第26話 容赦しない*聖*

「この化け物が……お前のせいで俺たちは」


「違う、この人は神様や!」


 違う違う違う。


 優、今責められてるのは私じゃなくて貴女なのよ。


「はぁ?」


 ほら。


「なら、お前も化け物だ!」


 話がややこしくなる。


 確かに私は化け物。


 でもねぇ、優は違うのよ。


 笑顔が素敵な純粋な、


「忌々しい。お前のせいで」


「忌み子だっ」


「化け物」


「出ていけ」


「早く殺せばよかった」


 ただの子どもなのよ。


「弱虫」


 ポロっと本音が零れた。


 全員の視線がこちらに向いた。


「ポンコツ次男の後ろに隠れて言うなんて」


 反吐が出るわ。


「余所者は黙っとけ!」


 えぇそうね、私は余所者。


 お前たちにとっては。


「ここは私の森よ」


 私にとっては、お前たちの方が余所者なのよ。


 だから好きにさせてもらうわ。


「おい、あれ」


 唐突に一人の村人が祠を指さした。


「アレを壊せば」


 ふふっ。


 笑いをこらえるのに必死。


 罠にかかった。


「やめて! 触らないで!」


「ゆーちゃんっ、ここは聖様に任せて!」


 村人たちに突進しようとする優ちゃんを、なんとか引き留めてくれる音葉。


 ナイスよ。


 仕方がないから、ここにを近づけたことを許してあげる。


 ポンコツ次男が祠に触れようとした瞬間、空が黒い雲に覆われ、強い風が吹いた。


「助けて」


「助けて」


「誰か」


「助けて」


 ハッキリと聞こえる、私でも優でも音葉でも、村人たちでもない声。


「ひっ」


 いろんなモノたちの声が合唱のように聞こえてきた。


 村人たちが耳を塞いだとき、ポンコツ次男は逃げ出した。


 村人たちを置き去りにして。


「兄弟揃ってクズね」


「おいっ」


 みーんな、次男を追って逃げ出していく。


 無駄なのにね。


 この私が、全員を村に帰すわけないじゃない。


 ある者は野良犬の餌に。


 ある者は川に引きずり込まれ。


 ある者はどこまでも追いかけてくる合唱に耐え切れず発狂し、小鳥に狩られ。


 ポンコツクズ次男は……どうなったのか。


 誰よりも苦しめて殺すように、悪霊たちに頼んである。


 言ったでしょ?


 ここは私の山なの。


 テリトリーなの。


 さぁ、今まで優ちゃんを虐げてきた罪を悔いなさい。


「ゆーちゃん」


 いつの間にか座り込んでいた優の手を、音葉が優しく握った。


「村には戻れないから、うちに来て」


「ダメ」


 即答。


 空を見上げた優は、


「ママが帰ってくる時間や、どうしよう」


 半泣きだった。


「大丈夫よ」


 できるだけ優しい声音で語りかける。


「私が守るから」


「えっ」


 彼女の言葉を最後まで聞かずに、私は姿を消した。


 人の言葉を最後まで聞かないのは私も同じだったわね。


**

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