嫁の親父がクズだった

松平

第1話

 私は作家を目指しているわけではなく、小説を書いた経験もない。

自分の人生で起きたことを何かに記録したいと思い、文才も何もないが、ここに記録して行こうと思う。



 

 この章は嫁の親父に出会うまでの簡単なエピソードです。

本文はこんなに長文ではないので(長いなー)と思ったら飛ばしていただいて大丈夫です。



 東日本大震災から1ヶ月後、宮城県に暮らしていた彼女(現在の嫁)と私は実家である青森に帰郷した。宮城県で大手百貨店に努めていた私が実家に戻り一番最初に困ったことは「就職先」である。

 今でこそ近所にドラッグストアとか100円ショップなどがあるが、戻ってきた当時は、小さなスーパーがひとつあるだけの小さな小さな町だ。簡単に就職先なんて見つからない。めちゃくちゃ困った。

地元の友人のほとんどは町に数カ所ある建設会社か、親の建設会社に努めている。

もはや建設会社と農家しかないような小さな小さな町である。だからめちゃくちゃ困った。

 次に困ったのは「移動手段」である。この田舎ではどこへ行くにも自家用車が絶対的必須アイテムであり、電車やバスはほとんど走っていない。まったくの余談ではあるが、震災後は被災した車が積載車に載せられ大量に青森県に流れて来ていたようだ。都会では信じられないかもしれないが、怪しい車屋がいくつもあって、そこから格安で買うと被災した車だったりするらしい。実際友人が破格で買った車にエンジンスターターを付けようと内装のパネルを外していたら、潮や泥がこびりついて腐ったパーツが顔を出したのだ。

そんなこともあり、すぐに車を買うことはしなかった。心の中ではまた宮城県に戻りたいという気持ちもあったので。

 ということでとりあえず親の車を借り、就職活動を開始。りんご農家や結婚式場、メガネショップに米の卸し業者...、軒並み面接で落とされた!

どれもハローワークで未経験者歓迎と記載されている求人情報だったが、いざ面接に行ってみると「経験者が欲しいんだよねぇ」

人が少ない田舎では、新人に教える余裕はないようだった。確かにその通りだ。数人から十数人程度の小さな会社ばかりで、まったく何もわからない新人に一から仕事を教える時間はないのだろう。

 とりあえず友人の紹介で、期間付きの剪定せんていのバイトなどをしながら日々を過ごしていた。

 一緒に帰ってきた彼女はというと、父親が経営者らしく、その会社で給料をもらいながらパソコンを教えてもらっているとのこと。

給料をもらいながら?パソコン教えてもらってるならお金払う側なのでは?

後に知ったことだが「若者チャレンジ」という助成金を巧みに使い、国からお金をもらいながらパソコンを勉強していたようだ。

助成金なんて聞いたこともなかったくらいのものなので、その時はたいして気にもしていなかった。

 そんな時、パソコン命の同級生が会社を立ち上げるから一緒にやらない?という声がかかった。それもなんか面白そうだと思い、即OKしたが、よくよく考えたら私はパソコンなんてたいして得意じゃない。ということで職業訓練に通うことに決めたのだった。

 いつも通っているハローワークの玄関にパソコン教室の広告があり、失業保険をもらいながら再就職のための技術を身に着けるというのが職業訓練だ。万年就職難の田舎だから応募者も多く、結構な難関だったが運良く合格し、3ヶ月間の職業訓練がはじまったのだ。

 訓練内容はパソコンの基本操作やワード・エクセルの操作、ソフトを使ったホームページ作成だったが、もっと上を目指したい人は個人的にホームページをコードで書いていく勉強もできた。

 同級生とパソコン関係の仕事をするのだから頑張らなくてはと思い、コード入力の上級試験を受けられるまでになった。

余談だが試験中に地震が起きて大変だった。

無事、試験に合格し職業訓練を終えた私は、早速同級生と株式会社を立ち上げの準備に入った。

経営などまったくわからない20代の若者が会社を立ち上げるのだ。無知とは恐ろしい。

 それと同時期に、私は初めて彼女の父親と会うことになった。

田舎には似つかわしくない小洒落た喫茶店を指定され、私と彼女がそこに向かった。

なかなか緊張した記憶がある。

 件の父親はというと、終始ヘラヘラし、やたらよく喋る。話の内容は自分の功績や自慢話で埋め尽くされていた。会話の節々に有名実業家のような名言?のようなものが織り込まれていて、未熟な私はあっという間にこの男を「すごい人」と思い込んでしまったのだった。これを書いてるだけでも反吐が出そうだが。

 きっとその時あの男は私のことを(こいつは洗脳できる!こいつは使える!)と思っていたのだろう。

 こうして私の背中には巨大な疫病神が憑いたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る