第48話 夢のテイムを!
ドラゴンの怒気がすっかり消えたのを確認するとロジャーは腕を組み、ふむと唸った。
「じゃあ、ついでに一つ聞かせてもらうが――」
「なんだ?」
「この森にいた魔物はどうした?」
ロジャーの問いに竜は一瞬きょとんとした表情を浮かべ、そして自慢げに胸を張った。
「ああ、あの連中か。小うるさかったからな。少し、威嚇してやったのだ。するとどうだ、蜘蛛の子を散らすように逃げていったわ!」
どこか誇らしげに牙を見せて笑う竜。
それは「どうだ、すごいだろう」と言わんばかりの得意げな顔だった。
しかし――
「……お前のその威嚇で、俺たちは防衛戦やる羽目になったんだが?」
ロジャーの低い声が森に響く。
ドラゴンの表情が固まった。
「……え?」
「街に魔物の大群が押し寄せてきたんだよ。原因がまさか、お前のうるさいから追い払ったなんて理由だとはな……」
ロジャーが額を押さえ、深いため息をつく。
セレスティアたちは後ろで言葉を失い、ドラゴンは慌てたように口を開いた。
「ま、待て、あれほどの数が? 本当に我のせいで……?」
「どう考えてもそうだろうが。あんだけの規模の魔物が一斉に逃げ出すなんて、ドラゴン級の存在でもいなきゃあり得ねぇ」
「……そ、そんなつもりでは……ただ、少し静かにしてほしかっただけで……」
ドラゴンの声がどんどん小さくなる。
さっきまでの威厳ある巨竜はどこへやら、気まずそうに尻尾を丸めていた。
「……はぁ。まったく、子供ってやつはこれだから」
ロジャーが呆れたようにため息をつく。
「……す、すまなかった。悪気はなかったのだ。結果として迷惑をかけたこと、謝罪する」
ドラゴンは素直に頭を下げた。
その巨大な頭が地面に触れるほど深く。
あまりに律儀なその姿に、セレスティアたちは思わず顔を見合わせる。
「ドラゴンが……人に謝ってる……?」
「……師匠の交渉力、恐るべし」
「い、いえ、単にロジャーさんが怖いだけでは……?」
小声で囁き合う三人の背後でロジャーは腕を組み、ため息をつきながらも微かに笑った。
「まあ、素直に謝れるならいいさ。でも次からはちゃんと考えて行動しろよ? お前のくしゃみ一発で街が一つ吹き飛ぶんだからな」
「……以後、気をつける……」
しょんぼりと肩を落とす竜、いや、新米ドラゴン。
ロジャーは使い魔たちの頭を撫でながら、ひときわ満足げに言った。
「よし、話が分かるドラゴンで助かったぜ」
その呑気な言葉にドラゴンは呆れたように笑みを浮かべた。
「さて、話はひと通り済んだが、もう一つ聞かせてもらおうか」
ロジャーが手を叩いて口を開いた。
ドラゴンは瞬きを一度して、少し面倒そうに首を傾げる。
「……まだあるのか?」
「ああ。大事なことだ」
ロジャーは腕を組み、真正面からドラゴンを見上げた。
「お前、名前は何て言うんだ?」
その言葉にドラゴンの双眸がわずかに見開かれた。
だがすぐに誇らしげに翼を広げ、胸を張る。
そして、雷鳴のように響く声で名を告げた。
「聞け、人の子よ! 我が名はアルディアス! 青き鱗を持ち、蒼穹を統べる者蒼鱗のアルディアスと呼ばれておる!」
翼を広げ、風を巻き起こすその姿は確かに竜の威厳を備えていた。
セレスティアたちは圧倒され、思わず後ずさる。
だが――
「……ふーん」
ロジャーは腕を組んだまま、淡々とした声でそう呟いた。
「アルディアス、ね。なるほど、名前だけ聞いたら三百歳ぐらいの古竜かと思ったが、実際はまだ新築物件探してる若竜か」
「な、なんだと!? 名を軽んじるな! 竜の名とは――」
「いや、別に悪いって言ってるわけじゃねぇ。アルディアスって響き、正直かっこいいしな」
「……ふ、ふむ。そうだろう、そうだろう!」
途端に嬉しそうに喉を鳴らすドラゴン。
単純なその反応にロジャーは苦笑を漏らした。
「やれやれ……ほんとに子供みたいだな、お前」
「こ、子供ではない! 成体だ! ちゃんと!」
ぷいと顔を背けるアルディアスの様子にセレスティアたちは思わず吹き出してしまう。
「師匠……なんだか仲良くなってないか?」
「ええ、まるで……弟子入りさせる前の弟子みたいね」
「いえ、それはそれで嫌な予感しかしません……」
女性陣の小声を無視してロジャーは軽く肩をすくめると、再びアルディアスへ向き直った。
「まあいい。アルディアス、お前の話はだいたい分かった。で、ここからが重要なんだが――」
ロジャーはそう言いつつ、後ろにいるセレスティアへ顔を向けてからアルディアスへと向き直す。
「後ろにいるセレスって奴が俺の弟子でな。ドラゴンをテイムしたいそうなんだ。ちょっと、付き合ってくれねえか?」
「……え?」
その場の空気が一瞬で凍りついた。
「な、なにぃ? 我を……テイムするだと?」
アルディアスの黄金の瞳が大きく見開かれ、信じられないといった様子でロジャーを見下ろす。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、師匠!? いきなり話が変わり過ぎじゃないか!?」
「ロジャー、さすがに無茶が過ぎるわよ!」
「そ、そうです! そんな恐ろしい存在を……!」
三人が一斉に声を上げ、慌ててロジャーの袖を引っ張る。
だが、ロジャーはどこ吹く風とばかりにニヤリと笑っていた。
「だってお前、ずっと言ってただろ? ドラゴンをテイムして婚約を回避するって」
「た、確かに言ったが……」
「チャンスは逃すなって、俺がいつも教えてるだろ」
「そ、それは可愛い魔物を見つけたらの話ではないかっ!」
セレスティアの抗議もどこ吹く風。
ロジャーは口角を上げ、堂々とアルディアスを指差した。
「なあ、アルディアス。どうだ? ちょっとだけでいい。うちの弟子のテイム練習に付き合ってやってくれ」
アルディアスが半眼になってロジャーを見る。
その声には明らかに「冗談だろう」という呆れが混じっていた。
「我は竜だぞ? 人間ごときに従うなど――」
「やっぱり、そう簡単にはいかねぇか」
ロジャーが腕を組んで頷くと、すぐさまいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「でも、もしセレスが本気で挑んで、お前が認めるに足ると思ったら……その時はどうする?」
「……!」
ドラゴンの瞳が微かに揺れた。
ロジャーの言葉には妙な説得力があった。
それは力による脅しではなく、対等な存在としての“挑戦の提案”。
アルディアスはしばらく黙り込み、やがて深く息を吐く。
「面白い……人間で我を前にそう言った者は初めてだ。よかろう。試してみるがいい」
「ほ、本当に受けるんですか!?」
「意外とノリが良いのね……」
「まさか、こんないきなりとは……」
女性陣が困惑と呆れの入り混じった表情を浮かべる中ロジャーは満足げに笑う。
「よし、話が早くて助かる。セレス、チャンスは今だぞ」
「ふう……。落ち着け、私。チャンスが来たんだ! ここで頑張らないでどうする!」
セレスティアは自身の両頬を叩き、気合を入れる。
その横でロジャーは腕を組み、どこか誇らしげに弟子を見つめていた。
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