第十一話 龍人将校と聖女と【英雄】
【
変わるのは角の色と材質。もちろん、こいつの銀色の方が高く売れるし、良い素材になるのは当然だ。
いきなりブレスを吹くつもりかと、身構える。炎か、氷か、稲妻か……。
「【
良いタイミングで、リリアンが光の盾を張ってくれる。
紫色のガス状のブレスは防げるが……こいつ『
ちゃっかり、エイナスは空間を仕切っていて、こっちのブレスは届かない。
もちろん、色彩が荒れ狂うあちらの余波もこちらに届かないのだが……相変わらず派手にやってるな。
「【
満ち溢れる光が、一瞬にして毒素を浄化してしまう。
素晴らしい! 珍しく今日は聖女っぽいことをしてる。
「おのれ……聖女連れか」
「いや、あれは抱きまくらだ」
「そんな事、きっぱり断言しないで下さい!」
バカ。一瞬ぽかんとしたのに、お前の叫びで我に返っちゃったじゃないか。
仕方ないので、リリアンに向けて放たれた火線を、剣で両断して防ぐ。
俺がリリアンの盾になっているようで、ちょっと不満だ。
毒龍にとって、浄化を得意とする聖女は天敵レベルで苦手のはず。ブレスは完全に無効化されちまうからなぁ。
とはいえ、
上段から剣を振り抜く。
左に移動仕掛けた龍体が、エイナスが区切った空間に邪魔されている。慌てて後退した鼻先を剣が掠めて、青い血が散った。
「チッ! 地味な嫌がらせを……」
「あいつは、そういうの得意そうだからなあ」
どうしても、飛ばれると移動力に差が出る。空間を区切る際、当たり前のように左右を制限して、上下か前後かに区切ったエイナスの性格の悪さに感謝だ。
シャーン!
リリアンの手にする聖杖が、清らかな音を立てて鳴らされた。
地を打つ音と、杖飾りの鈴がリズムを奏で、リリアンが静かに歌い始める。
バトルソング? あいつ、そんなスキルあったんだ……。
夜ならともかく、昼間にこんな有用なリリアンは初めて見る。
「小癪な……」
人の頭越しに風を操って、後方の聖女を攻撃しようとするドラコマ。
区切られた空間を壁代わりに蹴って、三角跳びでその風を斬り飛ばす。って、だから! これじゃあ、俺がリリアンの壁役じゃねえか! 何度もさせるな。
「せっかく独り淋しく、かくし芸大会の唄の練習をしてるんだ。可哀想だから、邪魔してやるんじゃねえよ」
目線だけで、後方から何か訴えてるのがいるが、途中でバトルソングは止められまい。能力アップ分はありがたく受け取るから、早くサビの部分に入れ。来ないと動けねえぞ。
「おぉし! 来たァァァっ!」
一気に飛び込んで横薙ぎにする。【
地を蹴り追おうかとした時、器用にも尻尾を縦に振って俺を払おうとしした。
ならばと軽くステップして、軌道からずれる。
そして横薙ぎに変わる寸前に、剣を振り下ろす。
物凄い勢いで尻尾が吹っ飛んで、壁に激突して戻ってくる。
何度かスピンして止まった。
うわぁ……切り落とされてもまだ動いてやがる。さすがトカゲの祖先だ。
「ぐぅっ……貴様、その剣は……」
「前の領主のを借りてるよ。……『ドラゴンスレイヤー』だよな、こいつは。龍の鱗だろうと斬り裂くぜ? まだ龍体を続けるかい?」
少し考えて、迷わず龍体を解く。このあたりが三バカとの違いだな。
龍体での能力アップ分と、ブレスを封じられ、移動に困難な大柄な龍体と秤にかけりゃ、人間体の方が得だろう。
脳みそが一つにまとまる分、知恵も回るしな。
「さあて、龍化の次は人間体だ。これでも勝てなきゃ、諦めがつくだろう?」
「その余裕が命取りになる!」
「そのセリフは二度目だぜ、耄碌ジジイ!」
一合、二合と刃を交える。なかなか重い剣を使う奴だ。
真っ向勝負は嫌いじゃない上、このところ動物相手が多かったからな。こうして人間体の方が戦い甲斐がある。
ガシッと剣を受け止めての鍔迫り合い。
途端に青白い火花が飛び、俺は慌てて剣を離す。ドラコマの剣が軽く頬を掠めて、一筋の血が伝った。
「勘のいい男よ……剣を手放すのが遅れれば、感電させられたものを」
「なかなか面白いジョークグッズを持ってるな。高く売れそうだ」
「代価はお前の生命だ」
「冗談。あと五、六本持って来ないと釣り合わねえよ!」
俺はつま先で引っ掛けて、跳ね上げた『ドラゴンスレイヤー』を再び握る。今回は、この剣で戦うと決めているからな。
イマイチ刀身が短く、軽すぎるので、戦いづらいんだが……まあ良いハンデだ。
刀身が持つ魔力を押さえつけて、自分の魔力を纏わせる。暇な時にでも、魔力で重みを増す方法でも考えてみるか……。
飛び込んでくるドラコマの剣を『ドラゴンスレイヤー』で受ける。
途端に、魔力が反発し合いドラコマが弾かれた。追い打ちて飛ばした斬撃は、マントを切り裂いただけで終わった。
「おいおい、ケツが血まみれじゃないか……。痔持ちはつらいな?」
「愚弄するか!」
もちろん、俺が尻尾を斬った痕だ。
しかし、さっきの魔力で相殺とは、なかなか質の良い魔剣を持ってるじゃないか。
再び斬り掛かってくるドラコマの剣を受ける。
だが、今度はドラコマだけがふっ飛ばされた。
「馬鹿な……領主の剣にそれほどの魔力があるはずがない……」
「俺は剣を選ばない。俺に勝る剣には、まだ出会っていないからな」
「たかが人間如きの力が、魔剣を凌ぐだと?」
「ああ……だから、御大層に【英雄】なんて二つ名で呼ばれてるんだろう?」
飛ばした斬撃を弾こうとして、逆にドラコマの魔剣が弾き飛ばされる。
無手になった【
ドラコマの首が宙を舞って、戦いは終わった。
首なんてどうでもいいから、坊やへのお土産の魔剣を拾う。
【鑑定】してみた所、『雷神の剣』であるらしい。
稲妻を纏わせることが出来る上、中レベルくらいまでの雷属性の魔法を使える。ただし、どちらもガッツリと見合うだけの魔力は必要だ。
普通に使って、ダメージボーナスが入る方が坊やには有用か。
「勇者様、大事なのは剣よりこちらでしょう?」
リリアンがおっかなびっくり、ドラコマの屍体の懐を探る。清らかなアイスブルーの光に煌めく【妖精の宝珠】を見つけ出して、ニッコリと笑った。
サイズ的に、どこに入ってたんだよ? と突っ込みたくなるが、魔族の身体は魔力の産物だから、真面目に考えるだけ無駄だ。空間収納みたいなものだと思っておけ。
「今日は聖女らしいことが色々出来て、満足です」
「偉い偉い。良く頑張った」
「わ~い。褒められちゃいました。……あ、頬の傷、治しましょうか?」
「こんなもん、唾つけときゃ治る」
「そうですか……ちぇっ」
「……俺の舌じゃ届かないから、お前が唾つけとけ」
「は~い」
「チュウじゃない。唾つけろと言っただろうに!」
「聖女のキッスなら、傷くらい治りますよ?」
ゲシゲシとドラコマの頭を踏みつけにして、銀色の角を切り取っていると、区切られた向こうの空間の色彩がやっと普通に戻った。
念のために、いつでも剣を抜けるように構えたが、残念ながら涼しい顔でエイナスが戻ってきた。
「随分とゆっくりだったな、【極彩色】」
「あなたが早すぎるんです……」
「珍しく、抱きまくらの聖女機能が働いたからな。二対一じゃ、こんなもんだ」
角を落とされたドラコマの首を見て、ため息混じりにエイナスが苦笑する。
得意満面のリリアンが、エイナスに【妖精の宝玉】を渡す。
エイナスは宝玉を掲げて、呼びかけた。
「妖精王よ!」
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