第15話
昼休み。
僕と舞川は、校長と向かい合っていた。
校長室のソファはとても柔らかく、座っていて落ち着かない。目の前にある大理石のテーブルも上品な仕上がりで、値段を聞くのが憚れるほどである。
どうしてこんな状況になったのかと言えば、事の始まりは十分前――。
昼休みが始まって間もなく職員室に足を運んだ僕らは、神嶋に声をかけた。担任の鏑谷はミスコンを毛嫌いしているし、ミスコン復活を頭ごなしに否定することは明らかだったため、まだ理解のありそうな神嶋を相談相手に選んだ。神嶋に「復活は無理でしょう」と諭されれば、舞川もさすがに諦めるだろうと思ったのだ。
予想外だったのは、神嶋がミスコン復活を「面白そうですね」と前向きに捉えたことだ。
しかも「当時のことを知っているであろう校長先生に一度お話ししてみてはどうでしょう」と言うものだから、舞川が「是非!」と乗り気になってしまい、終いには校長の時間がちょうど空いていたらしく、そのまま話をする流れとなったわけだ。
「それで、ミスコンを復活させたいという話でしたか?」
校長が微笑を浮かべて訊いてくる。短い白髪をワックスで綺麗に固め、シックな丸眼鏡をかけ、お洒落なスーツに身を包んだ姿は、いかにも有能な男性教師という風だった。
校長の問いかけに、舞川が元気に答える。
「はい! ウチのお母さんがこの学校の卒業生で、ミスコンに出てるのをビデオで観て、めっちゃ感動したんです。やからウチもミスコン出たいって思ってます」
「ほう。舞川さんのお母さまが。失礼ですが、お母さまの旧姓を伺ってもいいですが?」
「
「なるほど、そういうことでしたか」
校長は何やら得心がいったらしく、大きく頷いた。
「ウチ、ミスコン優勝目指して、歌とダンスを練習してて――」
身振り手振りを交えて熱く語る舞川に、校長は淡々とした声音で告げる。
「ミスコンは開催しません」
「え……?」
取り付く島もない校長の返答に、舞川は唖然としている。
校長は微笑を浮かべたままで僕らを見つめている。
時間だけが過ぎていく。
「……理由を聞いてもいいですか?」
僕は痺れを切らし、校長にそう尋ねた。
僕らがそう問いかけてくることは百も承知だったに違いない。
校長の手のひらで踊らされているようで癪だったが、何も訊かずにこのまま立ち去っても舞川が納得しないだろう。質問するしかなかった。
「二十八年前の桐坂高校の文化祭について調べてみてください」
「二十八年前?」
校長が相変わらず何を考えているのか分からない。
「もし二十八年前に起きた出来事を知ってなお、ミスコンを復活させたいと願うのであれば、再び私のところに来てもらえますか」
話はそれで終わりらしく、向かいのソファに座っていた校長が立ち上がる。
「昼休みも折り返しです。昼食を摂る時間も大切でしょう」
暗に「出て行け」と言われ、僕らはすごすごと引き下がるしかなかった。
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