気にしい
「あっここです。僕の肩のところです。」
そう言うと辺見さんは一枚の写真を指差した。
「顔…に見えますよね?」
辺見さんが指差した箇所にはぼんやりとだが、人の顔に見える何かが写っていた。
辺見さんの肩に顎をのせるような形で、おそらく男性の顔だ。
「この写真、三脚にカメラをセットしてタイマーで撮ったんです。」
「だからこの時、僕一人だったんです。ありえないんですよ。」
辺見さんは不思議がりながら写真に置いた指をトントンと数回鳴らした。
「これってやっぱり幽霊なんですかね…?」
「どうですか?先生。」
先生。
私はオカルト雑誌で心霊写真を鑑定するコーナーを連載している。
と言っても霊感があるわけでもないし、実家が神職でもない。
ただの編集者だ。
趣味で心霊写真を収集しているのが編集長にバレてしまい、勝手に私のコーナーが作られた。
一度きりのはずがズルズルと辞められなくなってしまっている。
鑑定なんて加工か加工じゃないかで判断しているだけ。
自ら心霊写真を集めるような人間なので、そこに関しては多少の自信はあるが、所詮趣味でしかない。
そんな言い訳と編集長への恨みを頭に浮かべながら私は口を開いた。
「多分木の葉っぱだと思います。」
「たまたま顔に見えるように写ったんでしょう。」
「シュミラクラ現象というものかと。」
辺見さんは目を細めて写真を見ながら答える。
「えーと 点が三つあれば顔に見えてしまうっていうあれですか?」
「はい」
「じゃあ僕が撮ったこの写真は心霊写真じゃないんですね?僕は一人だったということですね?」
「私が見る限りは、安心していいと思います。」
「良かった~!ホッとしました…」
辺見さんは写真から目を離し、椅子の背もたれに寄りかかると「ふぅ~」と安堵の息を吐いた。
「先生、ありがとうございます。」
体制を戻した辺見さんは私に一礼する。
「いえ、私は何もしてませんし、むしろこのような写真を見せていただき嬉しいです。」
「でも私一人の意見なので、不安でしたらお祓いに行くことをおすすめします。」
「いやいや!先生が鑑定してくださったんですから安心ですよ…!本当にありがとうございました!」
「あっもうこんな時間だ!では僕はこの辺で」
「ここのお代は僕が払っておきますので!では失礼します!」
そう言うと辺見さんは写真を財布にしまい、二人分の会計を済まし足早に店から出ていった。
「はぁ」
私はため息をつく。
辺見さんの写真。
真っ暗な森の中で辺見さんが無表情で立っている。
白い防護服は泥水で汚れていて、長靴を履き、手袋をはめていた。
そして写ってしまった顔のようなもの。
辺見さんは絶対に一人でなくてはいけなかったのではないか。
だから来月に廃刊するような雑誌の1コーナーを見て、私に鑑定を依頼してきたのではないか。
不安を解消するため、先生と呼ばれている影響力の無い私がちょうど良かったのだろう。
心霊写真を趣味で収集しているレベルの私が。
好きなものを否定された気がした。
ただ趣味で楽しんでいただけなのに。
私の好きは利用されてばかりだ。
プライドが顔を出し無意識に呟く。
「本当に幽霊が怖かったんだろうなぁ」
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