疫病神は死にたくない!
よくぼーのごんげ!
第■章 『■■■■■■■■』
『鳴りやまない音』
絶望の、音がした。――心が、痛い。
失望の、音がした。――耳に、残る。
怨望の、音がした。――目が、滲む。
ずっと、ずっと、鳴っている。
ドクンドクンと、一定のリズムで、脈を打つ。
そのことに、疑問を抱くしかなかった。
――何で、お前なんかが…■■■なんかの音が、鳴っている。
絶望を生み出し、失望を増やし、怨望を向けられることしかできないお前の音が、鳴っている。
―――うるさい。頼むから早く、止んでくれ。
△▼△▼△▼△▼△
「――――」
それは、静かな夜だった。
空は雲一つなく、満天の星空が広がっていた。
そして大きな満月が、地上を見下ろしている。そんな月明かりが照らす地上は、きれいな夜空とはうって変わり、とても悲惨な状況だ。
「――――」
血が飛び散り、臓物が散らばり、数多の死体が地面に転がっていた。
「――――」
そんな中、一つの人影がただ、呆然と立ち尽くしていた。
「――――どう、して」
静かな夜の中、悲痛に満ちた声が夜空に響く。男の声だ。
「どうして」
男はこの状況にもう一度、小さな声で問い、フラフラと歩いてゆく。
「どうして……!」
男の問う声に、少し力が入る。そしてその足元には、周りの死体にくらべ、まだ原型を保った状態の死体があった。
「どうしてなんだ……シーニャ……」
男は誰かの名前を叫ぶ。それは、その死体の名前だろうか。はたまた、それを死体にした者の名前だろうか。
「どうしてなんだよぉ……」
男はその場に座り込み、その死体を抱き上げる。
なんとも冷たい体なのだろうか。
その冷たさは、生命活動の完全な停止を物語っていた。そして抱きしめていた力を抜くと、男は天を仰ぎ何かに語りかける。
「なぁ、見てるんだろ? 頼む、聞いてくれよ」
周りは死体しかない。生きている者など、誰一人としていない。それなのに、男は何かを期待しているかのように、今にも泣きそうな声で、語り掛ける。
「――――――――――――――で―――――――なのはわかってる。でも俺がシーニャを―――――――、――――――――――。だからその代わりに、――――――――――を、―――――――――――。だから神様、どうか俺を――――」
男は神に向かって話しかけていた。
そして、一瞬の躊躇いを挟み、縋るような望みを、願望を、天へと仰ぐ。
「――――俺を、殺してくれ」
その狂気の沙汰ともとれる願いに、世界は少しの沈黙の後、男を中心に光が当たりを強く照らした。
そして光が止むと、そこには―――――
――――そこには、男を含めて、誰一人として生きている者はいなくなっていた。
△▼△▼△▼△▼△
絶望の、音がしない。 ――ようやくだ。
失望の、音がしない。――もう大丈夫。
怨望の、音がしない。――やっと終わる。
ずっと、聞くことを強いられていた音が、やっと消えた。
それがようやく終わり、■■■の心は開放感に満ちていた。
そうした開放感に包まれながら、■■■は意識を手放す―――、
『ダメだよ。そんなの、許さないから』
意識を投げ出そうとする■■■へ、そんな声が投げかけられた。
その女性の声は、穏やかそうに聞こえても、芯が通っている、力強い声だ。――何度、この声を聞いただろうか。
『彼女』がそういう声になるときは、必ず、■■■を叱っている時だ。
無茶をするなと、そう叱ってる時の声だ。
そんな声が聞こえ、■■■は溜息を吐いた。
深く、深く、深く、息を吐いて――、
「――お前はいつもいつもそうやって、俺の邪魔ばっかりする」
忌々しげに、■■■はそう言う。
だが、そんな言葉が聞こえてないかのように、目の前の女性は、口元に笑みを浮かべて——、
『ごめんね。私はやっぱり、貴方に■んで欲しくないの。でも――』
「————」
『―――■■、■■■■■■』
―――そして今、始まりが、終わった。
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