第5話 試練

四人で囲む形で本を開き、それぞれ載っている冒険者の情報を見ていく。



「...なぁベグド、目当ての基準とかあんのか?ロワンの代わりだろ?ここにいるヤツらなら誰でもいい気がすんだけどよ。」



「いや、完全にサポートへ回ってくれるやつがいい。変に攻撃覚えている奴は、いつか必ず出しゃばる。それが幹部戦とか魔王戦でやってみろ、怪我して俺達の強化が出来なかったら笑っちまう。」



「でもそんな都合のいい人いるの?Sランクなのよ?サポート一筋な魔術士がSランクまで上がれるはずはないわ。条件を緩くしないと永遠に見つからないと思うんだけど?」



 レネの助言を言葉半分で聞きながら俺はゆっくりとページをめくっていく。ふと目線を上げると、ウラロはもう飽きてつまんなそうに天上を見つめていた。手が出そうになるが、俺はグッと堪えて目が痛くなりながらもページを捲る。


 暫く経った頃、俺はあるページで止まった。


 髭が目立つ中年の男性。スキルも保護系統でサポート特化。攻撃魔法は使うが、それは記事の一番下といった申し訳程度なもの。俺の理想とほぼほぼ集まっていた。



「よし!コイツ良さそうじゃないのか?」



「えぇ?私こんな中年臭いオッサン嫌なんだけど。渋めの色っぽい男にしましょうよ。」



「つべこべ言うなよ。俺達は出会い求めて冒険者やってんじゃねぇんだから、有能だったらどんな奴でも構わない。駄目だったら他のやつにすればいいってだけだ。そん時に期待だな?」



 俺の返答にレネは俺を睨みつけそっぽを向いた。美人でチヤホヤされてきたのか、見た目とは違ってワガママだ。今までずっとロワンが愚痴のはけ口みたいなところがあった為、こうなってるんだろう。



 俺はレネの態度を無視して受付へ向かい、本に記された冒険者を指差しながら声をかけた。



「コイツを頼む。連絡取れそうか?」



「冒険者ラゾですね。ここからそう遠くないので、使いの者を走らせて家にいるのなら半刻程でこちらへお迎え出来ますが、お待ちになります?何か予定がございましたら、後日集合をかける形になりますが...」



「いや、待つよ。すぐに手配してくれ。」



「分かりました。それでは協会内でお待ちしていて下さい。」



 受付嬢はそう言うとぺこりとお辞儀をし、裏の方へと消えていった。呼び出したラゾがどれ程の実力なのか期待もあり不安も感じる。

 俺は溜め息を吐きながら皆の席へと戻ると、すぐにゴルドが耳打ちしてきた。



「お前、随分元気ないじゃないか。あの受付嬢とか狙おうとか思わなかったのか?」



「あれはタイプじゃないし、そんな事一々聞くなよ。人を性欲の権化みたいに....とにかく、ラゾは半刻程で来るらしい。それまでは待機だな。」



 ゴルドは文句があるのか不満そうに天上を見つめる。上手く話が逸れて俺はホッとした。いつもの俺ならあの受付嬢にもアタックしていた。だが、そんな気にもならない理由がある。全てはラゾ次第と言った所だ。



 約束通りの半刻後、俺達の元へ協会の役員と共に一人の冒険者がやってきた。顔を見たらすぐに分かるお目当てのラゾ、彼は俺達より一回りも大きい程歳上の筈なのだが、俺達を見て緊張しているのはすぐに分かった。

 Sランクの冒険者とはいえ、勇者候補のいるSランクパーティーには頭が上がらないらしいな。



「わ、ワシは一応サポート重視のSランク魔術士のラゾですわ!この度は勇者候補で名高いベグド様率いる双赤龍ダブルレッドドラゴンに呼ばれるとは光栄の至!聞いた話によると、ワシをパーティーに参加させたいと...」



「一応仮だ。軽いクエスト行って、そこで実力を図る。それで俺達が納得すればパーティーに参加して貰う流れだ。それでいいか?」



「はい!ワシにとってはチャンスを貰えるだけでも有難い!皆様のご期待に応えれるよう、精一杯やらせていただきますわ!」



 ラゾは後頭部が見える程、若者である俺達に頭を下げた。普通の人間社会だと異様な光景だが、実力主義の冒険者社会だと有り得なくもない話。この事実に俺は大分気持ちが楽になり、抱えていた不安が取り除かれるような感じがして気分が良かった。


 いっそ、もうこの時点で合格でもいいかもしれない。



「よし、じゃあ早速クエストに行くとしよう。もう目星は付いてある。ロックウルフの集団討伐だ。俊敏で硬いし知性はほぼないが連携をとってきて少々厄介な相手だ。お前のサポート力でどれだけ楽に戦えるか、それを試させてもらう。」



「ろ、ロックウルフですかい?しかも集団討伐...」



 ラゾは顔を曇らせて少し困ったような表情を浮かべた。それもその筈、ロックウルフの集団討伐の推定難易度はAランクで、Sランクパーティーでも油断は出来ないレベルのクエスト。

 これが軽いクエストなわけが無い。


 ラゾが困ったのは自分が思っていた軽めのクエストとはかけ離れていたからだろう。



「どうした?何か都合が悪いのか?」



 俺はラゾが感じているだろう事を理解しているにも関わらず、少しからかってみた。すると彼は顔を横に振り、気を引き締めた表情に変わった。



「何でもないですわ!Sランクパーティーで勇者候補がいるのなら、価値観が違うのは当たり前!少々そこで混乱してしまっただけでさ。このラゾ!下手な真似せんよう頑張らせてもらいやす!」




「フッ....その言葉が聞けて良かった。それじゃあ、出発だ。」


 こうして俺達はロックウルフの討伐の為、依頼情報通りの森林へと向かっていった。魔王軍の進行が進み、魔王軍側からの殺気や魔力に当てられたのか、最近森林へ訪れた旅人などを襲っていて困っているらしい。



 俺達は森林へと侵入し、依頼情報を元に歩いていく。獣道故に道は荒れていて凸凹している。歩くだけでも疲労は溜まる上、久しぶりに荷物を持って歩く俺達は疲労の溜まりは早かった。


 何かとラゾが疲れているだとか、試験に影響をなるべく出したくないと理由を付けて休憩を挟む。仮にもSランクのプライドがあるのか、ラゾは少しムッとしていたが、俺達はそれを無視して進んでいく。



「...少し聞きたいんですが、前にいたワシの代わりってどんな奴だったんです?」



 無言で歩いているのが苦に思えたのか、ラゾはそんな事を聞いてくる。

 そこはオッサンって言うべきか、暇なのは嫌いなんだな。俺はそう思って無視しようとするが、ウラロはストレスの出し所と思ったのか、笑顔でロワンのことを話し始めた。



「全然ダメダメな魔術士だったよ?背が小さくて少し可愛いってだけで、後は全く!ウラロ達が頑張って大きな魔物相手に戦ってるのに、大したサポートも出来ないくらい!だってBランクだよ?」



「Bランク!?それなのに双赤龍ダブルレッドドラゴンに入っとんですか!?今一番勢いあるパーティーなんに、最低でもAランクの魔術士だと....なんでそんな奴を入れとったんです?」



「このパーティーってベグドとロワンスタートなんだって!ウラロとゴルドとレネは小さい頃から一緒で、魔物と戦ってた時に二人が来てスカウトって形。そんなこともあって、ロワンはベグドにしがみついてたってこと!ね?ベグド!」



 満面な笑みで話しかけてくるウラロ。こう言われたら無視する訳にも行かず、俺は溜め息を零した。



「あぁ....そんな感じだな。」



「そういう事でしたか。それでSランクパーティーの重圧に耐えきれずに逃げ出した魔術士に代わり、このワシが呼ばれたという訳ですな!」



「随分と嬉しそうだな。相当自信があると見た。なら、試験は楽々合格と思ってもいいってことだな?もし、約立たずだった場合はどんな事をされても文句はないって事だ。そうだな?」



「あ....それはその...」



 俺の嫌味にラゾは先程までの元気は消え失せて困った顔をする。

 人が皆話をするのが好きだと思うなよ、美女ならともかく好きでもないオッサンだと特にな。


 俺はそんな思いと共にラゾを睨みつけると、奴は口を固く閉じて地面を見つめていた。

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