04

「GWだー」


 でも、やることがない。

 お部屋以外のお掃除なら母がしてくれるし、連休中に相手をしてくれる稀有な存在はいない、さとこはまた連絡をしないモードに入ったからメッセージを送っても無駄だ。


「と思っていたけど……」


 携帯を確認してみたら五時ぐらいに『あの先輩を誘いなさい』というメッセージが送られてきていた形になる。

 と言われてもなあ、というところ、何故なら連絡先なんかを交換できているわけではないからだ。

 ちなみにこうして自由に言ってくれているさとこさんはちゃっかり交換していたから余裕だけどね。


「お母さん、なにか私に頼みたいこととかない?」

「特にないわね……と言おうと思ったけど、またあの男の子を連れてきてほしいの」

「ちなみになんで?」

「教えたいことがあるのよ」


 既婚者がなにを教えるというのか、それでもお部屋でごろごろしておくよりはいいから突撃することにした。

 こういうのは勢いが大切だ、歩いていたらたまたまお家が見えたから~などというそれで乗り切ってしまえばいい――はずだった。


「あのー……私の母が久崎先輩に会いたがっているのですが……?」

「まだいいだろ、時間はまだまだある、どうせ俺もお前もお互いに暇人だろ」

「いやあの、過ごすにしても私のお家にしてもらえればすぐに解決するわけで……」

「別にいいだろ、なにも変なことをするってわけじゃねえんだ」


 だからってどうして彼のお家のリビングなどの掃除をすることになっているのか、と言いたくなる。

 お掃除は好きだよ? 学校でならやれと言われたら素直にやるよ? お家でだってそうだ、だけどこれはね……。

 しかしこう……彼も真面目にやっているものだからあまり強気に出られなくて大人しく従っている状態だった。


「そういえばさとこのことだけど、連絡を取り合っているけどお前の友達らしくないよな」

「さとこのお友達に何回も言われましたよ、さとこは『一人ぐらいはなおみたいな子がいないと駄目なんだよ』と答えていました」


 類は友を呼ぶとは本当のことで一切気にせずにがんがん来るものだからその度に緊張したね。

 まあ、悪い子達ではなかったけど弱メンタルの私には厳しかったりもする、それこそ眩しすぎて暗いところに逃げたくなるような力があった。


「とにかく今度向こうにいく約束をしたんだ、そのときはお前も連れていくからな」

「え、何故?」


 この前の私達みたいにさとこに駅にいてもらえば十分だろう。

 あの子の方が詳しいからしっかりと教えてくれる、ついでに男女のアレなことも詳しく――なんてね。


「なにも知らない場所なんだから当たり前だろ、友達としてちょっと案内してやろうとか一切ないのかよ?」

「お友達でいいんですか?」

「そりゃいいだろ、こうして連休中に会っているのにそこだけ拒んでも馬鹿だろ」


 ほう、私達はお友達ということでいいらしい。

 なんだいなんだい、なんかさらっとこう……ね? マイナスなことだけではなくてこうしてプラスになる、こちらが嬉しくなることを吐いてくるというか……。


「久崎先輩に対する好感度が上がりました」

「お前はちょろいもんなー」

「それでさとこに対してこう……なんかないんですか?」


 いまならいい雰囲気の男の子とかもいないわけだし、無駄にはならない。

 さとこがこちらに来るならともかくとして、向こうにいく理由はさとこに会うためだからそこが大きい。

 ちょいと頑張ってみるだけでわかりやすく影響を与えられる状態なのだ、高身長の男の子がいいと言っていたから彼はいい存在だと思うし。


「だというのにすぐにこれだ、女子と一緒にいるだけで全部そういう風に見られるのは面倒くさいぞ」

「すみません、だけどこの前は積極的だったので」

「別にさとこが無理ってわけじゃないけど、さとこに対して動くんだったらひとみにアピールするよ」

「おおっ」

「その顔はやめろ、ないからな」


 絶対なんてことはない、けど、少なくとも今日なにかが変わったりするわけではないから切り替えてお掃除を頑張った。

 終わったら駄菓子屋さんにいこうとのことだったのでとことこ付いていく、母にはちゃんと連絡をしてあるからもやもやしたりはしないだろう。


「お礼だ」

「いいんですか?」

「当たり前だろ、まあ……安いけど一応気持ちはこもっているぞ」

「ありがとうございます、嬉しいです」


 おお、得した気分になった。

 だからこそ少し申し訳なくもなった、お掃除ぐらい内でごちゃごちゃ考えずにやればよかったとね。


「早く食べろよ」

「すみません、実は頼まれたときになんでお掃除を……と考えてしまいました」

「気にしすぎだろ、早く食べろ」

「はい、いただきます」


 美味しい……けど、やっぱりそれが原因で微妙さが残ってしまった。

 唐突だったのにちゃんと相手をしてくれている時点で彼は優しさを見せてくれていたのに……。


「美味しいです……」

「だったらもっといい顔をしろ」


 あまり無茶を言わないでほしい。

 だけど今度絶対になにかをして返そうと決めて頑張って切り替えた。




「ま、待って……」

「早くしろ、こうしてお前の荷物だって俺が持っているだろ?」

「いやあの、無理をしてGWにいこうとしなくても……」


 着いてから言うのも遅いけど我慢をすることができなかった。

 連休中に公共交通機関を利用すれば弱るに決まっている、みんな同じ条件で出ていることには変わらないけど……。


「土日よりもゆっくりできるだろ、ほら早く……って、さとこはどこだ?」

「えっと……あ、あそこです」

「お前目がいいんだな、いくぞ」


 さとこを発見できたからってやたらと急ぎますやん、まあ、これは待たせたら申し訳ないというそれからだろうけどさ。

 とりあえず合流したタイミングで意地悪をしてくる子ではないから彼女のお家に移動することになった、懐かしくてついつい寝転んでしまった。


「お前、遠慮がないな……」

「気にしなくて大丈夫ですよ、なおはこれが普通です」

「じゃあさとこ、ちょっと案内してくれないか?」

「いいですよ、それじゃあいきましょう」


 え、あ、そういう……。

 ということで謎に一人だけ布施家で待つことになった、全然帰ってこないから寝てしまったぐらい。


「ただいまー」

「あ゛」

「ん? あれ、なおだ!」

「ひ、久しぶりだね、はる君」


 あ、いまのは彼のことが苦手というわけではなく、一人のときに帰宅したからだ。

 まあ、彼らのお家だから当たり前のことをしているだけだけど、流石にさとこがいない状態では、うん。


「え、結局戻ってきたの?」

「いや、遊びにきているだけだよ」

「へえ、あ、GWだけじゃなくて土日とかにも来なよ、お姉ちゃんはずっと待っているよ?」

「今日来たのは先輩の――」


 全てを言い終える前に「ただいま~うへーもう外は暑いよ」とさとこが、「為末悪かったな、ちょっと長くなった」と彼が帰宅。


「いえ、気にしないでください」

「そうか」


 私はそのことよりも名字をまだ覚えていたのかと驚いていた。

 だってお前としか言わないからね、私がこういう考えになってもなにもおかしくはないと思う。


「だ、誰?」

「今日ここに来たのはこの人がお姉ちゃんに会いたがったからだよ、久崎まもる先輩」

「さとこの弟か、あんまり似ていないな」

「は、初めまして、布施はると言います」

「敬語じゃなくていいぞ」


 本当にこの人はさとこ達に対しては積極的だあ。

 疲れも眠気もどこかにいったから私のお家があったところにいってみることにした。

 うんまあ、もうないけど懐かしさがすごい、あっちに引っ越したばかりでもこれなのだから一年とか二年が経過したらもっとやばくなりそうだった。


「あっという間に変わっていくよね」

「あれ、はる君付いてきていたんだ」

「ちょ、ちょっと怖かったから、この前までなおの家があったのにね」

「うん、あ、賃貸だったからそのままあるけどね」


 んー正直に言ってしまうといまのお家の方がいいのかもしれない。


「だけどなおがいないから寂しい」

「またいくよ、どうせあの男の子がいきたがるからね」


 あ、次はもう一人で十分でさとこと二人きりになりたいか。

 いやでも、お友達なのだから普通に自分がいきたいからでいいか、だから問題はなかった。


「なおにもやっと彼氏ができるんだね、これまで一人もいなかったからこれまでがおかしかったんだよね」

「いや、単純に求められないだけです……」

「おかしいよ、なおは優しいし可愛いし魅力的だもん」

「はる君、そんなことを言ってくれるのは君だけだよ……」


 それこそ優しくて魅力的なのは彼の方だ。


「そろそろ戻ろうか」

「また手をつなごう」

「はは、いいよ」


 うーん可愛いかよ、私も彼みたいに可愛気のある人間になりたい。

 さーてと、お家に着いたら宿題をやってくるということでお部屋にいってしまったから私はまたリビングでごろーんとしようとしてできなかった。

 何故かまた外に連れ出されている形になる、私の目の前にはまた難しそうな顔をした彼だ。


「正直、あっちの方がいいわ」

「で、でしょうね、やっぱり住み慣れた土地が一番ですよ」


 どこにお家があるのかで簡単に変わることだった、まあ、言ったところで子どもにはどうにもできないというのが大きいけども。


「なら為末はこっちか?」

「んーお家はあっちの方がいいです、お風呂が大きいんですよね」


 着いてからはどうした、お前と呼ぶと聞かれていたときに困るからだろうか?


「そうか、なら消える心配はないな」

「それはそうですよ、お金を稼げているわけではありませんから余程のことがない限りは向こうにいます」

「あと、さとこの弟といい関係なんだな」

「あの子は優しいんです、何度も布施姉弟が支えてくれました」


 寂しいけどいつまでも寂しがっているわけにもいかない、あの子達が頑張っているようにこちらも頑張らなければいけないのだ。

 いつまでも引きずったりしないところが成長できたいい点だと言えた。

 一人ではやっていけないから同じような存在を探してしまっているところが少し残念でもあり、私らしいと笑えるところでもあった。




「あら~お泊まりすることになっちゃった」


 母に会えないのは少し寂しい、これならもっと離れる前に話しておけばよかった。

 私はさとこのお部屋で、久崎先輩ははる君のお部屋で寝ることになったけど、現時点で離れてしまっているのも寂しい。


「さ、さとこ」

「んー」

「ちょっと歩いてくるねっ」

「ん? うん、お好きにどうぞ」


 があ、私に対しては何故塩対応なのか!

 ま、まあいい、物足りなさを感じていないでさっさと出てジュースでも買ってこよう。


「ふんふふーん」

「為末さん」

「ぎゃ――って、え!?」


 な、なんでここに先輩がいるのか。

 ジュースとかどうでもよくなったけど戻るのも違うからジュースを買って渡した、とりあえずなにかで時間を稼ぎたかった。

 やはり気になるということかっ、どろどろの三角関係だけは避けたいけど!? と一人大慌て、逆に静かにシュースを飲んでいる先輩は涼しそうな顔をしていた。


「まもるに呼ばれたの、駅まで迎えにいくって言ってくれたけど断ったわ」

「どうして、一人では危ないですよ」

「かわりに細かく書いてもらったから大丈夫よ、事実、だからこそこうして来られているじゃない」


 逃げているわけにもいかないか、別に私が悪いことをしたわけでもないしね。

 遠いところまで来ているわけではないからすぐに戻ることができた、呑気に「よう」とか言っていたから流石につねったね。


「な、なんだよ」

「大丈夫だと言われても迎えにいってください、私に言えばよかったんですよ」

「い、いや、だってひとみがいらないって何回も――」

「駄目です、わかりましたか?」


 違う方を向いてから「……わかったよ、次はしない」と、私はそれだけ聞ければ満足だ。


「はい、それでは甲斐先輩のことをよろしくお願いします」


 出ておいてよかった、と思える一件だった。

 さとこさんは相変わらず塩対応だったから気にせずに寝たよ。


「なお起きて」

「もう朝……ではないね、どうしたの?」

「……横で寝る」

「うん」


 わーお、早生まれだから十五年は一緒にいたことになるけどこんなことは初めてだ。

 ちょっとぐらいは寂しいとか感じてくれたりしているのだろうか? それとも先輩が来たから難しいことをわかってしまったから?


「なお、また来てくれる?」

「うん、さとこが求めるなら」

「うん、じゃあ安心だ」

「どうしたの?」


 ここで聞いておかなければならない。

 理想とは違う結果になる可能性はあるから怖いけど、理想通りなら最高の気分でお家に帰ることができる。


「やっぱりなおがいないとつまらないよ」

「え、本当に? それなら嬉しいなあ」

「は? それで嬉しいとかふざけているの?」


 いやだって嬉しいでしょ、どこかにいきました、だから終わりですでは寂しすぎる。


「ふふ、さとこ好きー」

「あ、そういうのはいらない」

「ふふ、素直じゃないなー」


 もう抱き枕みたいにして朝までそうしていたね。

 ずっとそのままでいてくれたからその点でも嬉しかった。

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