11話 一人の少女は、こうして終わる。

(小杉桃花視点)


かばいやがった。



振り下ろされたナイフは確実に日向を捉えていた。このまま日向はなきりによって殺されて、そうすれば桃花も死ぬんだって、そう絶望してた。


あの瞬間、だから身体は動かなかった。でも、桜はそんな状況でも…桃花でさえ動くことができなかったのに。


「桃花のほうが愛が弱いっていうの??」


おかしいじゃない。


桃花は寝ても覚めても日向のことばかり考えているわ。日向と一緒になれるようにいろんな場所に遊びに誘ったり、日向と話せるようにクラス委員にもなってたくさん企画もしたわ。


ズルいとかは思わないの。


だって桃花は努力して権利を手に入れているんだから。日向が優位に立てるようにいろんなことがうまく運ぶように。


「そうやってずっと日向に。」


尽くしてきた。


桃花はすべての日向のために行っていた。はず。でも、最後の最後で日向の命のために、桃花は動くことさえできなかった。



「日向!!日向!!!」



日向はもう周りが見えていない。日向の大事な人は桜だけだ。桜が殺された今、日向は死にものぐるいでなきりに殴りかかっているけど、ナイフでちょっとずつ体中切られてる。


あのままじゃ、正気に戻ったとき、尋常じゃない痛みに襲われて、そうしたら、日向はきっとなきりにそのまま刺されちゃう。


「負けたくない。負けたくないわよあんたなんかに!!」



ほんとはずっとわかっていた。



桃花には日向は釣り合ってない。



桜は桃花よりずっとすごいことくらいわかってた。

桃花は醜くて、残念な人間だって。

殺したい人は桜だって願ってたけど、今の桃花は殺すとか、そんなこと考えない。


「桜が守った日向を守るわ!!日向これ取って!!!!!」


地面に転がっていたナイフのもとまで走ると、勢いよくそれを投げる。なきりは幸い日向の拳から逃げるように距離をとっている。今しかない。


「あああああぁあああ!」


日向は地面に転がったナイフを手にすると、そのまま勢いよくなきりの方へと走り出す。いくらなきりがナイフの扱いに長けていても、いくらなきりが人殺しに躊躇がなくても、サッカー部のエースの脚、なめちゃいけないわね。


「や、やばっ。」


なきりの逃げる脚がこんがらがり、よろけてしまう。


「今よ!!!!」



やったぁ!!私達の勝ち!!



ぐしゃ



「か…ち…。」

「ナイフ。投げといてよかった♡」



勝ったことによる喜びと、感動で思わず顔を上にあげたはずだったのに。私の視界には、もう何も映らないみたい。見えるのは、金属と真っ赤な液体だけ。




「顔面セーフは通用しないんだよ〜!」




ケタケタと笑うなきりを手前、ピーという機械音と血が吹き出す音が遠くの方で聞こえてくるけど、もう何も聞こえなくなった。





(東條梓視点)


『グッドイブニング!5日目!残り人数がたったの5人になってしまいました。輝く彼に殺されようとした私ですが、もちろんうまく回避して、次たるは鬼との最終決戦。以上、私、東條梓からでした。』


ちょっと時間かけすぎた。多分これ下でなにか起こってるよね。大丈夫そうかな。


「鈴!!鈴ぅー!!」

「はーい。梓だよね?何か用?」


5日も連続でこうやってチェックしていれば、確かに私の声にも慣れるよね。


「運動場いくよ!多分生き残ってるのは、もう私たち含めてあと3人だから!」

「うそ!!なんでそんなに少なくなって…。」


扉をあけた鈴を問答無用で引きずると、すぐさま葵を連れ出す。


「葵!啓吾は??」

「啓吾は、部屋から出たくないって…。もうこんなの怖くて耐えられないんだって…。」


あくまでもそのキャラをやめたくないわけだ。


「まぁいいや!どうせ食堂に時間になったら現れるわけだし…。」


私達はそのまま運動場へと直行する。そこには首から血を噴出した日向と、顔面にナイフを突き刺した状態で命を失っている桃花、背中から血を流して死んでいる桜、そしてその中央で高らかに笑うなきり、いや百鬼がいた。


「百鬼…。すべてを白状してもらおうか。」



私はポケットから取り出した手帳を百鬼に見せつける。






(百鬼視点)


手帳を落としてしまった。楽しみすぎて、三角関係を文字通りぐちゃぐちゃにするのが楽しみすぎて、殺してしまうのが楽しみすぎて、浮かれていた。部屋を出たときくらいに落としたのだろうか。


「百鬼は手帳に何でも書き込む癖があってもんね。ここに全て書いてあったよ。残り人数はこんなに少ないけど、どうする?私たちとやり合う?」


梓は堂々としているけど、他の二人はどうやら状況がつかめていないようだし、もうひとりの生き残りはここには来ていない。勝機は…。


「ナイフだすのはやめときなよ。」



!?



私まだ何もしてないのになんで読まれた…の?



「ボディランゲージって知ってる?IVで今まで一緒に学んできたのに、私の特技すら知らなかったんだね。そんなの目線だけでわかるんだよ?」



梓は声利きもあったが、そうだ。人より少し五感が優れている。目に見えるちょっとした動作、音や匂い、触覚なんでもある。彼女はそういうものに、異常に敏感だ。


もっと警戒して、さっさと始末するべきだった。



「梓…。もとから気づいてて証拠を探してたのね…?」

「手帳は落としたわけじゃない、私が理沙の件のときに拝借しただけ。」


おそろくしも、読めない生徒。異質な人間は理沙の他にも何人かいたけど、他の生徒たちも、特に梓はいまいちどんな人間なのか把握しきれいていなかった。私以外にも梓を気持ち悪いと感じている人はいたし、妙に主人公ぶるところも、こういう正義感を見せつけてくるところも異質だ。


「梓、つまりどういうことなの?」


葵が困惑したように、梓に問いかける。


「つまりは、この手帳のとおり。今までの一連の殺人、全部とは言わないけど百鬼がほとんど行ってる。その上に、百鬼はこの試験中学のときにも一度受けていて、二回目なの。名前まで偽って、今回はやたら本気みたいだったけど。」


手帳は私の愛用のものだ。本当になんでも書いていた。それをあの瞬間、私が処刑で昂る瞬間に、奪っていたのか。抜け目ない。


勝機はとうとう…。




—―――


6日目。今日は私が殺される日。せめてあと一人道連れにしようと思ったけど、残ったペアの2人は厄介そうだから、諦めて死を選ぶことにする。


中学3年生のとき、IV制のおかげで卒業式に同じ形式の試験が行われた。そこで同級生がたくさん死んでいくのを見て、最初は殺さないで切り抜けようと思っていたけれど、だんだんとその場の空気に当てられて、殺しをしてみた。


「たすけて…。」

最初に一人はナイフが刺さった状態で助けを呼んできた。私がナイフを刺したのに、刺した相手に助けを求める、こんなもの恥もプライドもあったもんじゃない。醜くて、鬱陶しいけど、なんだか優越感に浸れた。


「あいつ、あいつならいいよ!あいつよくお前の悪口言ってたんだぜ??」

次の一人は、友達を売ってきた。それまでずっと楽しくおしゃべりしていたような相手を、売るなんて、正直虫唾が走るけれど、やっぱり面白かった。迫真の演技なんかではない、涙と鼻水で顔面をぼろぼろにしながら、大切な友達を命と天秤にかける様は実に滑稽だ。


「百鬼…。鬼みたいな名前だ…。本当にお前は鬼だったんだな。」

その次は、名前を指摘してきた。彼には気付かされた、確かに私の名前は特別な感じが漂ってしまうし、鬼なんて入っていれば警戒されかねない。この先もまた同じIV制に進もうと思っているのだから、名前はひらがな表記ってことにした方が都合がいいかもしれない。

「教えてくれてありがとね。」


「私、もう、嫌だよ。なきり。私を殺して。お願い。」

最後のやつは、私のペアだった。ペアは沢山の死を見てきて、私が殺したのも見てきて、それに耐えて社会で平然と生きていく、そんな化け物みたいな心を自分は持ち合わせていないんだという。だから自殺を望んだ。私は手伝ってあげた。せっかく試験に合格したというのにばかな奴だ。



たくさん殺した。



たくさん死んだ。



たくさん泣かれた。



たくさん笑ってやった。



だからこそ。




私の生涯で最も嫌なこと、それは誰かに殺されること。人を殺してきたからわかる。誰かに殺されようとしている人、そういう人の顔ってものは気持ちの悪いもので、恥さらしだ。だから、このままあの危険因子の二人に殺されるくらいなら、もうここで死んでおくのも手だ。ここまで十分に人数を減らしてきたんだ。私は十分な働きをした。


「きっと私は死んだら地獄に行くんだろうなぁ。」


もし死後世界が2つに別れていて、天国と地獄があるなら、あっても、そのどちらに

いっても、私はきっと死ぬまで殺しをやめないだろう。




「だって楽しいもの。」




私は私を殺してやった。








本日の死亡者))

小杉 桃花:恋心のせいで親友との仲に亀裂を入れるほど日向が好きだった。だからこそ、桜の存在が許せなかったが、最後の最後で桜を認めていた。女王様気質なところはあり、敗北を受け付けず、素直になれないだけであった。


椎名 日向:桜のことがずっと好きだからこそ、別れを告げられた事態に気が動転した。自分を庇い死んだ桜を見て、我を失う。どんな状況にあっても、日向にとって、桜とは、全てであった。


涼宮 百鬼:IV制二回目。一度目は、たった一人で試験を終え、今回もそのつもりだったが、梓に全てを見透かされ阻止された。ここまで念入りに調べてきている梓だからこそ、自分を殺す用意もできている。それがわかったからこそ、殺されるという屈辱から逃れるため自ら命を絶つ。本性はいわゆる快楽殺人犯であった。

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