Chapter5

 場所は戻り下層は安全区域。

 戦利品の整理と体を再び休める為に、また同じ部屋で前よりも多くの物に囲まれながら詰め込み作業をしていた。


 あの世界をめ上げた光に当てられた魔物は、ちり一つなく消滅しょうめつした。そのあと、死体の代わりに残された戦利品を頑張って回収し現在に至る。

 放った大技おおわざの影響で、予想通り魔力の大部分を使ったゼクトは、まだ少しだけ残っているだるさを無視して作業を続ける。


 何だかんだ戦利品は一つ一つ回収するため、物凄い時間と労力がかかったのも気怠さに拍車をかけていたりする。全部自動で回収できるみたいな便利なものがあれば……とか考えていたりするのだが、そんなことを言っている暇はない。結局は手を動かさないと終われないのだ。


(戦利品の質はかなりのものだな)


 売却する時に色々と言われないため丁寧に確認していく。

 

(骨も密度の低いスカスカな感じはない。少しくたびれているが、手に入った装備も素材に戻せれば新しい装備に作り直せる。今回は大当たりだな)


 満足そうに頷きながら、頭をよぎる直近の戦闘。それらを加味かみした時に、つい「割に合わねぇ」とボヤいてしまう。


 層界の活性化は恩恵おんけいと言われて久しい。とはいえ根源こんげんは人類の天敵であることに変わりはない。現在の人類がえい、その域を遥かに逸する存在にして災害こそが恩恵などと随分と皮肉なはなし。いくら打倒しようが、世界に活力が巡る限り奴等は文字通り無限に生まれ続ける。


 自然の摂理とひとくくりにまとめるには解せない。などと被害妄想も甚だしいが、この世界は人類を憎んでいるようにも感じてしまう。

 こうして依頼の為に魔物を狩っているとはいえ、事情も知らない赤の他人からしたら、死んでも死にきれない哀れな者達をらしている光景に見て取れるかもしれない。


 その様は実に冒涜的ぼうとくてきである。


 しかしながら、相手は別に哀れでもなければ慈悲じひをかけるべき相手でもない。何ならこちらが狩られる側だったりする。見当違いな回答をされる前に前文を引用して強調するとしよう。


 奴等の根源はである。


(装備品のおかげで魔力の回復が早い。この調子なら少し時間を巻いて行けそうだな)


 体を巡る魔力に意識を向ける。

 血の巡る感触とは違い、意識しても微かにしか感じ取れないほどに弱りきったそれは、時間を経るごとに勢いを取り戻し、大きくなっていく。

 その回復速度は尋常ではない。


 装備による効果もあるが、これほどの速度は当人の自力が無ければ成立しない。

 事実、ゼクトの装備は『魔力回復の上昇』という装備の能力に依存したではなく『回復能力の底上げ』という装備者の能力を引き出す。単純な能力の上昇やカサ増しではなく、本人の能力を後押し活かす効果なのである。

 

(マスターのセンスの良さには戦慄せんりつきんないな。こんなに馴染なじむ装備を見つけ出すのに何年も掛かるところを数分で見つけてくるのだから)


 装備の相談を持ちかけた時のことを思い返す。

 喜々として受けた彼女(……当時は彼だったか)が、早口にまくし立てながら部屋中の装備を仕分けていたはず。次々と見つけては着せ替え人形よろしくされるがままに装備して、合わなければ別の装備を見つけて(以下略)の繰り返し。悪ふざけが大半を占めた中で、確信を持って勧められた装備がゼクトの最新装備一式となっている。


(よくもまぁ、あれだけペラペラと喋りながら探せるものだ)


 先の戦闘でやった自分の饒舌ぶりをサラリと棚に上げながら軽やかにブーメランを投げるのは、きっとゼクトが彼女の弟子であることの証明になるだろう。


 きっと彼女もニッコリしていることだろう。

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永遠の層界 十 ニノマエ ハジメ @kagimura_965

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