第40話 戦闘テレオラス

フラグライトを使い、信号弾を打ち上げる。

色は白。集合の合図だ。

これで高津と小森に知らせる。


「おや......?」


ガイレアス教の一番前を歩く男が、こちらに気付いた。

こっちとしてはもう既に戦闘態勢だ。

早瀬さんだっていつでも走る準備は出来ている。

後は相手の出方次第だ。


「あぁ、誰かと思えば。勇者パーティーのハヤセミズキではありませんか。お久しぶりですね」

「誰かと思えばテレオラスじゃないですか。元気にしてた?刑期終了前に外に出た気分はどう?」


テレオラス。確か、ガイレアス教の教祖だ。

あいつが......?

他の者と、あまり変わらぬ服装。

血色の悪い肌。暗い顔。教祖だなんて大層なものには見えない。

中年のおじさん......といった見た目。

正直に言うと、弱そうだ。


「良い気分ですよ。やはり人も光合成をする為に外に出ないとですね」


まるで自分が植物かのような台詞だ。

しかし、これで確定したな。

ガイレアス教の教祖であるテレオラスが、脱獄して再びリーダーになっていた。


「なぜこんな所にいる......何を企んでいる!?」

「そんな事、わざわざ聞かなくても既にお分かりでしょう。それともまだ知らないのですか?サナティオという果物の事を」

「やはり......!」


犯人はこいつだ。

サナティオを世界中に広め、苦しませていた元凶。

やっと、見つけた......!


「いやぁ、勇者パーティーにしてはかなり遅かったですね。私としては、もっと早く見つかってまうかと思っていたのですが......お陰でゆっくり過ごさせてもら──────」


ドンッという爆発するような音。

衝撃波と突風が襲い、少し目を瞑る。

早瀬さんが走ったのだ。見えなくても分かる。

今までよりも勢いよく、まだ話が終わる前に......俺も武器を構えてすらいない時に、攻撃を仕掛けた。


「......!」


目を開くと、衝撃の光景が広がっていた。

テレオラスの腹に、早瀬さんの右腕が突き刺さっていたのだ。


「は、早瀬さん」


右腕。

指先どころか肘まで、伸ばした腕がしっかりと入っている。貫通もしているだろう。


「え......あ......」


やってしまった。

勢い余ってなのか、速度を抑えられなかったのか、腹に腕一本分穴が空けば普通は助からない。

人を......殺してしまった。


「そんな......私、そんなつもりじゃ......」


明らかに焦っている早瀬さん。

早瀬さんが人を殺すつもりなんてあるわけないだろう。

俺は、走って向かう。

今ならまだ助けられるかもしれない。

いや助けてみせる。早瀬さんを人殺しになんかしない!


「幸運でしたねハヤセミズキ。私でなければ死んでいましたよ」

「ッ!?」


近付く前に、俺は大きな根っこのような物に弾き飛ばされた。

これがテレオラスの固有魔法......植物を操る魔法か......!

まるで手足のように植物の成長速度や動きを操れる能力。地面から生えて来た巨大な根も、その能力による攻撃だろう。


「は、早瀬さん......!?」


早瀬さんは、ずっと腕を抜こうと踏ん張っている。

抜けないのか......?

腕が腹に固定され、ビクともしていない。

押しても引いてもどうにもならない。

貫通しているというのに。


「クソッ!まさか......!」

「いやぁ、上手くいきましたね」


テレオラスは不敵な笑みを浮かべる。

とても腹に腕が刺さっているとは思えない余裕さだ。

痛そうな感じすら無い。

なんだ......?


「わざと私に攻撃させたんです。この素早さはとても厄介でしたので、私で拘束させていただきました」

「拘束......?うぐッ!?」


早瀬さんが地面にゆっくりと倒れ込んだ。

まるで全身の力が抜けるかのように。

腕を腹に突き刺したまま、動けなくなる。


「麻痺毒です。私は、体内で植物を育てておりますので、毒性のある方に協力していただいております」

「こいつ......!」


やられた......!

確かに、受け身の如月を除けば勇者パーティー最強は早瀬さんで間違いない。

その素早さには誰も追いつけず、目にも止まらぬ速さで一呼吸する間に片付けてしまう。

だから敢えて攻撃をさせ、近付いて来た所を捕らえたのか。


「ふむ。勇者パーティーはいつから、二人にまで減ってしまったのですか?他の方は?」


他の方なら今から来る所だ。

それよりもコイツ......何故ピンピンしていられる?血の一滴すらも出ない。

魔法......だろうが、どんな魔法なのか全く分からない。


「早瀬さんを返してもらおうか......!」


テレオラスが片手を前へ出す。

すると、再び地面から巨大な根っこが突き出して来た。

避けられなくは無い。ただ、数が多くて全てを避けるのは難しい。


「ぬぅん!!」


目の前の根っこが弾かれる。

俺の背後からパンチを繰り出しながら颯爽と現れたのは、高津だった。


「高津!」


更に、巨大なゴーレムが根っこを掴む。

魔力による光線も見えた。

ガンゾウとマギー、そしてサーベに乗って小森も登場した。


「待たせたわね」

「小森!」


大変な状況な事は、見ての通りだ。

早瀬さんが人質に取られている。

下手に攻撃をすれば、何をするのか分からないような奴だ。

だがハッキリと、「動くな」とは言ってこない。

剣でも突き付けて、「こいつがどうなってもいいのか」とか言ってもおかしくないのに。

早瀬さんを殺せば向こうはかなり楽になる。が、同時にこちらの枷も無くなって一気に攻撃を仕掛ける事が出来る。

こちらも下手に攻撃は出来ないが、これだけ動いても咎められないのなら好きなだけ動かせてもらう。

人質のつもりでは無いのか......?


「ッ!!」


根っこの攻撃を防ぎ、一安心していた。

ガイレアス教の部隊......約十数人程の人がテレオラスの背後に居る。

その全員が、魔法を用意していた。


「放て」


アロー、カッター、トルネード、遠距離攻撃魔法が一気に飛んで来る。

俺は盾で、小森はガンゾウで防御した。

そんな中、高津は走って突き進む。


「うぉおおお!!」


全てガントレットでガードしながら接近する高津。

無理やりにも程があるが、今は一番有効なのかもしれない。

高津の高い耐久力と低い知能によって可能な戦法だ。


「どぅりゃああああ!!ぐッ!?」


殴り掛かる、すんでの所で止まってしまった。

握った拳はテレオラスの目の前で停止する。

高津の全身にツタが巻き付き、動きを止めているのだ。


「クソがァ!!」


高津は、握っていた拳を広げる。

手のひらをテレオラスの顔面へ向けると「スラッシュ」と唱えた。

光の刃が、テレオラスの顔に命中した。


「はっ!俺が魔法を使えないとでも思ってたのか?馬鹿が......とっととくたばれ」


高津にしては、機転が利いていた。

いや、元から考えていた作戦だったのか。

まず脳筋通りに何も考えずに突っ込むことで相手の油断を誘い、攻撃は通らなかったと安心させたところで本命を撃つ。

顔面にスラッシュとは中々に殺意の高い攻撃方法だったが、それぐらい容赦の無い攻撃でなければ倒せない相手だ。


「───────!?」


テレオラスの顔面には大きな切り傷が付いていた。にも関わらず、先程と全く姿勢が変わっていない。

まただ。また血が一滴も出ていない。

額から耳の下にかけて大きく傷が入っている。

失明していてもおかしくない......いや、しているはずだ。

なのに......。


「なぜ笑っている......!?」


次の瞬間。テレオラスの顔が動いた。

詠唱は無し。回復ポーションを使ったようにも見えなかった。

それなのに何故か、一瞬で顔が元に戻ったのだ。


「なッ......!?」


傷は跡形も無く消え、元の顔に。

まるでダメージが無いようだった。

これは、一体何の魔法だ......?

ダメージを無効化......?怪我すらしない。

腹でも顔でも、どこでも関係ないようだ。

攻撃は受ける......だが、ダメージになっていない。


「残念でしたね」


テレオラスは左手の拳を高津に突き出した。

手の甲、ナックル部分を見せつけるように。


「ソーデリア」


ガキィイイン!!

金属音が響き渡る。

まるで剣のような鋭い葉がテレオラスの手の甲から飛び出し、高津の顔を貫こうとしていた。

そしてそれを、ギリギリの所で小森が短剣で防いでいる。


「悪い、助かった」

「ボーッとしてんじゃないわよ」


テレオラスは、後ろへ跳んで一旦身を引いた。

早瀬さんを腹に繋げたままだ。

あそこまで接近されては危険だと判断したのだろう。

しかし、高津は未だにツタが絡まっていて動けない。


「サーベ!ヘルフレイム!!」


どす黒い炎を吐くサーベ。

早瀬さんには当たらないように、テレオラスよりも後ろにいる信者達へ向かって攻撃した。

しかし、すぐに地面から飛び出して来た根っこによって空へ打ち上げられてしまう。


「サーベ!?」


まずい。

前へ出て、防御を固める。

体勢を立て直さなくては、このままでは全滅だ。


「小森!高津のツタを切ってくれ!」

「今やってる!」


高津を拘束しているツタは、小森の短剣じゃ切れない。

傷付ける事は出来ても、切断までいかない。それほどに分厚いのだ。


「片腕だけでいい。焼き切ってくれ」

「炎耐性あるんじゃなかったっけ!?」

「確かに燃えないが、何も無いよりマシだ」


その間、俺は時間を稼ぐ。

いずれ闘う事になるのは分かっていた相手だ。

固有魔法の事も聞いている。

なら、それを想定して予め対策を練っているのは当たり前だろう。

試してみるか。


「こっちだ!」


俺は、わざとらしく大きく小森達から離れた。

俺の予想では、植物の操作は相当の意識を割くはずだ。

手足のように動かすということは、手足以上には動かせないということ。

つまり、視界より外側にいる奴らも狙える程ではないという事だ。

拘束ぐらいは見ていなくても出来る。だが、地面から突き出す根っこはその位置をしっかりと把握出来ていなければ難しいだろう。

手足が増えても目は二つだし、頭も一つだ。操っているのも所詮は人に過ぎない。


「やはりな......」


予想通り。

俺の方に攻撃を集中している。

まだ手こずっているようだが、向こうは狙われていないようだ。

それに根っこ攻撃も、タイムラグがある。

避けた後、すぐに新しい根が生えてくる事は無い。お陰で避けやすい。


「ふむ......先に彼らを片付けてしまいましょうか」


テレオラスは、分かりやすく標的を変えた。

ここまでの感じ......言動で大体は奴の不死身の仕組みが分かった。

気付かなければ、ずっと分からないかもしれない。

意外な盲点だったりする。


「おい!テレオラス!」


こちらを向いた。

少しでも注意を引ければいい。

俺も同じように、ちょっとやそっとでは死なないタンクだ。

だが、テレオラスは俺とは違う。

簡単な事だ。最初から攻撃が効いていないのだ。


「お前、植物を操る固有魔法じゃないだろ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る