第15話 その六、”人食い階段”
「ひ、人食い階段……!」
恐ろしい響きだ。大鏡の時は、鬼が人を食べるという話だった。けれど今度は階段。階段が人を食べるってどういうことだろう?
神隠さんはカバンから例の卒業アルバムを取り出すと、説明を始める。
「記事にはこうあるね。『西校舎の屋上へと通じる階段は異世界とつながっている。夕方、階段の段数を数えながら登ると一段増えており、その増えた一段から異世界に囚われてしまう』ってね」
「異世界? それって剣と魔法でドラゴンが出てくるような?」
「いいや、そういうファンタジックなものじゃなくて、この場合出られない闇の世界的な意味だろうね」
そんな……! でもそれだとつじつまが合う。数日前に消えた松山先生、そして今日の杏ちゃん。今までの七不思議が実在した以上、”人食い階段”も実在する可能性は大きい。つまり、二人はその闇の世界に囚われてしまっているのだ。
「大変だよ。早く助けてあげなくちゃ!」
「うん、杏が心配だ。無事だといいけれど」
あまりの不安に押しつぶされそうになりながら、私たちは西校舎へ――。
「――ちょっと待って、人食い階段の場所って本当に西校舎でいいの?」
「というと?」
「だってこのアルバムが作られたのってずっと昔の、まだ校舎が建て直される前の話だよね? 西校舎の階段の位置って当時と違うんじゃ……」
「確かに。私もそう思うけれど、現在の西校舎の屋上に通じる階段が一番可能性が高いと思うよ」
「どうして?」
「思い出してみて。トイレの花子さんは、ちゃんと出てきたでしょ?」
言われてみればそうだ。トイレの位置も昔の校舎とまるで違っている。それでも花子さんは出てきた。ということは?
「きっと重要なのは七陣小のトイレであることなんだよ。出現場所、きっとそれ自体が言霊のように力を持つんだ。それを踏まえて考えれば、人食い階段の不思議で重要なのは?」
これまで出会った七不思議は、みんな常識を超えた存在だった。だから正確な理屈はわからない。けれど人食い階段が現代に蘇ったのなら、出現する場所はきっと神隠さんが言うように現在の西校舎の屋上に通じる階段なんだろう。
神隠さんの表情はあの夜の鬼ごっこの時よりも真剣で、杏ちゃんの身を案じる気持ちが痛いほどわかる。けれど冷静さを失わない彼女に、私は信頼をこめてうなずく。
「納得いったみたいだね。西校舎の屋上へと通じる階段は、パソコン室の前だったね」
「パソコン室? そんなのあったっけ?」
「使われていないけれどあるのさ。もうみんなタブレットを持っているからね」
なるほど! 言われてみれば西校舎に、使われていない教室があった気がする。あそこか。校舎を猛ダッシュで駆け抜けた私たちは、問題の階段の前にたどり着いた。
「ここ、だよね?」
「うん、ここに杏がいるはずだよ。あ、あと松山教諭ね」
なんの変哲もない階段だ。天気が悪いせいで薄暗いけれど、特に変わったところはない。とても人が二人食べられたとは思えない。
「どうやって助ければいいんだろう? ねえ神隠さん、大鏡の時みたいに助ける方法は書いていないの?」
「残念ながら書いてないね。……となると方法は一つかな?」
「どんな方法?」
「階段の段数を数えて、異世界への扉を開くしかないね」
異世界への扉を!?
それって私たちも食べられるってこと!?
「……でもそれしかないか」
まさかアイラに異世界から脱出する方法を聞くわけにもいかないし、答えてくれるとも思わない。そうなると、この方法しかなさそうだ。
「決まりだね。紐を結んでどちらかが扉を開いて、もう片方が引っ張る。それでいこう。扉を開くのは私で良いかな?」
「ううん、私が行く」
「大丈夫かい楓? 別に私が行ってもいいのだけれど」
「ありがとう。でも私が行くよ。杏ちゃんはいつも助けてくれる、大事なお友達だから」
押しに弱い私が仕事を押しつけられそうな時、助けてくれたのは杏ちゃんだ。悩みごとを抱えた時、隣で励ましてくれたのは杏ちゃんだ。スポーツの苦手な私の練習につきあってくれたのも、いつも杏ちゃんだった。
「杏ちゃんは私が助けなきゃ……!」
「決意は固いみたいだね。じゃあこの紐を結んで」
そう言って神隠さんは、どこからか取り出したビニール紐を渡してくれる。
「相変わらず準備良いね」
「こういう事態も想定していたからね。まさか杏が食べられるとは思わなかったけれど」
私は渡されたビニール紐をしっかりとくくりつけると、階段を一段ずつ数えながら昇っていく。一、二、三。まだ大丈夫だ。四、五、六。階段の様子は特に変わらない。七、八、九。そろそろ中段。十、十一――!
「楓っ!」
神隠さんが叫ぶ。階段から黒い影みたいなものが伸びる。それはだんだんと牙のように鋭い形へと変化し、私の身体を囲む。これは口だ。まるで獰猛な肉食獣の大口が、獲物を飲み込むようだ。これが、人食い階段……!
「楓、杏を頼んだ!」
「任せて! 紐、よろしくね」
「うん、絶対に離さないっ!」
パクリと、私を囲む影の口が閉じていく。視界が闇に覆われる。怖い。心にあるのは恐怖心。そして大切な友達のために握りしめた、ほんの少しの勇気。神隠さんの声がだんだん聞こえなくなる。視界が完全に闇に染まる。そこで、私の意識は――。
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