第34話 ついに見つけたー!
「そうか……。私は勝ったのだな……」
そう呟いた直後、極度の緊張から解放された反動が一気に押し寄せた。
視界がぐらりと揺れ、膝から力が抜ける。
「セレス!」
倒れ込むより早く、ロジャーの腕が彼女を抱き留めていた。
意識を失ったセレスティアはぐったりと力を失い、浅い寝息を立てている。
「……世話が焼ける弟子だ」
ロジャーは小さく溜息を吐きながら、軽々とセレスティアを抱き上げた。
その横顔には、どこか誇らしげな色も浮かんでいた。
「ひとまず休める場所を探しましょう。今のセレスお嬢様ではこの荒野を超えていくのは厳しいです」
アンナが冷静に提案し、アマンダも頷く。
「そうね。夜の荒野は魔物の活動が活発になる。無理に帰るより、ここで夜を明かした方が安全よ」
そうして一行は、岩陰に身を寄せられる場所を見つけて野営の準備を始めた。
ロジャーはセレスティアを布の上に寝かせ、使い魔たちを傍に置いてやる。
「まったく……。今回だけだからな! 俺の使い魔たちを貸してやるのは!」
ロジャーは呟きながら、毛布を彼女の肩にかけてやった。
焚き火のぱちぱちと弾ける音が、夜の荒野に広がる。
赤い炎がセレスティアの安らかな寝顔を照らし、ロジャーたちは静かにその成長を噛み締めていた。
夜の荒野は冷え込み、風が砂をさらさらと運んでいく。
焚き火の赤い炎だけが、野営地を淡く照らしていた。
ロジャーは膝に使い魔たちを抱き、鉄鍋を小さな火にかけている。
甘い香りと湯気が立ち上り、夜気に溶けていった。
「……ふう。気持ちよさそうに寝てやがるな」
安らかに眠るセレスティアの寝顔を横目に、ロジャーは呟いた。
すると、背後で足音がして、思わず振り返る。
「……アンナ?」
焚き火の光に浮かび上がったのは、毛布を肩にかけたアンナだった。
普段なら誰よりも規則正しく眠る彼女が、夜中に起きてくるのは珍しい。
「眠れなくて……様子を見に来ただけです」
アンナはそう言いながら、焚き火のそばに腰を下ろした。
ロジャーは片眉を上げ、鉄鍋の中身を木のカップに注ぐと、差し出す。
「ホットミルクだ。使い魔たちのために用意したが……まあ、一つくらい分けてやる」
「……次いで、ですか」
アンナは一瞬、釈然としない表情を浮かべた。
だが、両手でカップを受け取り、湯気の立つ白い液体を口に含む。
「……あたたかいですね。ありがとうございます」
「気にするな」
二人はしばし無言で焚き火を見つめていた。
ぱちぱちと木が弾ける音だけが響き、荒野の静けさが一層際立つ。
やがて、アンナがぽつりと口を開いた。
「……あのお嬢様が、一人であのような魔物を倒せるようになるなんて……正直、思ってもみませんでした」
「……そうか?」
「はい。セレスお嬢様は確かに努力家でしたが、剣も魔法も中途半端で……冒険者としては難しいのではないかと、ずっと心配していたんです」
アンナはカップを両手で包み込み、炎を映した瞳を細める。
「でも今日、サンドレクシスを一人で倒した姿を見て……本当に驚きました。ここまで導いてくださったのは、ロジャーさん。……貴方のおかげです」
焚き火の赤が揺らめき、ロジャーの横顔を照らす。
彼はしばし無言で炎を見つめ、やがて、小さく息を吐いた。
「セレスが頑張った結果だ。そして、アンナ。 お前が傍で支えてやったからだ。いくらセレスの従者だとはいえ、ドラゴンをテイムするなんて無茶な話に付き合うような奴はそうそういない。本人がどう思っているかは知らんが、少なくとも俺ならついて来てくれている奴には感謝するさ」
ロジャーの言葉に、アンナははっと目を見開いた。
従者だから当然だと、そう思い込んでいた自分を、彼は真っ向から否定したのだ。
「……感謝、ですか」
ぽつりと呟いた声は、風にかき消されそうに小さい。
だが、心の奥底にじんわりと熱が広がっていく。
アンナは膝の上でカップを握りしめ、視線を落とした。
頬が熱い。
夜風は冷たいのに、胸の奥だけがじわりと温かい。
「……そんなふうに言っていただけるなんて、思いもしませんでした」
「俺はいつも本気だぞ。使い魔のことも、弟子のことも、仲間のこともな」
ロジャーは焚き火に薪をくべ、ぱち、と火花が舞った。
炎に照らされたその横顔は、どこか頼もしく、そして不器用に真剣だった。
アンナはそっと唇を結び、視線を炎へ戻す。
心臓が少し速く打っていることに、自分で気づきながら――。
「……ありがとうございます、ロジャーさん」
それだけを静かに告げ、カップを口に運んだ。
温かな味わいが、胸の内の熱と溶け合っていった。
「……アンナ」
焚き火のぱちぱちという音の合間に、ロジャーの低い声が響いた。
思わず、アンナの胸がどきりと高鳴る。
「ロ、ロジャーさん……?」
気づけば彼はゆっくりと近づいてきていた。
真剣な表情、熱を帯びた眼差し。
その迫力に、アンナは思わず後ずさる。
「う、動かないでください! え、ええと……!」
慌てて手を伸ばすが、ロジャーの声がそれを制した。
「動くな」
その一言に、アンナの全身が固まる。
息が詰まるほど近づいてくる彼。
心臓の鼓動は早鐘のように高鳴り、頬が熱を帯びる。
「(ま、まさか……! 皆が寝ているこの場所で……!?)」
アンナはぎゅっと目を瞑り、肩をすくめた。
唇をきつく結び、覚悟を決めたその瞬間――
「いたぞぉぉぉぉぉ!!!」
耳をつんざくほどの大声が夜を裂いた。
恐る恐る目を開けると、ロジャーが両手で小さな生き物を高々と掲げ、狂喜乱舞していた。
「フェルリオットだぁぁぁっ!! ついに俺の前に姿を現したぞっ!!!」
「……は?」
ぽかんとするアンナの目の前で、ロジャーは全身を震わせながら跳ね回っている。
抱きかかえられたフェルリオットは「きゅるる」と鳴き声を上げ、状況をまるで楽しんでいるかのようだった。
「これだ! これだよ! 俺の癒し空間は完成するんだぁぁぁっ!!」
ロジャーが夜空に向かって吠えるように叫んだ瞬間。
「……うるさいんだけど」
低い声がテントの中から響いた。
アマンダが目をこすりながら出てきて、乱れた髪をかき上げ、不機嫌そうにロジャーを睨む。
「ロジャー。夜番の意味わかってる? 叫んでたら敵に見つかるでしょ。馬鹿なの?」
「む……すまん! だが見ろ! フェルリオットだぞ! 奇跡だ!」
両手でフェルリオットを掲げて見せるロジャーに、アマンダは深々とため息を吐いた。
「……ほんと、救いようがない変態ね」
そう言い残して再びテントへ戻っていった。
その横でアンナは呆れたように微笑み、まだ寝息を立てているセレスティアを見やる。
どんなに騒いでも起きる気配すらないその姿に、思わず小さく呟いた。
「……今だけは、羨ましい限りです」
焚き火の炎がゆらゆらと揺れ、アンナの溜息を優しく飲み込んでいった。
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