幼馴染よ永遠に(4)

 美玲が机を勢いよく叩いたことに驚いて、誠は固まった。

 普段からテンションの起伏が激しい子だが、こんなに怒りを露わにしたのを見たのは初めてだった。

「みぃ…?どうしたの、大丈夫?」

 誠が美玲の肩に手を触れたのを、美玲は力いっぱい払いのけた。

「もういい加減にして!」

「なにが…?」

「この何日か色々ありすぎてもうっ、限界なの!アンタのせいで!いや、何日かなんかじゃない。何年も!昔っからそう!アンタが関わるとろくなことがないんだらっ…!!」

「俺…、そんなつもりじゃ…。ただ、みぃの側に居たいだけで…」

「それが迷惑だって言ってんの!!いい加減分かってよ!!」

 美玲はそう叫ぶとうずくまり、項垂れた。

 今この状況で、コイツに涙なんか見せたくない。

「もうこれ以上私に関わらないで…」

 こんなこと人として言っちゃいけない。けどもう、止めることは出来なかった。

「幼馴染同士になんて、生まれて来なきゃよかったっ…」

「美玲…」

「どっか行って」 

 美玲は蚊の鳴くような声でそう言った。

「行ってよっ!!」

 そう叫んだ美玲の体は、地面に貼り付いたように固まって動けなくなっていた。どのくらいそうしていたのか分からなかった。

 次の日、誠は朝迎えに来なかった。美玲の登校中も、いつものように後ろから着いて来て、声をかけてくることもなかった。

学校の廊下でも、学校中どこでも誠の顔は見かけなかった。

 誠は私を避けてるに決まってる。あんなに酷いことを言ってしまったから。

 私も同じ理由で避けてる。誠に会わせる顔がない。

 夏目が引き起こした騒ぎと、美玲と誠についての噂は生徒達の間で話題の的となったが、一週間程で収まった。夏目が今どうしてるのかはわからない。


 いつの間にか、そんな状態で一ヶ月程が経っていた。季節はすっかり冬になった。

 そして美玲の頭の中はというと、あと二週間後のドームコンサートのことでいっぱいだった。いや、そうしていないとあの日のことをついつい考えてしまうからだ。…誠のことも考えてしまう。

 忘れろ。今は現場に集中!

「えっと、ファンサうちわ用の材料買い足しに100円ショップ寄ってー、家帰ったらうちわ作りの続きして…」

 そうブツブツと呟きながら、美玲は校門を出ようとしていた。が…、

「あれ、スマホ、スマホ…、スマホ無い!?」

 鞄の中をいくら探しても無い。ブレザーとスカートのポケットにも無い。

「やんばいっ!」

 美玲たちの高校は携帯電話の持ち込みは良いが、校内での使用は禁止で、電源を切って鞄にしまっておく決まりだ(皆休み時間に教師の目を盗んで使っているが)。

 スマホを置き忘れたとすれば、教室の自分の机の中だろう。教師に見つかれば没収の上、反省文だ。そしてヲタクにとってスマホ無しの生活はありえない。

 今ならまだ、教師達が教室を巡回する時間には間に合う。

 せっかく校門まで来てたのに。

 美玲は回れ右をし、走って教室へ戻った。

 生徒達が部活へ行ったり、下校した後の放課後の廊下はシンッとしていてとても静かだ。美玲の足音だけが廊下に響く。

 美玲は自分のクラスの教室を覗いた。

 よし、先生はいない。鍵も開いてる。

 十分に確認し教室に入ると、誰かが美玲の机に腰掛けていた。あの後ろ姿は…

「誠…」

 美玲の声に振り向いたのは、やはり誠だった。

「久しぶり」

「なにしてんの」

 美玲は動揺を必死に隠した。

「ん〜、待ち伏せ?」

 本気なのか、冗談なのか。

「は?そこどいて」

「あっ、もしかしてこれ、探してる?」

 誠が掲げたのは、美玲のスマホだった。

 一体何が目的なんだろう。

「たまったま、みぃの教室通りがかったらさ、みぃの机にスマホ入ってるの見つけてさぁ」

 偶々だなんて、嘘に決まってる。

「返して」

「やだ」

 美玲は誠の手からスマホを取り上げようとした。だが、誠はそれをあっさりとかわした。

「返してってば」

「嫌だ」

「なんで!?」

 誠は美玲の腕を掴んだ。

「だってこうでもしないと会えないだろ!」

 誠は私に、会いたかったってことなの?

「私のこと避けてたくせに!」

「そっちこそ!」

「だって、だって…!…とりあえず手、離して。痛い」

「あっ、ごめん…」

 ほんの少しの時間、二人の間に気まずい沈黙ができた。

「俺のせいで、ずっとみぃに迷惑かけてたの分かってなくてごめん。……ずっと、みぃに会いたかった。みぃの顔が見たかった。みぃの声が聞きたかった。やっぱり俺、みぃの側に居たい」

「私は、私は……。わかんないっ」

 美玲は教室を飛び出し、がむしゃらに走った。

 私は誠みたいに素直になれない。

「あ、スマホ…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る