第16話:ラティメリア対エンマガザミ
バンカーを出発してから約二週間が経過した。ラティメリアは島の位置に付近に居た。
「あれが・・・電磁台風地帯、ボルトハリケーン・ポイントか。懐かしいな」
艦橋のデッキから目の前に堂々かつ大きく分厚い雲を見ながら尉が言うボルトハリケーン・ポイントは常に電磁が渦巻く台風の雲がある場所で多くの艦船が海の藻屑となっている魔の海域である。
「でも、この潜水艦なら海中に潜って嵐を回避し、雲の中心にある島に行けるな」
そして尉はハッチを閉め艦内へ入ると操縦室へと向かう。
「どうだ尉、雲の様子は?」
「ああ、パーシー、いつも通り分厚い雲で晴れる気配はないよ。でも潜水艦なら突破は可能だ」
尉は後頭部を搔きながら笑顔で答えとパーシーは地図を持ちながら笑顔で言う。
「そっか。んじゃ、あの時みたいな酷い目には遭わないな」
「ねぇパパ、あの時の酷い目って何なの?」
アースからの問いに尉は笑顔で答える。
「実は昔、パパがパーシー達とパーティーに居た時にゴールデンハインド号でここを探索航海していた時に海賊船、三隻に追われて、それを振り切る為にボルトハリケーン・ポイントに飛び込んでな。海賊は振り切ったが、出るのが大変だったよ。最悪、転覆しかけたからな」
「あらあら、パパも大変だったね」
「ああ、でも今回は潜水艦だから行きも帰りも楽だぞ」
「そうね、パパ」
「二人共、そろそろ潜航したんだが」
二人の会話に割って入るドレイク、それに尉は軽く頷く。
「ああ、悪い。それじゃ皆、これよりボルトハリケーン・ポイントを潜って進む。海中とはいえ海流が物凄く荒い。皆!気を引き締めろよ!」
それを聞いた皆は気合いの入った返事をする。
「「「「「アイ・アイ・サーーーッ‼」」」」」
皆の返事に尉は笑顔になる。そして尉はドレイクに向かってサムズアップをする。
「んじゃドレイク!出発だ!」
「了解、友よ。深度500まで潜航!全速前進‼」
ドレイクからの指示でラティメリアはボルトハリケーン・ポイントに向かって沈みながら前進を始めるのであった。
■
深度500mに潜ったラティメリアは嵐の影響で大荒れの海流で大きく揺れていた。
「おとっとっ、本当に凄い海流ね。水上航行以上ね」
マーズがそう言うと尉は海図を見ながら笑顔で言う。
「心配するなマーズ。荒いとは言え流れを読めば突破は可能さ」
尉の言う通りにすばらくすると揺れが治っていく。
「尉、海流を抜けたぞ。ここまま直進でいいよな」
操縦するドレイクからの問いに尉は頷く。
「ああ、ここは海流は穏やかだが、周りの岩と海底には沈没船の残骸が沢山あるから注意を」
「ああ、分かった尉」
そしてドレイクはパワーステアリングの右側にあるスイッチを操作し、ラティメリアの船首の下部にあるサーチライトを点ける。
薄暗い海中、海底には無数の高さが違う巨大な岩と瓦礫の様に積み重なった様々な時代の船の残骸が沈んでいた。
矗は一つ一つソナー音を聞き逃さずにしていると何か巨大な反応を聞き取る。
「おっと!皆‼何か巨大な物が付近を動き回っている」
ソナーと連動するレーダーの画面には巨大な影が映り、それを矗の右肩から覗く様に画面を見たマーズが驚く。
「これは!・・・体長は20mはあるわね」
「いいや。マーズちゃん、ソナー波の広がりから見て約30mはあるな」
矗の推測通り岩と岩の間を縫う様に巨大生物は動いていた。そして次の瞬間、大きな衝撃がラティメリアを襲う。
警告音と赤ランプが点灯し、ドレイクは大声で皆に指示をする。
「破損場所と機関室を確認しろぉーーーーーっ!ダメージコントロールだぁーーーーっ!」
尉達は急いで破損場所を画面で確認し、ダメージコントロール用の工具を小さな工具室から取り出し、走り出す。
尉達は右舷のブロックに向かうとパイプから漏れ出す蒸気と海水を止めていた。
「これでパイプから漏れてる海水は・・・よし!マーキュリー!お前はジュピターとサターンを連れて蒸気を塞げ!ヴィーナス!お前はウラノスとネプチューンを連れて破損したバルブを直せ!マーズ!お前はアースとプルトを連れて配電盤を修理だ!セトラ!お前は俺と一緒に他の海水が漏れているパイプを塞ぐぞ!」
「「「「「「「「「はい!パパ‼」」」」」」」」」
「あなた!この道具でいいの!」
「ああ!そのスラッグレンチだ!セトラ!レンチを力一杯に下に向かって押してくれ!俺はパイプを押す!」
「分かったわ!」
マーキュリー達は工具の赤箱と大型工具を持ち、急ぐ。
一方のパーシー達は機関室におり、あっちこっちのパイプから漏れ出す蒸気と海水や切断されたワイヤーや破損した配電盤から出るスパークを修理していた。
「くそ!配線の殆どがやられている!ロイ!配電盤のプラグを交換してくれ‼」
「分かった、パーシー!くっそ‼第3、第7のプラグがショートしてやがる‼」
「ちっくしょ!バッテリーが六つも破損してやがる‼ジェーン!燃料は大丈夫か!」
「ええ!漏れていないわ‼でも至る所のパイプとワイヤーがやれているわ!」
一方、操縦室に残ったドレイクはスイッチやパネルを操作しシステムエラーを修復していた。
「これで・・・よし!バラストタンク操作、異常なし!レーダーと衛星通信はダメか!艦内通信は問題なし!酸素残量九十パーセント!魔力燃料残量八十八パーセント!よし‼漏れてはいないな!」
そしてドレイクは操縦席に戻り水中モニターを起動させる。
そして怪物の姿にドレイクは驚く。ラティメリアを襲ったモンスターは赤い体色にシャコやグソクムシ、ザリガニ、イセエビを合わせた姿をしていた。
「こいつは!エンマガザミ‼そっか、こいつは島の番人!同時に島が近いと言う証拠か‼」
そう言っているとそこに修理を終え戻って来た尉達。
「ドレイク!応急修理は終えたぞ!」
尉から、それを聞いたドレイクは振り向き笑顔でサムズアップをする。
「サンキュー!皆!それと敵の正体が分かった!エンマガザミだ‼︎」
それを聞いた尉は驚く。
「おい!マジかよ‼︎てことは島が近いんだな」
「ああ!だが、今は奴を何とかしないと!」
するとエンマガザミは両方のハサミで停止したラティメリアを挟む。
物凄い衝撃と鉄がミシミシと潰れる音に尉はドレイクに言う。
「ドレイク!危険だが、プラズマ弾頭魚雷を奴に打ち込むしかない!」
「だな!あの硬い甲羅を破って倒す手段は、それしかないな!尉!装填を頼む‼︎」
「おお!任せろ!」
尉は笑顔でドレイクに向かってサムズアップをする。
「パーシー!ロイ!矗!ジェーン!それとマーキュリー!ヴィーナス!アース!マーズ!ジュピター!俺と
尉の指示に皆は頷き、魚雷室へと急いで向かう。
⬛︎
魚雷室に到達した尉達はプラズマ弾頭魚雷が無事である事を確認する。
「よし!魚雷は無事だが、装填設備が全滅だな。仕方ない!修理する暇はない‼手動で装填するぞ‼皆!」
「「「ああ!」」」
「「「「「「ええ!」」」」」」
尉の掛け声で皆はそれぞれの返事をし、手動で二発のプラズマ弾頭魚雷を魚雷発射管へと入れ始める。
その間にもエンマガザミは容赦なくラティメリアを左右上下に揺らす。
「うぉい‼くっそ!こんな揺れじゃ作業が出来ねぇや!」
すると尉は艦内通信機へと向かい無線のスイッチを入れる。
「ドレイク!揺れが酷くて魚雷の装填が上手くいかねぇ‼超高圧電流で奴を怯ませてくれ!」
「分かった!尉‼サターン!防御攻撃だ!超高圧電流を海中に向けて放電だ‼」
ドレイクからの指示に左隣の副操縦席に座るサターンが頷く。
「はい!ドレイクさん‼超高圧電流、放出!」
サターンはスイッチを操作し、数字が縦に刻まれたレバーを前に押す。すると海中に向かってラティメリア全体から青白い雷が放電される。
放電を受けたエンマガザミは苦しみながら動きが止まる。
「今だ!尉‼魚雷を装填しろ!」
無線機越しにドレイクからのOKサインを聞いた尉は気合の入った表情で頷く。
「皆!押すぞ‼一!二の!三‼それぇーーーーーーーーーーーーっ‼」
尉からの合図で皆は魚雷を後ろか1番、2番魚雷発射管に向けて押す。
そして二発の魚雷全体が発射管に入ると尉とパーシーは急いでハッチを閉め、管内に海水を注入する。
「ドレイク!装填完了‼いつでも撃てるぞ!」
尉からのOKの合図にドレイクは魚雷発射の安全装置を外す。
「1番!2番!同時発射‼」
ドレイクは発射合図を言うと1と2と書かれた赤いスイッチを同時に押す。
発射管から発射されたプラズマ弾頭魚雷はラティメリアとエンマガザミから少し離れた場所でUターンをする。
「よし!サターン‼俺の合図で放電を切るんだ!」
「分かりました!ドレイクさん‼」
サターンはレバーに手をかけ、ドレイクの合図を待つ。
「まだだ!まだだぞ!」
ドレイクがそう言っていると徐々に魚雷がエンマガザミに近づく。
そしてドレイクは勘でサターンに合図をする。
「今だ‼放電を切れぇーーーーーーーーーーっ!」
ドレイクからの指示にサターンはレバーを思いっ切り手前に引く。
ラティメリアからの放電が止むと同時にエンマガザミの背中に二発のプラズマ弾頭魚雷が命中し、大爆発が起こる。
背中の半分以上が消失したエンマガザミは息絶えたが、爆発で発生した衝撃でラティメリアが大きく吹っ飛ぶ。
「うぉーーーーーーーーーーーーーっ‼皆ぁーーーーーーーーーーっ‼捕まれぇーーーーーーーーーーーーーーっ‼」
ドレイクが大声で言うのと同時に衝撃波で流されたラティメリアは謎の海流に捕まるのであった。
あとがき
遅くなって申し訳ございません。
実は幼女戦記の二次創作作品、『幼女戦記if ~帝国第1装甲軍の戦歴』の執筆に夢中になってしまいました。
是非、読んで下さい。
二次創作作品:『幼女戦記if ~帝国軍第1装甲軍の戦歴』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます