月の告白

第43話

 海名と別れた僕は、商店街に戻った。

 時刻は十六時過ぎ。今日は月曜日だから、目的の店は開いているはずだ。

「いらっしゃい、粋利君」

 店の扉を開けると、その人物はカウンター越しにひらひらと手を振ってきた。

「……こんにちは、月野さん」

「どうしたんだい。今日はやけにテンションが低いじゃないか」

 店にいる客は僕だけだった。他の客の耳を気にする必要はない。

「月野さん。この前僕が買った情報のことを覚えていますか」

「ん? ああ、二十八年前の粥波摩耶の事件についてだったね。それがどうかしたのかい?」

「……月野さんは、どうして『事件』って言うんですか」

「ふむ……。粋利君は何が言いたいのかな」

「月野さんとの会話を思い返してみると、いつも月野さんは粥波さんの件について話すとき、事件という言葉を使っていました。なぜ自殺という言葉を使わないんですか。彼女は自殺だったんですよね?」

「それは情報の取引を望んでいるのかな?」

 月野は飄々とした様子で訊き返してくる。

「……僕が取引したいって言ったら、駄菓子何円分の情報になるんですか?」

「世界で僕一人しか知らない情報だから、希少価値はとても高い。だからプライスレスだね。お金には代えられない。粋利君が世界で君一人しか知らない情報を提示してくれたら、ひょっとしたら情報の取引ができるかもしれないね。……厳密に言えば、もう一人知っている人はいるけれど、彼女はとっくの昔にこの街を出て、今どこで何をしているのか分からない。この街に戻ってくることもないだろう」

 世界で僕一人しか知らない情報……。

 それほど貴重な情報は持ち合わせていない。別の角度から攻めるしかなかった。

「粥波さんが亡くなったとき、月野さんは彼女と同じ桐坂高校に通ってましたよね。しかも同じ学年の生徒だった」

 先ほど七柴に見せてもらった卒業アルバム。粥波が猛アタックしていた相手とは、月野だったのだ。同姓同名の別人かとも思ったが、顔に面影があった。それに、月野は二年前に「俺もとっくに四十を過ぎたアラフォーだから」と言っていた。舞川母や粥波は生きていたら今年で四十五歳だと舞川が言っていた。年齢的な辻褄も合う。

「僕が粥波さんについて尋ねたとき、どうして知り合いであることを教えてくれなかったんですか?」

「訊かれなかったからだよ」

「訊いていたら、答えてくれたんですか?」

「どうだろうね」

「……粥波さんが屋上から飛び降りたとき、月野さんも屋上にいましたよね?」

「ふむ、その質問に答えるには、情報の取引が必要になってくるね。粋利君、さっきから回りくどい質問ばかりしてくるけれど、はっきり言ったらどうなんだい。このままだといつまで経っても君の欲しい情報は得られないよ」

「分かりました。はっきり言います。――粥波さんを殺したのはあなたですか?」

「うん、そうだよ。――俺が彼女を殺した」

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