第40話


宇月は息を切らしながら走り抜ける。

背後からは、しつこく追いすがる殺人鬼の足音が聞こえる。息が喉を焼くが、止まるわけにはいかない。ひたすら階段を駆け上がり、さらに上を目指す。殺人鬼もまた、その巨体を揺らしながら宇月の後を追ってくる。


ダアアアアアアン!!!


乾いた銃声が響き、宇月の肩に鋭い痛みが走った。銃で撃たれたのだ。熱い衝撃が全身を駆け抜け、宇月はそのまま前につんのめるようにして倒れ込む。


「うう……っ」


地面に頬をつけたまま、宇月はうめく。肩から血が流れ出し、視界が歪む。


「……走らなきゃ……うう、行かなきゃ……」


なんとか立ち上がろうと足に力を込めたその時、背後から伸びてきた手が、宇月の足首をがっしりと掴んだ。


「うわああああああああ!」


宇月は悲鳴を上げる。殺人鬼の冷たくて硬い手が、まるで鉄の輪のように足首に食い込む。


「捕まえたぞ、このクソガキが!」


殺人鬼の憎悪に満ちた声が耳元で響く。宇月はもがき、抵抗するが、その力は圧倒的だ。殺人鬼が宇月に向かって銃口を向けた、その瞬間だった。


グシャッ!


鈍い音が響き、殺人鬼の背中から何かが突き刺さる。


「がああ!?」


殺人鬼は絶叫し、振り返った。そこには、全身を傷だらけにし、ボロボロになった京の姿があった。


「こいつ、まだ生きていやがったのか!?」


「うおおおおおおおお!!!」


京は雄叫びを上げ、手に持った盾で殺人鬼にタックルを仕掛ける。巨大な力がぶつかり合い、殺人鬼はバランスを崩してよろめく。だが、その隙を逃さず、殺人鬼は倒れながらも京の腹部へと銃弾を撃ち込んだ。


「ぐうっ!?」


京はうめき、そのまま崖から突き落とされる。だが、落下する寸前、京は隠し持っていたワイヤーを殺人鬼の足首に絡ませた。


「何!?」


殺人鬼は驚き、京に向かって再び銃を放つ。だが、京は咄嗟に盾を構え、その銃弾を防ぐ。その一瞬の隙に、宇月は必死に立ち上がろうとする。しかし、殺人鬼は京とワイヤーで繋がれたまま、もう片方の手で宇月の足を再び掴んだ。


「行かせるか、クソガキいいいい!」

「ウルハあああ!!そいつを蹴落とせ!!!」


京の叫び声が響く。


「!?」


宇月は絶句する。


「でも、それじゃ京が!?」


「俺のことは構うな!俺とこいつを一緒に落とすんだ!」

京の声は必死だった。


「やめろおおおお!!!」


ショットガンの男は怒り狂い、ショットガンを宇月へと向けた。だが、京がその銃口を掴み、奪おうと力を込める。


「今だウルハ!やれ!!」


「このクソガキ!殺すぞ!殺すぞ!!!」


ショットガンの男の顔は、憎悪と狂気に歪んでいた。宇月は、その恐ろしい形相が、自分を虐待していた男の顔と重なって見えた。恐怖が全身を縛り付け、宇月の足はすくみ、動けない。


「こんな奴に負けるなウルハ!ここで俺たちの願いを繋げ!」

「俺たちは生きるために、ここまで勇気を振り絞ってきた!それをお前が、今ここでやり遂げるんだ!」

「お前の未来は……お前が掴むんだよ!」

「お前が生き返れ!俺たちの願いを無駄にするな!!」


京の言葉が、宇月の心を強く揺さぶった。宇月は、全身を駆け巡る震えを振り払う。


「……!」

宇月は決心した。京の叫びに、仲間たちの願いに、そして自分自身の未来に応えるために。宇月は力を込めて、男の顔面を蹴りつけた。


「クッソがああああああ!!!!」


ショットガンの男は絶叫しながら、京とともに崖の下へと落ちていく。京は、最後に安堵と満足の笑みを浮かべ、闇の中へ消えていった。

一人取り残された宇月は、ゆっくりと振り返った。そこには、白い光を放つ大きな扉がそびえ立っていた。宇月は立ち上がり、一歩、また一歩と階段を上っていく。一段一段踏み出すたびに、これまで苦楽を共にした5人での思い出が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。

ウルハは扉の前に立ち、両手を静かに扉にかけた。そして、ゆっくりと、その扉を開いた……。

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