ガラクタの英雄譚
カイス(改名予定)
異郷
朝から謎の光はよくない
「そもそもおかしくないか?」
「…………」
白く美しい壁と床からなる大広間と、それを飾る燭台などを始めとするどこか古典的、あるいはファンタジーのようとも言える西洋的な調度品が創り出す、おおよそ日本では見られない空間に、俺の声が響く。
俺の発言に対して、眼前の彼女は酷く苦しげな表情をする。周囲からも様々な視線が集中するが、我関せずとばかりに俺は再び口を開く。
「この世界がピンチで? 神様が言ったから俺達を攫って? だから戦争に参加してくださいって? どういう倫理に基づいて言ってるんだ? それともアレか、全部神様が言ったから自分達は悪くないとでも言うつもりか?」
「い、いえ! 決してそのような意図があった訳では……」
そう言って目の前の彼女は酷く慌てながら俺の発言を否定する。その光景を前に、周囲は更にざわめき出し、驚いた顔をする者、苦しげに顔を歪める者と様々な様相を見せる。隣にいた名前も覚えていないクラスメイトが「やめなよ……」とか言ってる気がするが、知ったことか。
「おたくらにどんな意図があったのか知らんがな? ハナから一方的に話すだけ話て、コッチの事情はお構いなしか? あぁ、もしや神のご意思の前では取るに足らない事だったか?」
「……申し訳ございませんでした。貴方様がおっしゃる通り、こちらから一方的にお呼び立てしておいて大変失礼な真似を…………」
段々と彼女の声に震えが混じる。久しく人に見下される事が無いから忘れていたが、頭一つ分も大きい人間に詰められたら怯えもするか?
まぁ、知ったこっちゃないが。
「謝罪は結構。とにかく、俺はこれ以上ふざけた話に付き合う気は無い。さっさと元いた場所に帰してもらいたいんだが?」
「その、大変申し上げにくいのですが……」
そう言って彼女はそこで言葉を切り、俯いてしまう。概ね予想はしていたが、嫌な予感は見事的中したようだ。
「呼べはしても、帰し方までは知らないとでも?」
「……はい」
どこまでテンプレをなぞれば気が済むのだろうか。
一部の人間は喜んだりするのだろうが、日本に未練も悔いも数多く残してきた俺からすれば、異世界なんてたまったもんじゃない。冷静さは消え失せ、俺は怒りに任せて口を開き、問う。
「話は聞かない、要求は一丁前、挙句の果てに帰し方は知らないときた。なぁ、コレに対して誰が、どう責任取るんだよ、えぇ?」
「………………」
とうとう黙りやがったぞコイツ。
「それともアレか? とうとう神が悪いとでも言うつもりか? なんでもかんでも神様神様。世界の救済から、困った時の言い訳までなんでもござれって訳だ。実に敬虔な信徒じゃないか、感心するよ本当に」
やってられるか、こんなもの。朝っぱらから気分の悪い話しやがって。物言わぬ案山子になった彼女に背を向け、部屋の出口に向かう。周囲の誰もが黙っている中、出入り口に控えていた執事らしき男は焦ったように聞いてくる。
「お、お待ちください。一体どちらへ……」
「悪いがお手洗いへ案内を頼みたい。気分の悪い話が続いたもので、文字通り反吐が出そうなんだ」
「た、直ちにご案内します……」
そう言って彼は扉を開き、案内を始めた。
これがついさっきの出来事だ。
端的に言おう、やっちまった。
悪癖である自覚はあるのだが、寝起きが最悪であることに定評のある俺は眠気を始めとした不調によって、考え得る限り最悪なムーヴをかましてしまった。冷静な判断力が欠如していたとか、そういう次元じゃ済まない気がしてならない。
こうしてトイレの個室でうたた寝から覚め、色々と出してスッキリした今、目も覚めてきて落ち着いて自分の行いを振り返っているのが今の状況だ。
えーと、王族相手に凄まじい不敬を働いて? 宗教関係でボロクソ言って? 役満どころの騒ぎじゃ無いですね、おしまいです。
うーん……ようやく頭痛などから解放されたというのに、今度はお腹が痛くてたまらない。
————————————————————
いつもと変わらない月曜日だった。
終始1人で堪能した夏休みが終わった登校初日。あの日も、いつも通り数分刻みで鳴らしているアラームに唸り声を上げながら手を伸ばし、ベッドに接着でもされてるのかと錯覚する程には重たい体を起こしたのを覚えている。
「おはよ!」
「おはよう、ご飯できてるよ」
「ん……おはよう」
両親と弟がうるさい朝のリビングは低血圧気味の頭によく響き、母の作った朝食を食べ、身支度を整えた後、逃げるように家を出た。再び眠って乗り過ごすのを防ぐべく、目にブルーライトを浴びながら電車に揺られる。そうしてたどり着いた、まだ誰もいない教室に「おはよう」と言いながら自身の席に着き、
「おはよう!」
「おはよー」
そうして気がつけば、静かだった教室に耳障りな挨拶が飛び交っていた。時計を見れば始業まであと5分もない、寝れたのは30分程度か。再び眠るには時間も静謐さのカケラもない教室で、喋る相手のいない俺はカバンからラノベを取り出す。朝からずっと酷かった頭痛も少しはマシになってるとはいえ、教室の喧騒は十分苦痛と言えるレベルだった。
そんな苦痛から逃れるべく表紙をめくった時、異変が起きた。突如、頭上から極彩色の光が降り注いだのだ。
「うわっ、なんだこれ!」
「キャー!」
円のような軌跡を描きながら光は絶えず色を変化させ、時折飛び散るスパークのようなものが窓や蛍光灯を破壊しガラス片が宙を舞う。朝イチから処理能力のキャパをはるかに上回る現象を前に、俺は早々に思考を放棄した。
いや、考えても見てほしい。
こんなクソ眠い朝から周囲を破壊する謎の光を前に、身を守るだとか、冷静に避難するなんて対応を一介の高校1年生に求められても困る。焦らないだけ褒めて欲しい。
うん、きっと夢だコレ。そうに違いない。
もしくは
やれやれ。こんなSNSを賑やかす青春(笑)の為に、ラノベや携帯ゲーム機などの俺の大事な
そうして俺は読んでいたラノベをリュックに収納、そのままリュックを枕にして三度寝を決行したのだった。
今になって思う。とびっきりのアホは
こんな記憶を最後に俺は意識を失ったのだった。
————————————————————
い゛っ゛て゛ぇ゛!!!
なんだコレ?!全身が不調を訴え、意識を手放しそうになるも激しい頭痛がそれを許さない。そうして何もできずに悶えていると。
「大丈夫ですか?」
と聞き覚えのない声が聞こえた。
そう、聞こえたのだ。
たった今、聞いたこともない言語で語りかけられたのに「大丈夫ですか?」と確に聞き取れたのだ。
訳のわからない事態という意味では先程と変わらないが、激しい頭痛も加わったことでいい加減眠いとか言ってる場合ではない。というか今声かけたおまえは誰だ。
徐々に痛みも引いてきた俺は当たりを見回し、周囲の状況が教室とは大きく異なっていることに気がついた。照明が松明しかないのか、窓がないのも相まって部屋全体が薄暗く、床も高級な大理石のような材質だった。先ほどの声がした方向にも、声の主以外にも多くの人間がおり、その全員がドレスや鎧といったファンタジーな格好をしていた。
訳がわからない。しかしこれだけ現実感がない状況にも関わらず、全身を苛む倦怠感とひどい頭痛が「夢ではない」と意識に訴えている。
「ここ……は…………どこだ?」
近くにいたクラスメイトの1人が、拙いながらも未知の言語でそう呟いた。
またしても未知の言語だったのに聞き取れた。この現象も訳が分からない、聞いたことがない言語のはずなのに相手が何を言っているのか理解できる。
「ここはカムリス、私たちが貴方様方をお呼びしました」
「カムリス……?」
聞いたことない国だ。未知の名前に対してクラスメイト達の間にも動揺が走る。
そりゃ地理を含めた成績がお世辞にもいいと言えない俺が知らないのは別段おかしい事ではないのだが、周囲のリアクションを見る限り英国クラスの有名な国である可能性は排除された。
「はい。ベンド大陸の北東に位置する国です」
またしても知らない名前が出てきた。
流石に主要な大陸の名前は全部覚えているはずなんだが、この国独特の言い回しなのだろうか?聞き覚えがまるでない。しかし態々大陸と言う辺り、どうやら島国ではないらしい。日本のド辺境という極僅かな希望が潰えた瞬間である。二重の意味で頭が痛い。
「どうやら混乱されているようですね。今、落ち着いて話のできる場へご案内します」
そう言った彼女は「こちらです」と言いながら、部屋の出口らしき扉を開けた。クラスメイトたちも、ひとまずは付いていく様子。
だが待って欲しい。目が覚めてからだいぶマシになったとはいえ、まだ調子がまだ戻らない。歩くはおろか、立ち上がるのも難しいかもしれない……
そうして立ち上がれもせずに身悶えていた所へ、
「具合がよろしくないのですか?」
と、近くにいた騎士らしき人が声をかけてくれた。俺は身に覚えのない知識を頼りに、使った事のない言語で返事をした。
「立つのも……難しい」
「わかりました、私の肩をお使いください」
言いたい事がちゃんと伝わった事に安心しつつ、騎士の人の助けを受けて俺は立ち上がる。ありがとう騎士らしき人。肩を借りておきながら言い辛いんだけど、コレ鎧が結構当たって痛いんだ。可能ならば向こうに居るじいやみたいな格好の人と代わって欲しいなぁ。
そう伝えようとするも、歩行の振動と体の不調に苛まれた俺は結局、言語自体が使い慣れなかった事と相舞って移動が終わるまで黙って耐える事になった。
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