ヲタクな私の、恋愛備忘録。

海 にはね

恋の始まり(?)

 ヲタクの私が、恋なんてできないと思ってた。



 私、春野 美玲。恋に恋する、高校2年生!今日も気持ちの良い朝!

 …なんて、少女漫画のヒロインのようなことを頭の中で考えながら、私は今日も、お気に入りの曲を聴きながらいつもの通学路を歩いていた。

 私は、いわゆる『ヲタク』だ。今聴いているのは、大好きなアイドルグループ『Lover』の曲だ。推しは日野 翔太(愛称:しょーちゃん)。

 私には推しさえいれば、それでいい。私には推しが全て。

 …だが、そんな私のヲタクライフを邪魔してくる奴がいる。

「みぃ」

 るんるんで歩いていた美玲に、後ろから声をかけてきたのは、幼馴染の冬山 誠。家が隣同士で、二人が生まれる前から家族ぐるみで仲が良い。

 美玲は無視して歩き続けた。

「なー、みぃ!なー、なー、なー!!」

 あまりの煩さに、美玲はイヤホンを外した。

「もう、何!?」

「あ、聞こえてた」

 誠はわざとらしく小首を傾げた。

「着いてこないで!」

「だって学校一緒じゃ〜ん」

「うるさい、チャラ男」

 誠はチャラい。中学に入った頃から、急に背が伸びて、そこらの男子よりカッコよくなった。そしてモテ始めた。高校に入ってからは、茶髪に髪を染め、ピアスまで開けだした。

 昔はチビでぽちゃっとしてて、可愛らしかったのに。

「なんで毎日先に行っちゃうの〜?」

「別に一緒に行かなくていいでしょ」

 美玲はそっけなく答えた。

「それに、あんた彼女いるでしょ」

「いるよ?」

「彼女と一緒に行けば良いじゃん」

「なんで?家の方向違うよ?」

「恋人同士ってそういうもんじゃないの!?」

「え、そうなの!?」

 誠は素で驚いたようだった。

「だから俺、いつも『つまんない』ってフラれるのか〜」

 誠は新たな発見をしたように呟いた。

「まあ、いいや。みぃと行くし」

「それ、やめて」

「え?」

「その呼び方やめて」

 誠は美玲のことを、『みぃ』と呼ぶ。幼い頃からずっとこの呼び方だ。

「みぃは、みぃじゃん」

「はぁ、もういい」

 こんなふざけた奴に付き合ってられん。

 そんなことをヤイヤイ言っている間に、学校に着いてしまった。結局いつもこうだ。


「美玲!」

 誠と別れて、教室に入ると、美玲の唯一のヲタ友の亜紀が、血相を変えて駆け寄ってきた。

「どしたのあきちゃん」

「SNS見た!?」

「見てないけど」

 誠に絡まれていたせいで、今朝は日課のSNSチェックがまだできていない。

「早く見て!」

「なんで?」

「いいから!!」

 美玲は渋々と、SNSを開いた。するとすぐに、思いもよらないニュースが飛び込んできた。

「うそぉーーーーーんっ!!」


「ね〜、みぃ〜?」

 布団に包まって、大福のようになっている美玲に、誠はずっと声をかけ続けている。

 美玲は今日一日、魂が抜けたように授業を受け、帰宅後は着替えもせずにこの状態になった。

 どうでもいいが、なんで勝手に私の部屋にいるんだ、お前は。

「熱愛報道ぐらいで、そんなに落ち込むなよ」

 その言葉に、美玲は勢いよく立ち上がった。

「『熱愛報道ぐらい』?」

「あ、出てきた」

 誠はパチパチと拍手した。

 今朝、しょーちゃんの熱愛が報道された。

「そりゃ、あんなイケメンに彼女がいないわけないと思ってたよ?思ってたけど!でも!どっかで夢見てたの!もしかしたらもしかするかもとか、思っちゃってたのー!!」

 お相手は去年に主演したドラマでヒロイン役だった、今の若手人気ナンバーワンの女優だった。

 あんな超絶美人に、敵うわけないじゃん。

 美玲は一気に叫ぶと、また布団に包まった。

「も〜、また大福にならないの」

 誠は布団から美玲を引っ張り出し、ちゃんと座らせた。そして、美玲の頬を両手で包み込んだ。

「みぃ?」

「はい…」

「こっち向いて」

 これは幼い頃から、私が泣いたり落ち込んだりすると、誠がしてくれる、おまじないのようなもの。誠がこうしてくれると、いつも何故か涙が止まって、笑顔になれた。

 そして最後はこう言って終わる。

「俺はみぃの笑ってる顔が好きだよ」

 だが今日は、続きがあった。

「みぃ、好きだよ」

 これは、ヲタクの私が幸せな恋をする物語。…のはず。

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