第42話 試験
一回目の筆記試験が終わり、学園には再び穏やかな空気が戻っていた。
ハルオ:100点
クレイン:100点
「クレイン、サボってたくせに満点か……」
「まあ、天才だからな俺」
「……講義中ほぼ寝てただろ」
「寝ながらでも理解できる。それが天才」
「ただの危険人物だよそれは」
クレインは得意げに腕を組んでいるが、教官たちの刺すような視線はしっかり感じているはずだった。
「なんにせよ、これで筆記はもう当分受けなくていい」
「どういう意味だ?」
「知らねぇのか?筆記は満点取ったら免除だ。次からはスキップできるんだよ」
ハルオは目を瞬かせた。
「そんな制度、初耳なんだが」
「だってお前、真面目に全部出てたろ?普通は途中で聞いてサボりに回るんだよ」
「普通ってなんだよ」
「だいたい筆記なんざ魔法には向いてねぇ。頭使うより身体動かしてナンボだろ」
「いや逆だろ、魔法で頭使わないでどうする」
「俺の場合はカンでどうにかなる。そういう才能だからな」
「ほんとに才能なのかそれ……」
あきれたようにため息をつくハルオの背後で、咳払いが聞こえた。
振り向くと、ティナが廊下からこちらを見ていた。
彼女はハルオと目が合うなり、その場を離れていった。
その背中が少しだけ早足なのを、ハルオは見逃さなかった。
午後。
校舎裏の訓練場は、次の実技試験を控えた生徒たちの熱気で満ちていた。
火球が飛び、風が渦巻き、地面が隆起し、
教官の怒号と爆音が絶え間なく響き続けている。
「よーしハルオ、ひと勝負しようぜ」
クレインが拳を鳴らす。
「なんの勝負だよ」
「実技試験の前哨戦!俺の炎とお前の風、どっちが上か決めとこうぜ」
そういうところ、負けず嫌いだ。
ハルオは肩を竦めた。
「……手加減しろよ」
「お前がな!」
結局、ふたりは向かい合い、互いに腕を構えた。
「ビビんなよ?俺は真面目に勝ちに行くからな」
「それをビビりって言うんだよ」
クレインの足元から、赤い魔力が立ち昇った。
対するハルオは静かに息を吸い、周囲の風を掌に集めていく。
そのとき。
「対人魔法は禁止だ貴様らああああ!」
雷鳴のごとき怒声が飛び、ふたりは同時に固まった。
振り返ると、鬼の形相の教官が腕を組んで仁王立ちしている。
「実技前にケガでもしたらどうする気だ!医務室の数は限られてるんだぞ!」
「す、すみませんでした!」
「すんませんした!」
即座に直立不動。
教官はため息をつきながらも、口元が少し緩んでいた。
「やる気だけは認めてやる。だが、正式な試験で見せろ」
「はいっ!」
怒られたはずなのに、クレインは妙に嬉しそうだった。
「な、俺たちやれるぞ」
「その前に減点されそうなんだが」
ハルオは頭を抱えながらも、少しだけ胸が高鳴っていた。
――次は、実技試験。
筆記と違い、誤魔化しの利かない世界だ。
魔力を操る真価が問われる。
教官の笛が鋭く鳴り響く。
訓練場中の魔力が、一斉に高まった。
二週間後、実技試験当日。
実技試験では、魔法の威力、正確さ、そして発動の速さが評価される。
魔法の種類は自由。
「自分が得意なものを出せ」というシンプルな内容だ。
訓練場には教官数名と試験を受ける生徒だけ。
歓声も観客席もない、淡々とした光景。
最初の生徒が前へ出て、水弾を撃った。
小さな水しぶきが標的を濡らし、教官が静かに頷く。
「……うん、まあ及第点だな」
まだ初級課程、全体的に魔法のレベルは低い。
派手な爆発など、ほとんど起きない。
「よし、ついに俺の出番だ」
クレインが拳を握り、妙に張り切っている。
「お前の出番でもあるぞ」
「俺はいつも通りやるだけだ」
軽口を叩きながらも、ハルオの心臓は少しだけ高鳴っていた。
試験官の声が響く。
「次、クレイン・ラザーフォード」
「見とけよ」
クレインは前に出た。
「ファイヤーランス」
手のひらから火の槍が生み出され、標的に突き刺さる。
ドンッ!
岩に焦げ跡が残り、少しえぐれていた。
他の生徒よりは強い。
だが、クレイン本人の期待には程遠い。
試験官はあっさり言った。
「よくコントロールできている」
「お、おう……」
拍子抜けした顔で戻ってきたクレイン。
ハルオに近づくと、小声で囁いた。
「風の時代来るぞお前」
「来ないよ」
苦笑しながらも、少し気が楽になった。
そして。
「次、ハルオ」
名を呼ばれた瞬間、ハルオの呼吸が深くなる。
周囲の空気の流れが、はっきりと分かる。
(いつも通りでいい)
試験官が告げる。
「風属性だな。始めていい」
魔力を集中し無理なく、自然に。
静かに詠唱。
「――《風刃》」
シュッ。
風は一筋の線になり、
標的の岩を音もなく切り裂く。
標的の岩は真っ二つに割れてしまった。
試験官の目がわずかに見開かれた。
驚きが隠しきれていない。
「……切断精度が高いな。魔力の無駄が全くない。」
ハルオは小さく頭を下げた。
戻ってくると、クレインがニヤリと笑う。
「やっぱ風の時代だわ」
「だから来ないって言ってるだろ」
肩を並べて立つ二人に、穏やかな風が吹き抜ける。
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