で、それでも大切に想う気持ちを「運命だから」ではなく、「自分で大切だと知って、手を伸ばしてつないだ」からこそ、より深く心に響きました。