第32話 追い求めるも見つからず
南の荒野。
赤茶けた大地が果てしなく広がり、地平線は揺らめく陽炎に溶けている。
風が吹き抜けるたびに砂埃が舞い上がり、乾いた草が転がっていった。
「……何もないな」
セレスティアが目を細め、遮るもののない景色を見渡す。
「ドラゴンどころか、魔物の気配すら薄いわね」
「フェルリオットもいませんね……」
アマンダとアンナも口々に呟く。
一方、ロジャーはというと――
「フェルリオットォォォ! 出てこーい! 餌も用意してあるぞー!」
両手を口に当てて大声を張り上げていた。
「師匠……。荒野のど真ん中で叫ぶのはどうかと思うぞ」
「むしろ、魔物を呼び寄せそうで怖いわね」
セレスティアとアマンダの冷ややかな突っ込みも、ロジャーには届かない。
彼は腰の袋から乾燥肉を取り出し、辺りにちぎって撒き始めた。
「フェルリオットは好奇心旺盛で餌に弱いんだ! そのうち匂いに釣られて顔を出すはず……!」
アンナは額に手を当てながらも、苦笑を浮かべる。
「……なんだか、本当に出てきそうな気がしてきました」
「いやいや……」と、セレスティアが肩を竦めかけた、その時。
――カサリ。
乾いた砂の下で、微かな動きが走った。
全員が息を呑み、視線を集中させる。
「ま、まさか……!」
ロジャーの瞳が輝き、胸が高鳴る。
砂の中から、小さな影が――
全員が身構えたその瞬間、砂の上を乾いた草がコロコロと転がっていく。
ただの風だったようだ。
「…………」
しん、と静まり返る一行。
ロジャーはしばし固まったあと、肩をがっくり落とした。
「……風かよ」
さっきまでの勢いはどこへやら。
使い魔たちを抱きしめながら、しょんぼりと地面に座り込んでしまった。
「師匠……。すごい落ち込みようだな」
「ちょっと期待しすぎじゃない?」
セレスティアとアマンダが呆れ顔で見下ろす。
アンナが小さく微笑み、そっと声をかけた。
「大丈夫です、ロジャーさん。きっと本物のフェルリオットにも会えますよ」
「……アンナ……」
ロジャーの目に、ほんのり光が戻る。
だが次の瞬間、彼は砂の上に寝転がり、大の字になってため息をついた。
「はぁ……! なんかやる気なくなってきた……」
「えぇぇ!? これからが本番なんですけど!」
「ほんと、調子の上下が激しいわね……」
セレスティアとアマンダの声が荒野に響き渡る。
一行は脱力しつつも、再び歩き出すのであった。
ひたすら続く赤茶けた荒野。
太陽がじりじりと照りつける中、一行は目撃情報のあった南部の岩場を目指して歩を進めていた。
「……!」
砂の下を走る、不気味な振動。
セレスティアが剣を構え、アマンダも弓に矢をつがえる。
次の瞬間、砂を割って巨大な蛇型の魔物が飛び出した。
体表は岩のように硬質で、鋭い牙が陽光を反射する。
「出たな、サンドサーペント!」
ロジャーの目が輝いた。
剣を抜くよりも早く、拳を握りしめて駆け出す。
「こいつはフェルリオットの天敵だ! つまり……! 近くにフェルリオットがいる可能性がある!!」
「……またそれか」
「本当にブレない人ですね……」
セレスティアとアンナが同時にため息をつくが、ロジャーは聞いちゃいない。
サンドサーペントの突進を軽くいなすと、焔を纏った拳で一撃。
轟音と共に、魔物は地面に叩きつけられて砂煙を巻き上げた。
「ふっ……雑魚が」
砂を払いつつ、すぐに耳を澄ますロジャー。
「……フェルリオット! いるんだろ!? 出てこーい!」
周囲を探し回る。岩陰、砂の窪み、草木の影――。
だが、愛くるしい姿はどこにも見当たらなかった。
「…………」
しばし沈黙したのち、ロジャーはその場に膝をついた。
「……いないのかよぉ……」
肩を落とし、すっかり意気消沈するロジャー。
セレスティアは額に手を当て、アマンダは呆れ顔で肩を竦める。
「……ドラゴン探しに来ているのだが」
「ほんと、扱いづらい男だわ」
アンナだけは優しく微笑み、そっと声をかけた。
「大丈夫です、ロジャーさん。きっといつか会えますから」
ロジャーは小さく頷き――だが、その瞳には「まだ諦めていない」光が残っていた。
荒野を吹き抜ける熱風の中、一行は再び歩き出した。
サンドサーペントを撃退したばかりのロジャーは、肩を回しながら呟く。
「……ふぅ。まあ、フェルリオットはいなかったが、本来の目的はドラゴンだからな」
「ようやく正気に戻ったのね」
アマンダが冷ややかに目を細める。
「当たり前だ。俺たちはドラゴンを探しに来たんだ。セレスの夢を叶えるためにな!」
その言葉にセレスティアは嬉しそうに頷いた。
だが、次の瞬間、ロジャーの視線がふらりと砂の窪みに逸れる。
「……あれ、あの小さな影……フェルリオ――」
ロジャーの瞳に映ったのは風で転がる石ころであった。
「違う。風で転がった石」
「……」
フェルリオットではないことに肩を落とすロジャー。
それでも、足取りは軽い。
ドラゴンの痕跡を探しながらも、時折砂地や岩陰に目を走らせるその様は、明らかに「ついでの探索」が混ざっていた。
「ロジャーさん……。ドラゴン優先ですよ?」
アンナが苦笑まじりに声をかける。
「わかってる。だがな……もし近くにフェルリオットがいて、俺たちが気づかずに通り過ぎたらどうする? それこそ一生の不覚だぞ!」
「……その情熱を全部ドラゴンに注げば、もう討伐でもテイムでもできそうなのに」
「ドラゴンなんてどうでもいい! 俺にとって大事なのはフェルリオットだけだ!」
アマンダが小さく溜め息をつき、セレスティアも「まあ、師匠らしいな」と苦笑した。
結局ロジャーは――
ドラゴンの影を探しながらも、荒野のどこかに潜んでいるかもしれない小さな魔物を、懲りずに追い続けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます