星の彼方

違国日記の最終巻を読む。


他人を愛する資格が自分にない気がしている。もっと情緒的な他人とのつながりに必要を感じていない。人間と人間の織り成す甘やかなムードみたいなものを全部すっ飛ばして、生活をやっていくと割り切れる間柄の方がずっと憧れる。電気信号に従って動くだけの機械に取って代わられるような仕事を、わざわざ愛情だと証明するのが憚られる。愛がなければできないことってなんだろう。愛じゃなくてもできることってなんだろう。そんなもの本当にはないかもしれない。これが愛だといえるようなことは何も。

ここから見上げたら数センチしか離れていない星々の瞬きの間に、何光年経つんだろう。怖くなる。自分だけが時間の流れに逆らったり、テザーを取り付ける場所を間違っているような気がする。酸素のない宇宙空間では、何を喋ったとしても音が振動として自分以外の誰かに届くことはない。

宇宙空間を遊泳しているような気持ちで生きている。終わりもなく、踏みしめる大地もなく、ふらふらと彷徨って、これでいいと思いながら死ぬのを望んでいる。言葉が違うわけでもないのに他人とは一生わかりあえない、それを認めるだけのことに何年もかかる。愚かに期待して、あるいはと夢見て、打ち砕かれるうちに、浜辺に転がるシーグラスみたいに、角が丸まっていくことを夢見ている。まだわたしは960mlの瓶の形を保ったまま、砂に埋もれかかっている。

言葉を尽くして、たったひとことでは到底あらわしきれない愛を、どうにか表現しようとしている。つらい時そばにいることも、そばにいないことも、幸せを願うことも、時々不幸でもいいと思うことも。ただ自分が自分でいることを、それだけのこととして肯定してくれる他者が、もしかしたらいちばん得難い。

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